レベル1のわたしと解けない魔法

 次の日、午前中からログインをするとギルドのチャットはにぎわっていた。
 わたしのバイトはローテーションなので、曜日感覚がなくなるが、どうやら今日は日曜日らしい。
 ギルドのメンバーはほとんどが会社員なので、土日はログインメンバーの一覧が画面におさまりきらないほどになる。
 さて、珍しく午前中からログインしたものの、なにをしようかな。
 そんなことを考えていると、チャットの会話が目に入る。

  ギルメン①:オフ会、楽しみだな。焼肉でしょ?
  ギルメン②:東京かあ。遠いなあ。でも参加したいなあ
  ギルメン③:オフ会、とうとう来月か。はやいなー。

 オフ会か。
 幹事はPyutaさん、つまりギルドのリーダーらしい。
 
「東京、行ってみたいなあ」

 ロスの街をてくてく歩きつつそんなことをつぶやく。
 わたしは東京に異様に憧れを持っている。
 あのキラキラした都会。
 何度行っても、東京のビル群はワクワクする。それこそ異世界。
 そして、オフ会にも興味はある。
 普段こうしてゲームのキャラとして接している人と実際に会う。おもしろそう……。
 オフ会の日付を聞いたら、ちょうどバイトが休みの日。
 まだ参加者も募集してるよ、とリーダー。
 
「弟よ、東京の新宿ってどうやって行けばいいんだ」

 ゲームを中断し、リビングで野球中継を観ていた弟に聞く。

「なに突然」

 弟は生粋の乗り鉄で、家でも時刻表を肌身離さない。

「今度、東京でオフ会があるんだよ。ゲームの。で、新宿らしいんだよね」

 弟は時刻表を開かずにいう。

「お姉ちゃんの場合は、病気のこともあるし方向音痴だから、新幹線まで東京行って、そこからタクシーが一番いいと思う」
「なるほど。それなら迷わないか」
「うん。東京の在来線なんか、おれでも迷う」

 弟はそういいきった。
 家族旅行が電車移動となると、先導を切って確実な電車に乗せてくれる弟が……。
 迷うだなんて、なんて恐ろしい!
 おまけにわたしは持病で満員電車は厳しい。
 だけど、新幹線で東京駅、タクシーというルートならいけそうだ。
 最近はバイト代を貯金に回すほど、使い道がなかったけど。
 まさか人生初のオフ会で使うことになるとは……。

 オフ会当日。
 待ち合わせ場所は焼き肉屋(つまり現地集合)
 東京までは新幹線だったが、東京駅から新宿駅まではタクシー。
 タクシーから降りた瞬間、思う。
 人が多いなんてもんじゃない。祭りなのか。そうだ今日は祭りだ。
 午後六時の新宿は、どっちを見ても人、人、人。
 なんとか人の邪魔にならないところで携帯でリーダーに電話をかける。
 そういえば、リーダーと電話するの初めてだな、と思った。

『新宿駅の前にいるんだね。じゃあ、迎えにいくよ』

 リーダーはそういって、迎えに来てくれた。
 歩いている途中で見えた東京の夜景は、宝石のようにきれい。
 それから、わたし以外にも遠方から来ているギルメンとも合流し、焼き肉屋へ。
   
 オフ会の会場は、焼き肉屋の二階。
 貸し切りらしく、十畳ほどの和室は既にギルメンが集まっていた。
 男性八,女性二ぐらいの割合だろうか。
 それにしても、みんな人間だったんだなあ。
 わたしはしみじみと、オンラインゲームは現実と地続きであることを実感した。
 
 初めてのオフ会でギルメンに実際に会って思ったのは、みんな普通の人だなあという安心感。
 普段、奇抜な発言をしていたり、変な装備で別のギルドの人からも「変態」とかいわれていたりする人も、実際にこうして会うと常識的な人にしか見えない。
 まあ、そうだよね。ゲームでは自由にしていたいよね。
 わたしだって、ゲーム内では……いや普段とあんまり変わらないか。
 だけど、現実よりずっと笑っている。
 このオフ会もずっと笑いっぱなしだった。

 そして、その日はホテルに泊まり、午前中には新幹線に乗って愛知へ帰った。
 あっという間すぎて、帰るのが名残惜しかった。
 次はいつ会えるのだろう。
 だけど、またオフ会があるなら絶対に参加しよう。

 さて、リーダーの印象は、とても薄い。
 優しそうな印象であったが、それだけだ。
 オフ会の焼肉のとき、飼っている猫の写真を見せてくれたがブレてた。
 三十人くらいいたオフ会で、印象が強く残る人もそうそういない。
 女性メンバーとはあらかたおしゃべりできたので、満足だった。
 そして東京にも行けたし! 満足、満足。
 まあ焼き肉屋とカラオケ店でほぼ外は見られなかったけど。
 でも東京を肌で感じられたからいいんだ。