君が見た夢の正体について教えよう


◇◇◇

奈津美を寝室まで連れて行き、
隣の部屋の戸をノックした。

「遥、まだ起きてるか?」
少しして、扉が開くとパジャマ姿の遥が部屋に入れてくれた。

「ごめん、寝てたか」
「ううん。まだ起きてたから大丈夫」

ベットサイドの小さなランプに明かりをともして、遥をベットに入らせる。
俺は床に腰を下ろして、遥に言った。

「じゃあ、そのまま寝る前に叔父さんの質問を聞いてくれないか」
「うん、途中で寝ちゃうかもだけど、いい?」
「いいよ」

正直な返答に少し笑みがこぼれる。

「もう遅い時間なのに、眠れないのか」
「うん」
「変な夢を見て、うなされたりしてないよな」
「へんなユメって何?」
「遥が山にいて、白い女が出てくる夢だよ」
「そんなの見てないよ」

そっか、と胸を撫で下ろす。
「じゃあ、去年の登山について、聞いてもいいか」
「去年の登山?」
「遥は覚えてないかもしれないけど、迷子になっちゃったんだろ?」
「うん、そうなの」
「何で迷子になったか覚えてない?」
「覚えてない。
気がついたら、あの場所に立ってたの」
「あの場所?」
「大きな石があってね、白い花が咲いてた」

大きな石って何だ。

「大きな石って?」
「名前わかんない。
お正月にも見たことあるよ。あの大きな石」

もしかして、初詣に行った時のことを言っているのか。
神社、寺、大きな石……。

「ああ、石祠のことか」
「せきし?」

俺はスマホの画像検索で石祠を調べた。
「これだろ?」
「あ!これ、せきしって言うんだ」

気がついたら石祠の前にいた。
それより前の記憶がない?
何故、遥はそんな場所にいたんだ。

「遥を助けてくれた男の人はどんな人だった?」
「……覚えてないよ」
「助けてくれたのに?どこで会ったか忘れた?」
「……うん、最初から一緒にいた」

一人で迷子になっている間の記憶がないのだろう。
助けられた後からのことしか、思い出せないのかもしれない。

「わかった。ごめんな、色々聞いて」
遥の顔を見ると、うとうとして今にも寝落ちそうになっていた。
「……あ、寝そうになってた」
「寝ていいよ」
「やだ、映二郎おじさんともっと話したい……」
可愛いことを言う遥の頭を撫でてやる。
寝ぼけ目の遥が、何かを思い出したようにクスクス笑いをこぼした。

「どうした」
「クラスの子がね、授業中に寝そうになるから、遥が背中をペンでツンツンしてって頼まれたの。
それでね、本当にその子が寝ちゃいそうになったから、ペンでツンツンしてあげたの。
そうしたら、その子、すごいびっくりしてた」

友達が飛び起きる様子を思い出しているのか、口元に手をやりフフっと笑う。
ほほえましい子供同士のやりとりだなと思った。

「仲良しだな」
「でもね、その子、学校に来なくなっちゃった……」

心臓を、優しく包みこまれるような、
ゆっくりと腑に落ちていく感覚がした。

遥の言葉に思い当たりがあった。
今年の4月から白い女の夢を見て、不登校になった女生徒。

「その子の名前って……」

静かな寝息がした。
その子の名前を確認しようとしたが、遥は眠ってしまった。
だが、確認せずとも俺はその生徒が椎名心音であると確信を持っていた。

頭の中を整理する。
直感がパズルのピースを一つずつ埋めていく。


遠藤努は遥に夏休みの間だけ勉強を教えていた。

斎藤希美は遥の隣席で仲が良かった。

今年の4月から、椎名心音は遥の前席に座っていた。


そして隆之さんは、遥と同じベッドで寝ていた……。


遥の一番近くにいる人間が、同じ夢を見る。
その後、離れた人間は無事で、離れなかった人間が行方不明になった。

「夢を見せていたのは……」


遥が山で迷子になったとき、
そこで何かを“連れてきた”としたら


(馬鹿馬鹿しい)

俺は思いついた仮説を頭の中から追い払う。
大体、遥の近くにいる人間だったら、奈津美が一番に当てはまるだろう。
1ヶ月も夢を見続けた椎名心音は無事だったが、隆之さんは数日で行方不明になった。
きっと偶然に違いない。

しかし、それ以外に可能性が思いつかなかった。


念の為、遥の言っていた石祠の存在について、旭さんたちとのグループチャットに共有しておく。
“思いつきの仮説”については、あえて書かなかった。


結局、「今回はお蔵入り」と佑斗が言ったとおりになり、調査は打ち切りとなった。
俺は就職活動を再開し、高橋くんは音信不通になってしまった。


7月に入り、本格的に暑さを感じ始めた頃、旭さんからの連絡で探偵事務所に呼び出された。
事務所に差出人不明のビデオカメラが届いたからだ。