君が見た夢の正体について教えよう


隆之さんと斎藤希美が行方不明になった。
二人の共通点は白い女の夢を見たという事。
そして、佐藤由美子という人物だった。

斎藤希美の当時のクラス担任。
年齢は27歳。教師歴3年の独身女性。
現在の担当クラスは4−1 担当学科は国語。

情報が少な過ぎる。
隆之さんとの不倫疑惑も、二人が会っているという証拠は一切出てこなかった。
本当は、直接話をして手がかりを探りたいが、接触を拒否された為、それは叶わない。
三人は他の手がかりがないか斎藤希美の失踪事件を調べ直している。

俺は戸塚宅に戻った。
これから遥を迎えに小学校へ向かうところだ。

あれから奈津美は、遥の登下校を車で送迎するようになった。
休日は外出もせず、常に遥の側にいる様子にかなり神経質になっていると感じた。
予定通り隆之さんの捜索が打ち切られてしまったのが、大いに関係しているのだろう。
今日は警察に行く用事があるらしく、俺が代わりの迎えを自ら申し出た。


小学校の校門前で遥を待つ。
下校時刻なので子供達が行き交っている。

「映二郎おじさん!」

ランドセルを背負った少女が俺に駆け寄ってきた。
俺は軽く手を上げて、近寄ってきた遥の手を取った。

「あー、由美子ちゃん!」
遥の視線の先には、花束を持った大人の女性がいた。
由美子という名前に、俺はまさかと思い身構えた。

「戸塚さん、さようなら」
「さようなら。ねえ、由美子ちゃん、いつ学校に戻ってくるの?」

遥が先生に話しかける。写真の女性と顔が似ている。
おそらく彼女が佐藤由美子だろう。
遥の迎えを買って出た、本当の目的だ。

「こんにちは」
「あ、どうも」

見ていたら、あちらから声を掛けられた。
とりあえず、自分が遥の叔父であり、不審者でないことを説明する。

「戸塚さんの……。弟さんなんですね」

叔父が姪を迎えに来る状況に、不信感とまではいかないが怪訝な顔をされた。
奈津美は学校側に隆之さんの失踪について伝えていないらしい。

俺は、旭さんがSNSで突然DMを送ってしまったことを謝罪した。
「実は、長谷川旭という友人が佐藤さんにDMを送っているんですが、覚えてますか」
「え?ああ、そういえば、ごめんなさい。
知らない方だったので、多分ブロックしてしまった気がします」

「いえ、当然です。
突然、申し訳なかったです」

頭を下げると、彼女は慌てて「いいんです。頭あげてください」と言った。
俺は頭を上げて、彼女の外見に目を留めた。
大きな花束を抱えていて、お腹が大きい。

「綺麗な花束ですね、これから育休に入られるんですか」

ああ、と俺の言いたいことを察して少し気恥ずかしそうな表情をした後、少し神妙な表情になって彼女は言った。

「育休じゃありません」
「え?」
「本日付で退職しました。
確かに最初は育休をとる予定でしたので、誤解したままの生徒も多いかもしれません」

「由美子ちゃん、先生やめちゃうの」
「ごめんね」
「何故、退職されるんですか」

もしかして自分たちのせいではないかと焦った。
一年前の担任クラスの生徒が行方不明になり、ようやく気持ちの整理がつき始めた頃に、DMで斎藤希美の件を持ち出したせいで、責任を感じてしまったのではないか。


「もしかして、俺たちのせいで退職されるんですか」
「えっ、それは違います。
メッセージをいただいた時には、学校側に退職の意思は伝えていましたから」
慌てて否定されて俺は安堵した。

「斎藤さんのお母様の件があったので、自分なりに考えた結果です。
亘理さんたちも、それで連絡してきたのですよね」

返事に窮する。
旭さんがどういう文面でDMを送ったのか俺は知らなかった。
見た人が行方不明になる不気味な夢の正体を探っているなんて、言えるわけがない。

「確かに私は教師としてはまだ未熟でした。
斎藤さんのような生徒のクラス担任になるのは早かったんです」

「ちょ、ちょっと待ってください!」
「え?」
「俺たちは、斎藤希美さんの失踪当時のことを調べてはいます。
でも佐藤先生に非があるとは思っていません。
ましてや、母親の自殺と先生は関係ないですよね」

「ええ、おっしゃるとおりです。
学校側も私に責任はないとして、退職を引き止められました。
なので、完全に私の意思です」
「そんな」

「私からも聞いていいですか」
「あ、はい」
佐藤由美子は遥に聞こえないように、俺にだけ聞こえる声量で囁く。

「戸塚隆之さんのことです」

心臓がドクリと音を立てた。
彼女は俺の顔を見ながら続けてこう言った。

「一部の保護者と教師達の間で、失踪したと噂が立っています」

俺はあからさまに視線を泳がせた。
事実を否定するのは変だし、だからといって声を大にして、「はいそうです」とは言いづらい。

俺の様子を肯定と捉えたのか、
佐藤由美子は「本当なんですね」と言った。

一瞬だけ、彼女の唇が弧を描いたように見えたが、気のせいだろうか。
疑問を解消して、そろそろ会話を切り上げられそうな気配を感じる。
俺は焦って、

「あの、実を言うと佐藤先生に話を聞きたいのは、隆之さんの件も関係しているんです」と言った。
「え?」

このまま終わらせてはいけないと、引き留める為の出まかせが勝手に口から出た。

「何故、私に?」
「あの、えっと、実は、俺たちは警察に対して、行方不明者の捜索が不十分ではないかって疑問を抱いています。
隆之さんは失踪時の状況に不自然な点があるのに、警察は捜索を終了しました。
一年前の斎藤希美ちゃんの時も結局半年足らずで捜索を打ち切られてますよね。

その結果、母親は自殺に追い込まれた。本当に警察は十分な調査をしていたのか。
それを確かめる為にも、当時の斎藤希美ちゃんのことをお聞きしたいんです」

「じゃあ、戸塚さんの捜索再開をしてもらう為に?」

隆之さんが自ら姿を消したという警察の結論は不自然だ。
白い女の共有夢以外で、二人の失踪についての新たな情報が見つかれば、確かに警察を動かすことができるかもしれない。
口から出まかせで言った理由が、いつしか本心からの言葉になっていた。


「そうです。どうか、協力してもらえませんか」


佐藤由美子は大きなお腹に手を当てて、黙ったままチラリと俺の後方に視線をやった。
遥を見つめているが、伏せ気味のまつ毛を震わし、視線は合わせない。
眉間に皺を寄せた表情からは決断を迷っている感情がありありと読み取れた。

「……わかりました。私が話せる範囲なら、協力します」

一度、戸塚宅に遥を送り届けてから、近くのファミレスで会う約束を取り付けた。
佐藤由美子と話ができることを旭さんたちに伝える。

「知らない男が四人もぞろぞろいたら、相手も身構えるやろ」
そうした配慮の結果、旭さんは不参加。
佑斗と高橋くんが合流することになった。

「高橋は来なくていいって言ったのに」
到着した佑斗が心底嫌そうに小言をこぼす。

「除け者にしないでくださいよ〜。
こんな大事件は探偵事務所が始まって以来でしょ」

高橋くんはテンション高く、謎の解明に一歩近づいた高揚感が隠せていなかった。

約束の時間になり、三人でファミレスに向かう。
市街はすっかり暗くなり、街灯と店の窓から漏れる光が辺りを照らしていた。
店内に案内されると、佐藤由美子が既に四人用のテーブル席で待っていた。

佐藤由美子は一人だった。
夫には「退職の歓送迎会」で遅くなると伝えてあるらしい。
「斎藤さんの件は、夫も知っているので余計な心配はかけたくないんです」
そう言って、注文したルイボスティーを口に運んだ。


「斎藤希美さんに対する印象を教えてください」

その質問に対して、佐藤由美子は

「先に言っておきますが、個人情報はお話しできません。
あくまで私の印象です」と前置きしてから話し始めた。