君が見た夢の正体について教えよう

姉・奈津美との思い出といえば、
まだ俺が5歳、姉が13歳の頃の出来事を思い出す。

当時、中学生に上がったばかりの奈津美は、母親が急用で家を空けることになってしまい、急遽、俺と二人で留守番を任せられた。

「夕方には帰るから、奈津美、頼むわね」そう言って、きちんと昼食を用意してからバタバタと外出する母。

昼食を食べ終えた後、テレビを見ていた奈津美は、ワイドショーの料理コーナーを見て、

「映二郎、私たちで、お母さんに夕食を作ってあげたら喜ぶと思わない?」と提案してきた。

目を輝かせながら、聞かされた計画は、内緒で夕食を準備して、疲れて帰ってきた母を驚かせるという内容だった。
奈津美が冷蔵庫の中身を確認して、「大丈夫、イケる!」と言いながら、材料を出していく。

メニューはハンバーグをつくるようだった。

結果は大失敗。
玉ねぎを包丁でみじん切りにしようとした奈津美が、料理本に気を取られ、指を切ってしまった。
痛い痛いと言いながら包丁をまな板に置き、ティッシュを探す奈津美の腕がまな板にぶつかる。
まな板の上の包丁が振動で床に落ちる。

隣で合いびき肉をこねる担当だった俺は、自分のふくらはぎが熱くなった感覚に目をやる。
落ちた拍子に包丁がふくらはぎを傷をつけていた。
血が流れるのを見て俺はパニックで泣きだした。

奈津美は指から血を出しながら、「映二郎!肉触った手で触れちゃダメ!」と必死に制止した。
奈津美は「なんとかするから」そう言いながら俺の傷口にティッシュを押し当ててくる。
痛みと混乱で泣き叫ぶ俺に
「ごめんってば!映二郎」と謝るうちに、つられて奈津美も泣き出してしまった。

計画通り、母は大変驚いただろう。
帰宅したら我が子二人が血を流しながら大号泣し、床には野菜の切れ端が大量に散乱している光景。

俺たち二人はこっぴどく怒られた。

後でわかったことだが、奈津美がハンバーグを作ろうとしたのは、亘理家では煮込みハンバーグが一番人気のおかずだったから、そういう理由らしかった。

8つも歳が離れていると、子供時代の姉は絶対的な存在だった。
本人はリーダーシップがあって明るい性格だと思っている。
遊びやお手伝いの計画を言い出すのはいつも奈津美で、その度に俺は振り回されていた気がする。

あまり計画的ではない性格の姉は高校を卒業すると、当時のアルバイト先の正社員、隆之さんと交際を始めて、21歳で授かり婚をした。
なんとなく、奈津美からアプローチをかけたのだとわかった。

思いついたら一直線で、周りを巻き込む性格。
奈津美の性格を一言で説明するとこうなる。
結婚して家を出た際には、ようやく姉の支配から抜けられると安心する気持ちが少なからずあった。

だが、俺は決して奈津美のことが嫌いではない。
弟の俺は奈津美にとっては守るべき存在で、愛情を感じることが多かったからだ。
その反面、思春期以降、両親には反発する場面をよく見てきた。

常識的に考えてそれは健全な少年少女が通る道であり、奈津美は気の強さこそあれ、ごく普通の大人の女性に成長した。

妊娠後、お腹が大きくなる前に開いた結婚式で、両親に感動のスピーチをして涙を流し、家族と友人に祝福されながら、彼女はライフステージを新たな段階へ進めた。

彼女にとって、自分の家族というものは人生の功績であり、自分の価値の大部分を占めるモノであることは疑いようがなかった。

戸塚家には崩壊の兆しがある。
彼女の大事な家族というモノが。

俺は何も起こらないことを祈った。