隆之の日記
『今日から日記をスタート。
コツコツ続けていこう。
気負うと続かない!
気軽に書くこと!
この日記は誰にも見せる予定なし。
(日記とは元々そうだけど)
正直な気持ち、ちょっとした日々の気づきを書き留めよう。』
年始のタイミングで日記を書き始めたらしい。
それからほぼ毎日、仕事の愚痴や家族の楽しい思い出を数行ずつ綴っていた。
「眠い」とか「疲れた」と一言だけの日も結構ある。
内容からして、就寝前に日記をつける習慣だったようだ。
パラパラと流し見でページをめくると、目に入ってきた内容にギクリとする。
『他人事?家族のことがどうでもいい?そんなわけないだろ。
自分だけが頑張っていると思っているのか。』
あの日、奈津美に一方的に言われ続けていた裏で、やはり思うところがあったのだな。
喉の辺りが少し苦しい。日記には続けてこう書いてあった。
『ずっと、奈津美に言われたことが頭を離れない。
父親らしいことってなんだろう。』
隆之さんは奈津美の言葉に苦しんでいた。
ただ優しいという、漠然としていた彼の印象が変わっていた。
この辺りは5月中の日記だ。俺はページをめくる。
『遥の同級生が行方不明になって一年が経った。
さらに自ら命を断つなんて、同じ子を持つ親としても心が痛い。
遥もショックを受けている様子だ。
今夜はパパとママと一緒に寝たいと言ってきた。
そんなの断るわけがない』
『今日もパパとママと一緒に寝るかって、
そう遥に聞いたら、すごく嬉しそうだった。
添い寝が習慣になったら一人で寝られなくなるかな?
でも、奈津美もまんざらでもない様子だ。
子供はいつまでも子供ではいてくれない。
今だけの特別な習慣と考えればいいだろう。』
奈津美が事務所で嬉しそうに話していた内容だった。
夫婦の寝室で遥を真ん中に家族3人で川の字になって寝ている姿を想像する。
公開しない日記でここまで書くということは、嘘偽りはないだろう。
戸塚家は自分が思っていたよりも、仲睦まじく温かい家族に思える。
失踪するような理由が見当たらない。
しかし俺は日記の最後のページを読んで、目を疑った。
『ここ数日、夢見が良くない。
気のせいだと思うけど、同じ夢を見ているような』
『昨日も同じ夢だった。
真っ暗な山の中で、白い女性がこっちを見ている夢。』
『ようやくわかった。
あれは、あの女の人は白い花だったんだ。
もうじき咲く。あと少しだ』
日記は三日前、つまり失踪する前日で止まっていた。
山の中、白い女、白い花
聞き覚えのある単語に心臓を掴まれたような感覚を覚える。
内容からして、隆之さんはあの夢を見ていた。
遠藤努たちが見ていたのと同じ、白い女の共有夢。
日記を持つ指先から血の気が引いていく。
見えない何かに視られているようで、思わず部屋の中を見回した。
そこには俺ひとりが立ち尽くしていた。
気のせいだと思ったが、しばらくその場から動けなかった。
