5月初旬、都内某所。
雑居ビルが立ち並ぶ通りで、俺はある住所を探していた。
ナビアプリで目的地までのルートを辿りながら歩く。
ワイシャツにノーネクタイのサラリーマンが忙しそうに、目の前を通り過ぎた。
道路を走る運輸トラックから生ぬるい排気ガスが排出されて強制的に肺に取り込まれる。
自分の寿命が幾ばくか削られたことに少し嫌な気分になっていると、目的地に辿り着いた。
古びたビルの2階、コンクリートの階段を登る。
『宮下・長谷川 探偵事務所』と記載されたドアプレートを確認すると、俺は一呼吸置いてからドアノブを回した。
ドアを開けると、入り口から一番近い席に座っている若い男性が、座ったまま顔だけをこちらに向けてくる。
目があった瞬間、歯をニカっと見せて「こんにちは。ご依頼ですか」と聞かれた。
俺が「長谷川さんと会う約束をしている、亘理(わたり)という者ですが」と言ったところで、部屋の奥から
「映二郎、よぉ来たなぁ!」カラッとした明るい関西弁が聞こえた。
目線をそちらにやると、短髪で茶髪の男性が「こっち、こっちや」と応接テーブルのソファから、手招いている。
俺は入り口の若い男性に軽く会釈だけして、部屋奥の応接スペースに移動した。
「お久しぶりです。旭さん」
俺は1年半ぶりに長谷川 旭(はせがわ あさひ)さんと再会した。
長谷川 旭さんはYouTubeの人気配信者だ。
元警察官という異色の経歴を持ち、数多くの修羅場を通ってきた彼は、全国の心霊スポットを巡ったり、事故物件と言われる場所に宿泊したりする様子を配信した。
「幽霊は、まあ、いるかもしらんが生きてる人間のが怖いで」そう言いながら笑う様子にコメントでは「説得力がヤバイ」「メンタル強すぎて草」「旭の配信なら怖くないから安心して見られる」などの声が多く書き込まれた。
5年前に開設した彼の『オカルトチャンネル』は登録者数100万人を達成しており、俺もファンの一人だ。
自身もオカルト考察系チャンネルを運営していたが、登録者数が10万人を超えてからは数字が横ばいで、端的に言うと伸び悩んだ。
思い切って旭さんにコラボ依頼のDMを送り、1回だけコラボをさせてもらった。
実際に会った際、初対面だと言うのに俺はチャンネル伸び悩みの相談をしてしまった。
旭さんは嫌な顔せずに親身になって話を聞いてくれた。
画面裏でも変わらない態度に、俺は彼のことが一層大好きになった。
その後はネット越しの交流をしばらく重ねていたが、現在は学業と就職活動が忙しくなり、活動からも旭さんからも距離ができてしまった。それでも、当時の思い出は俺にとって大切な青春の一部だった。
「映二郎、コーヒーと紅茶どっちが良い?」
「あ、じゃあコーヒーで」
旭さんが若い男性に
「高橋、コーヒーお願い」と声をかける。
若い、と言っても自分とそう変わらない年齢であろう男性は「は〜い」と答える。
「旭さん、お元気そうで何よりです」
「おう、映二郎もな。今、大学何年生だっけ」
「4年です」
「就活とかしてんの」
「まあ、ぼちぼちです」
スーツ姿の俺を見て、旭さんが就活の話題を続ける。
「最近は早めに内定出す企業もあるって聞いたで」
「まあ、業界にもよりますけどね」
俺はチラリと、旭さんの隣に目を向けた。
そこにはもう一人、俺と同年代くらいの男性が座っていた。
黒髪のミディアムヘアに赤いメッシュがいくつも入っていて、両耳にはしっかりとピアスが空いている。
リアルなゾンビイラストがプリントされた黒Tシャツを着ていて、そこから覗く腕には、シルバーアクセと色とりどりのブレスレットを幾つも重ね付けしている。
よく見るとメンズメイクもしているようで、探偵事務所よりもロックバンドのライブハウスが似合う見た目だった。
彼の名前は宮下 佑斗(みやした ゆうと)、この探偵事務所の所長だと紹介された。
こんなロックな見た目で所長とは、一体、どんな人なのだろうと最初は思った。
だが、彼はボソボソと聞こえづらい声量で名前を名乗った以降は何も喋らなかった。
そして一度も目を合わせようとしない。
今も、俺たちの会話を全く聞いていない様子でスマホを覗き込んでいる。
普通は相槌を打ちながら調子を合わせるとか、話には入らずとも愛想笑いくらいはするだろ。
就活の企業面接を繰り返しているおかげで、嫌でも身についた社会人としてのマナーだった。
もし宮下の態度で面接に望んでも、採用されることはないと断言できる。
(人見知りだとしても、ちょっと失礼じゃないか?)
こういう時に思う。
想像力って大事だよな。
相手がどう思うか、周りがどう感じるか。
自分を客観視できるのが大人だろ。
呆れてしまった俺は旭さんの方向に身体を向け、彼を視界の端に追いやった。
「それで、映二郎のお姉さんが今回の依頼人だったな」
「はい、奈津美って名前で、結婚して今はK県に住んでます」
「K県のどこ?」
「××市って場所で、ここからは車で1時間半くらいですね」
「ふうん、まあ距離的にはギリ許容範囲内やな。調査にかかる交通費は請求させてもらうけど、構わへんか」
「あ、はい、大丈夫だと思います」
「友人割引ってことで安くしたるからな」
「旭、勝手なこと言わないで」
ずっとダンマリだった宮下が、釘を刺してくる。
「ケチなこと言うなや〜。俺の大事な後輩やで」
「なんの後輩だよ。普段は旭のがめっちゃケチのくせに変な見栄張らないで」
宮下は目線をスマホに落としたまま、妙にダルそうな喋り方でツッコミを入れている。
2人のテンションには落差があるものの、謎にテンポ感が良いやりとりだった。
(まあ、一緒に探偵事務所を開くなら、仲は良いよな)
「じゃあ、友人割引する代わりに映二郎にも調査を手伝ってもらったらええやん」
「ん?」
(気のせいか?調査を手伝うとか聞こえたが)
それから俺は姉・奈津美からの依頼内容を伝えた。
最近、夫の様子がおかしく不倫を疑っている。
ある女教師が娘の担任になってから夫の帰りが遅くなったり、態度も以前と違うので調査してほしい、というものだった。
正直、不倫を疑う根拠が薄いと思った。
依頼を受けてもらえるか不安だったが、旭さんはあっさり受諾すると、詳しい調査方法や料金体系を説明してくれた。
途中で宮下が説明の補足や、旭さんが内容を多めに盛って話す所を修正してくる。
旭さんが、「もう佑斗が説明代わってくれん?俺、細かいことわからへん」と言うと、宮下は「わかった、いいよ」そう言って対応を交代した。
旭さんに比べると声は小さいし、話し方もたどたどしいが、内容はとてもわかりやすかった。
俺は、なるほどと納得した。
旭さんは配信活動をしていた頃から、大部分を勢いとノリでなんとかするスタイルで、LIVE感が重視される生配信では彼のやり方は物凄く好評だった。
だが、論理的に説明をしたり、複雑な話をする場面では、すぐに「わからへん」と投げ出すのだ。
彼のあっけらかんとした様子と重々しいオカルトの雰囲気の対比が面白くて、それはそれで人気理由のひとつではあった。
だが、こういった事務的な場面には向いていない。
おそらく、宮下佑斗の役割は彼の足りない部分をサポートすることなのだろう。
あくまでも探偵事務所の"顔"は旭さんだが、実務作業については宮下所長が指揮を執っているのだと予想した。
「じゃあ、この内容で大丈夫なら契約書作成しますけど」
「一応、姉に確認します」
依頼を受けてもらえそうなこと、説明内容と料金について簡単にまとめてメッセージを送る。
事前に事務所から連絡することを伝えていたので、すぐに既読がついた。
姉からの返信を待っている間、宮下は「娘さんのクラス担任が不倫相手かもって話ですけど」と切り出す。
「もしかして、娘さんは⚪︎⚪︎小学校の生徒ですか」
「え?いや俺はそこまで知りませんが、姉に確認してみますか」
「お願いします。学年とクラスも確認してください」と言われた。
俺は追加でメッセージを送って、数分後に返信が来た。
奈津美の娘・戸塚 遥(とつか はるか)
⚪︎⚪︎小学校 4年生 クラスは4ー1
「実は今回みたいな通常の依頼とは別に、オカルト系の調査依頼も受けているんです」
「オカルトの調査?」
「俺ら宛のDMでちょくちょく、こういう依頼がな、来るんよな」
「この遥ちゃんと同じ小学校のリスナーから何件か似たようなDMが来てる」
宮下は後半は俺にではなく、旭さんに向けて話している。
以下がDMの内容だった。
DM依頼主1
『旭さん、オカルトチャンネル運営のみなさん 初めまして
私はK県××市の小学4年生です。
ここ1ヶ月くらいですが、何度も変な夢を見ました。
どこか知らない場所で、女の人がこちらを見ている夢です。
足元にたくさんの百合の花のような何かがありました。』
DM依頼主2
『オカルトチャンネルの皆さん、こんにちは。
僕は遠藤 努といいます。
最近の悩みは、こわいユメを見ることです。
山の中で白い女におそわれるユメです。
ユメの中では、いつも白い花?つぼみの花?が地面に生えている場所にいます。
ここ1週間くらい同じユメを見ています。こわくて毎日ふるえています。
僕はK県××市の⚪︎⚪︎小学校に通っています。よろしくお願いします。』
DM依頼主3
『旭さん、たすけてください
白い女がゆめで近づいてきます
もうずっと眠れていません
私はユーレイにころされますか
どうかたすけてください
携帯:×××ー××××ー××××
住所:K県××市⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎1−2
⚪︎⚪︎小学校3年 斎藤 希美』
「同じK県だから、不倫調査と並行して調べよう」
「DMの時期はバラバラやな。赤の他人が同じ夢を見る、ね」
「旭さんのチャンネル、再開するんですか」
俺は思わず食いついた。『共有夢の謎』に迫る。しかも噂や都市伝説ではなく、
実際の当事者に話を聞くとか、おもしろそうじゃないか。
「オカルトチャンネルではやらんで。佑斗のチャンネル用やな」
「あ、そうですか」
俺はガッカリ感が隠せず、思わずうなだれた。
「というか、映二郎、お前なに他人面してんねん。これから一緒に調査するんやで」
「ええ!?もしかして、さっきの本気で言ってたんですか」
「当たり前や」
「こっちは就活で忙しいんですよ」
「じゃあ、少しはバイト代も出す」
「お金の問題じゃなくて、時間の問題です」
正直言うと、俺にとっては魅力的でしかない提案だったが、就活生はESの添削、面接対策、企業研究などやることが一杯で時間が足りないのだ。
「旭さんの頼みやでぇ?映二郎くん」
「うっ、ずるい」
この人は俺が断れないと踏んで無茶振りしている。1年半ぶりに会う、しかも直接会うのはまだ2回目なのに、熱烈なファンだと知られていることが仇となった。
「わかりました。できる限りお手伝いします。全く収入がないのも困りますからね」
俺は気を取り直して宮下の方へ向き直る。
「というか、宮下さん個人チャンネルお持ちなんですね。やっぱりオカルト系ですか」
「まあ、配信じゃなくて動画中心ですけど、オカルトとか心霊現象系……」
「チャンネル名教えてくださいよ。チャンネル登録します」
俺は検索窓に教えてもらったチャンネル名を入力する。
”ユウト・オカルト考察チャンネル 登録者数8,400人”
登録ボタンを押そうとして、指が一瞬止まった。
「登録しました」
「……どうも」
彼は相変わらずこちらを見ない。
視線を感じたので、そちらに目線を向けると、旭さんが笑みを浮かべて俺を見ていた。
雑居ビルが立ち並ぶ通りで、俺はある住所を探していた。
ナビアプリで目的地までのルートを辿りながら歩く。
ワイシャツにノーネクタイのサラリーマンが忙しそうに、目の前を通り過ぎた。
道路を走る運輸トラックから生ぬるい排気ガスが排出されて強制的に肺に取り込まれる。
自分の寿命が幾ばくか削られたことに少し嫌な気分になっていると、目的地に辿り着いた。
古びたビルの2階、コンクリートの階段を登る。
『宮下・長谷川 探偵事務所』と記載されたドアプレートを確認すると、俺は一呼吸置いてからドアノブを回した。
ドアを開けると、入り口から一番近い席に座っている若い男性が、座ったまま顔だけをこちらに向けてくる。
目があった瞬間、歯をニカっと見せて「こんにちは。ご依頼ですか」と聞かれた。
俺が「長谷川さんと会う約束をしている、亘理(わたり)という者ですが」と言ったところで、部屋の奥から
「映二郎、よぉ来たなぁ!」カラッとした明るい関西弁が聞こえた。
目線をそちらにやると、短髪で茶髪の男性が「こっち、こっちや」と応接テーブルのソファから、手招いている。
俺は入り口の若い男性に軽く会釈だけして、部屋奥の応接スペースに移動した。
「お久しぶりです。旭さん」
俺は1年半ぶりに長谷川 旭(はせがわ あさひ)さんと再会した。
長谷川 旭さんはYouTubeの人気配信者だ。
元警察官という異色の経歴を持ち、数多くの修羅場を通ってきた彼は、全国の心霊スポットを巡ったり、事故物件と言われる場所に宿泊したりする様子を配信した。
「幽霊は、まあ、いるかもしらんが生きてる人間のが怖いで」そう言いながら笑う様子にコメントでは「説得力がヤバイ」「メンタル強すぎて草」「旭の配信なら怖くないから安心して見られる」などの声が多く書き込まれた。
5年前に開設した彼の『オカルトチャンネル』は登録者数100万人を達成しており、俺もファンの一人だ。
自身もオカルト考察系チャンネルを運営していたが、登録者数が10万人を超えてからは数字が横ばいで、端的に言うと伸び悩んだ。
思い切って旭さんにコラボ依頼のDMを送り、1回だけコラボをさせてもらった。
実際に会った際、初対面だと言うのに俺はチャンネル伸び悩みの相談をしてしまった。
旭さんは嫌な顔せずに親身になって話を聞いてくれた。
画面裏でも変わらない態度に、俺は彼のことが一層大好きになった。
その後はネット越しの交流をしばらく重ねていたが、現在は学業と就職活動が忙しくなり、活動からも旭さんからも距離ができてしまった。それでも、当時の思い出は俺にとって大切な青春の一部だった。
「映二郎、コーヒーと紅茶どっちが良い?」
「あ、じゃあコーヒーで」
旭さんが若い男性に
「高橋、コーヒーお願い」と声をかける。
若い、と言っても自分とそう変わらない年齢であろう男性は「は〜い」と答える。
「旭さん、お元気そうで何よりです」
「おう、映二郎もな。今、大学何年生だっけ」
「4年です」
「就活とかしてんの」
「まあ、ぼちぼちです」
スーツ姿の俺を見て、旭さんが就活の話題を続ける。
「最近は早めに内定出す企業もあるって聞いたで」
「まあ、業界にもよりますけどね」
俺はチラリと、旭さんの隣に目を向けた。
そこにはもう一人、俺と同年代くらいの男性が座っていた。
黒髪のミディアムヘアに赤いメッシュがいくつも入っていて、両耳にはしっかりとピアスが空いている。
リアルなゾンビイラストがプリントされた黒Tシャツを着ていて、そこから覗く腕には、シルバーアクセと色とりどりのブレスレットを幾つも重ね付けしている。
よく見るとメンズメイクもしているようで、探偵事務所よりもロックバンドのライブハウスが似合う見た目だった。
彼の名前は宮下 佑斗(みやした ゆうと)、この探偵事務所の所長だと紹介された。
こんなロックな見た目で所長とは、一体、どんな人なのだろうと最初は思った。
だが、彼はボソボソと聞こえづらい声量で名前を名乗った以降は何も喋らなかった。
そして一度も目を合わせようとしない。
今も、俺たちの会話を全く聞いていない様子でスマホを覗き込んでいる。
普通は相槌を打ちながら調子を合わせるとか、話には入らずとも愛想笑いくらいはするだろ。
就活の企業面接を繰り返しているおかげで、嫌でも身についた社会人としてのマナーだった。
もし宮下の態度で面接に望んでも、採用されることはないと断言できる。
(人見知りだとしても、ちょっと失礼じゃないか?)
こういう時に思う。
想像力って大事だよな。
相手がどう思うか、周りがどう感じるか。
自分を客観視できるのが大人だろ。
呆れてしまった俺は旭さんの方向に身体を向け、彼を視界の端に追いやった。
「それで、映二郎のお姉さんが今回の依頼人だったな」
「はい、奈津美って名前で、結婚して今はK県に住んでます」
「K県のどこ?」
「××市って場所で、ここからは車で1時間半くらいですね」
「ふうん、まあ距離的にはギリ許容範囲内やな。調査にかかる交通費は請求させてもらうけど、構わへんか」
「あ、はい、大丈夫だと思います」
「友人割引ってことで安くしたるからな」
「旭、勝手なこと言わないで」
ずっとダンマリだった宮下が、釘を刺してくる。
「ケチなこと言うなや〜。俺の大事な後輩やで」
「なんの後輩だよ。普段は旭のがめっちゃケチのくせに変な見栄張らないで」
宮下は目線をスマホに落としたまま、妙にダルそうな喋り方でツッコミを入れている。
2人のテンションには落差があるものの、謎にテンポ感が良いやりとりだった。
(まあ、一緒に探偵事務所を開くなら、仲は良いよな)
「じゃあ、友人割引する代わりに映二郎にも調査を手伝ってもらったらええやん」
「ん?」
(気のせいか?調査を手伝うとか聞こえたが)
それから俺は姉・奈津美からの依頼内容を伝えた。
最近、夫の様子がおかしく不倫を疑っている。
ある女教師が娘の担任になってから夫の帰りが遅くなったり、態度も以前と違うので調査してほしい、というものだった。
正直、不倫を疑う根拠が薄いと思った。
依頼を受けてもらえるか不安だったが、旭さんはあっさり受諾すると、詳しい調査方法や料金体系を説明してくれた。
途中で宮下が説明の補足や、旭さんが内容を多めに盛って話す所を修正してくる。
旭さんが、「もう佑斗が説明代わってくれん?俺、細かいことわからへん」と言うと、宮下は「わかった、いいよ」そう言って対応を交代した。
旭さんに比べると声は小さいし、話し方もたどたどしいが、内容はとてもわかりやすかった。
俺は、なるほどと納得した。
旭さんは配信活動をしていた頃から、大部分を勢いとノリでなんとかするスタイルで、LIVE感が重視される生配信では彼のやり方は物凄く好評だった。
だが、論理的に説明をしたり、複雑な話をする場面では、すぐに「わからへん」と投げ出すのだ。
彼のあっけらかんとした様子と重々しいオカルトの雰囲気の対比が面白くて、それはそれで人気理由のひとつではあった。
だが、こういった事務的な場面には向いていない。
おそらく、宮下佑斗の役割は彼の足りない部分をサポートすることなのだろう。
あくまでも探偵事務所の"顔"は旭さんだが、実務作業については宮下所長が指揮を執っているのだと予想した。
「じゃあ、この内容で大丈夫なら契約書作成しますけど」
「一応、姉に確認します」
依頼を受けてもらえそうなこと、説明内容と料金について簡単にまとめてメッセージを送る。
事前に事務所から連絡することを伝えていたので、すぐに既読がついた。
姉からの返信を待っている間、宮下は「娘さんのクラス担任が不倫相手かもって話ですけど」と切り出す。
「もしかして、娘さんは⚪︎⚪︎小学校の生徒ですか」
「え?いや俺はそこまで知りませんが、姉に確認してみますか」
「お願いします。学年とクラスも確認してください」と言われた。
俺は追加でメッセージを送って、数分後に返信が来た。
奈津美の娘・戸塚 遥(とつか はるか)
⚪︎⚪︎小学校 4年生 クラスは4ー1
「実は今回みたいな通常の依頼とは別に、オカルト系の調査依頼も受けているんです」
「オカルトの調査?」
「俺ら宛のDMでちょくちょく、こういう依頼がな、来るんよな」
「この遥ちゃんと同じ小学校のリスナーから何件か似たようなDMが来てる」
宮下は後半は俺にではなく、旭さんに向けて話している。
以下がDMの内容だった。
DM依頼主1
『旭さん、オカルトチャンネル運営のみなさん 初めまして
私はK県××市の小学4年生です。
ここ1ヶ月くらいですが、何度も変な夢を見ました。
どこか知らない場所で、女の人がこちらを見ている夢です。
足元にたくさんの百合の花のような何かがありました。』
DM依頼主2
『オカルトチャンネルの皆さん、こんにちは。
僕は遠藤 努といいます。
最近の悩みは、こわいユメを見ることです。
山の中で白い女におそわれるユメです。
ユメの中では、いつも白い花?つぼみの花?が地面に生えている場所にいます。
ここ1週間くらい同じユメを見ています。こわくて毎日ふるえています。
僕はK県××市の⚪︎⚪︎小学校に通っています。よろしくお願いします。』
DM依頼主3
『旭さん、たすけてください
白い女がゆめで近づいてきます
もうずっと眠れていません
私はユーレイにころされますか
どうかたすけてください
携帯:×××ー××××ー××××
住所:K県××市⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎1−2
⚪︎⚪︎小学校3年 斎藤 希美』
「同じK県だから、不倫調査と並行して調べよう」
「DMの時期はバラバラやな。赤の他人が同じ夢を見る、ね」
「旭さんのチャンネル、再開するんですか」
俺は思わず食いついた。『共有夢の謎』に迫る。しかも噂や都市伝説ではなく、
実際の当事者に話を聞くとか、おもしろそうじゃないか。
「オカルトチャンネルではやらんで。佑斗のチャンネル用やな」
「あ、そうですか」
俺はガッカリ感が隠せず、思わずうなだれた。
「というか、映二郎、お前なに他人面してんねん。これから一緒に調査するんやで」
「ええ!?もしかして、さっきの本気で言ってたんですか」
「当たり前や」
「こっちは就活で忙しいんですよ」
「じゃあ、少しはバイト代も出す」
「お金の問題じゃなくて、時間の問題です」
正直言うと、俺にとっては魅力的でしかない提案だったが、就活生はESの添削、面接対策、企業研究などやることが一杯で時間が足りないのだ。
「旭さんの頼みやでぇ?映二郎くん」
「うっ、ずるい」
この人は俺が断れないと踏んで無茶振りしている。1年半ぶりに会う、しかも直接会うのはまだ2回目なのに、熱烈なファンだと知られていることが仇となった。
「わかりました。できる限りお手伝いします。全く収入がないのも困りますからね」
俺は気を取り直して宮下の方へ向き直る。
「というか、宮下さん個人チャンネルお持ちなんですね。やっぱりオカルト系ですか」
「まあ、配信じゃなくて動画中心ですけど、オカルトとか心霊現象系……」
「チャンネル名教えてくださいよ。チャンネル登録します」
俺は検索窓に教えてもらったチャンネル名を入力する。
”ユウト・オカルト考察チャンネル 登録者数8,400人”
登録ボタンを押そうとして、指が一瞬止まった。
「登録しました」
「……どうも」
彼は相変わらずこちらを見ない。
視線を感じたので、そちらに目線を向けると、旭さんが笑みを浮かべて俺を見ていた。
