「何だよコレ」
出来の悪いモキュメンタリーホラーか。
冗談にしてもタチが悪過ぎる。
本来だったら、そうやって一蹴してやりたかった。
無言の間が続いたが、佑斗が口を開く。
「高橋、連絡つかないと思ったら、これ見て」
オカルトチャンネルに新しいリンクが貼ってあった。
リンクを踏むと高橋くんのチャンネルが開設されていた。
開設日はあの日、ファミレスで佐藤由美子に会った翌日だった。
だが、肝心の動画は投稿されていない。
この動画ファイルは未編集の状態だ。
「これ、最後に映像を切ったのは誰?」
「……高橋くん自身ってのは、楽観的過ぎですよね」
「このカメラを送ってきた奴かもしれんな」
「もしそうだとして、何で事務所の住所を知ってるんだよ?」
佑斗の疑問には俺も同感だった。
高橋くんの持ち物から、この探偵事務所に辿り着いたのか?
身分証を携帯していたとしても、アルバイト先の情報なんてわかりようがない。
スマホにここの住所が入っていた?
今時、アドレス帳にそこまで入力するだろうか。
そもそも、探偵事務所にカメラを送りつける理由がわからない。
疑問符ばかりが思い浮かぶ。
むしろ高橋くんが冗談で行ったと考えるのが一番腑に落ちた。
「説明がつきません。やっぱり、高橋くんのイタズラですよ」
「せやな。全く、次会ったら洒落にならんで」
「でも、無断欠勤で一週間も連絡取れてないよ」
気まずい空気が流れる。
「念の為、警察に連絡した方がいいんじゃないの」
「まあ、イタズラって判断される可能性は高いけどな。
一旦、高橋の実家に連絡するのが先やろ。
家族から警察に相談するのが一番スムーズやし。
佑斗、高橋の履歴書に緊急連絡先の番号あったやろ」
「あ、うん」
佑斗が机の引き出しからファイルを取り出し、紙の履歴書を探す。
「貸して、俺が掛ける」
佑斗から履歴書を渡され、旭さんのスマホに番号を入力して掛けてみる。
「…………。はあっ!?なんやねん!」
スマホの通話ボタンを切ると、旭さんは履歴書を机に叩きつけた。
「どうしたの」
「あいつ!嘘の電話番号、書きよった!」
どうやらコール音もせず、
“お客様がお掛けになった番号は現在使われておりません”というメッセージが流れたらしい。
旭さんが苛立たしげに頭を掻く。
叩きつけた履歴書を手に取り、もう一度見直している。
「さすがに、住所は嘘書かへんやろ。
あいつ、一人暮らしだっけか。
ほんなら大家に掛け合って、実家の番号教えてもらうしかあらへんけど、正直時間かかると思うで」
旭さんの隣で、佑斗は口元に手を当てて何かを考え込んでいる。
そして、こう言った。
「もし、あの場所に高橋以外の第三者がいたとしたら、ソイツが高橋の居場所を知ってるんじゃないの」
「え」
「二人がグルだとしても、そうじゃなくても何らかの情報は持っているかもしれない」
『第三者』その言葉を聞いて、動画内で聞いた彼の発言が頭をよぎった。
「山小屋の管理人……」
俺は頭に浮かんだ単語を口に出す。
「あ?誰やねん」
「確かに、動画の中で言ってた。声かけられて、道を教えてもらったって」
佑斗が貴重な手がかりを見つけたと言わんばかりに、俺に同意してくる。
「どうする?」
「現場に行って、その管理人さんに聞いてみるのがいいと思う。
もし、声をかけた時に高橋が誰かと一緒だったら、“仕込み”だった可能性が出てくる」
佑斗の提案を聞いて、俺は「むしろ、そうであってほしい」と思った。
「俺は管理人に会いに行ってくる。雇い主としてはじっとしてらんないから」
「わかった。……映二郎は、どうする?」
旭さんが神妙な面持ちで聞いてきた。
「行きます」
即答していた。
佑斗の勢いに完全に背中を押されていた。
一方で、頭の冷静な部分が、ひとつの可能性を除外できずにいる。
あの動画が “仕込み” でなかった場合のことを、俺は無意識に考えないようにした。
