生命線上に独白の告発を

 土曜日、俺は友人に連れられて街中に遊びに来た。
「遊ぶぞー!」
「主役はお前じゃない」
「わぁってるよ」
 香澄は、こんな場所には居ないわな……
 自然と君を探してしまう。どこかに居ないかって探ってしまう。
 でも知っている。君はこんな街中のうるさい場所は好きじゃなかったこと。だからここにはきっと居ない。
 でも、俺のことだ。知らない君の一面もきっとあるんだろうな。
「おい、李月」
「ああ……悪い奏吾」
 考え込んでいた俺を、奏吾は心配そうに見つめていた。
 いつまで俺は友達に迷惑をかけるつもりなんだろうか。
「全く……。今日は全部俺らが奢るから。また俺らで遊ぼうぜ」
「そんな、」
「いいんだぜぇ。ただし、罰ゲームの稲吹呼びはもうやめていいか?」
「そんなんでいいなら」
「よっしゃ、堅苦しくて嫌だったんだよーこれ」
「もう絶対に後先考えてない言葉言うなよ」
「もう言わないよぉ……」
 友達は二人とも優しい。
 俺は今、愛されているんだ。何も君にだけ執着する必要はない。
「今日は、めいいっぱい遊ぼう」
「おう」


 土曜日、今日も裕也とデート中。
「裕也、本見ていってもいい?」
「いいよ」
 裕也とは上手くいっている。焦りも感じないし、何もかもが順調だ。本当に裕也は優しい。
 たまには……
「裕也、この本さ。どうかな」
「ん、いいね。いかにも香澄が好きそうな本だね」
「うん、でしょ」
 言おう。この人にはもう言える。
「裕也も一緒に読まない?」
「え?」
「どっちかの家に……行ったりしてさ」
 少し裕也の側に寄ったが、鼓動が早すぎる。
 この鼓動を聞かれてないだろうか。りんごみたいに赤くなった顔を見られていないだろうか。 見せられない表情になっていないだろうか。
「もちろんいいよ。俺の家近いし行く? すぐそこなんだよね」
 ん……?
「あー、もうちょっと選んでからでもいい?」
「あ、うん。いいよ」
「ありがと」
 少し、違和感を感じた。
 私の趣味は人間観察だ。今まで見てきた人たちの傾向を見て、今の裕也は少し焦っていた。
 いや、少し……

 ――興奮していた?


 何か自己啓発の本とかも置いてあるかもしれないと、俺はまず本屋に寄ることにした。
「最初から本屋なんて、カラオケとかボーリングとかじゃねえの? 普通ってさぁ」
「悪いか」
 弱みを見せるようで少し気恥ずかしい。
「いや、いいけどよぉ、その……なんか嫌な予感というか、変な感じがするんだよ。胃がムカムカする……」
 維吹の勘はいつも当たる。本当に変な時は、何か察して感情を殺さずに伝えてくる。今回のもまさしくそれだ。
 言い換えれば「本屋には入るな」ということだ。
 でも……
「今日発売の人気な小説があるんだよ。それそんなにやばいやつなのか?」
 今の俺には自己啓発の本も、今言った小説も必要だ。
 現実逃避と、そのあとの行動の助け。どちらも俺にないと困る。もうこの二人に迷惑をかけたくもない。
「いや……なんか、今まで感じたことのない暗さしてるんだ……。俺も初めてだよ」
「じゃあお前の勘違いだろ。お前朝に牛乳とヨーグルトに、チーズもプリンも食べてきたんだろ? 腹痛とかじゃないのか?」
 奏吾は俺の背中を押すように、維吹の言葉を否定した。
「あ……うん。奏吾、腹は痛い。結構。でも……」
「じゃあそれだろ」
 何かを言いかけた維吹を丸めて、奏吾はまた俺の背中を押した。
 きっと俺が何を買うのか気がついたんだと思う。
「そうだな。わりぃ、俺ちょっとトイレ行ってくるわ」
 でも嫌な予感か……
 俺と奏吾はあまり気にしないように、本屋に入った。
「おお、すみませ……」
「ごめんなさ……」

 その刹那、目の前に――がいた。

「え……」
「え……」
 ほぼ同時に声が出た。
 俺は会えたことが少し嬉しく思えた。でも君はどう思っているんだろうか。
「あれ、知り合い?」
 あ……
「あ、えっと……ただの顔見知りだよ。早く行こ裕也」
「待って……」
 顔を背けて歩き出した香澄の手を取った。咄嗟に取ってしまった。
 隣に男性が歩いているのに、この行動は邪魔になることだって、もう一度迷惑をかけてしまうって分かっていたのに、俺は香澄の手を取ってしまった。
「自分は無視したくせに……」
 香澄の鋭く尖った言葉が俺の胸を深く突き刺す。
「ごめん。でも……」
 久しぶりに見る香澄は、俺の知っている服装じゃなかった。いや厳密に言うと、付き合いたての頃に着ていたようなおしゃれで、綺麗で、可愛い服だ。
 俺は知っている。この香澄の感情を、この瞬間だけの香澄の気持ちを。
「いや、そっか……」
「離して……」
「おいお前……離せよ」
 その会話だけ、その会話だけを交わして、俺は香澄の彼氏に手を振り解かれた。
 香澄を掴んだ俺の手が離れた時、何か俺の中で一本の糸がプツッと切れた気がした。
「行こう香澄」
「うん」
 それは俺の、最後の、

 ――生命線だった

「李月!」
 俺は友達を置いて走った。
「あれ本当に顔見知り?」
「うん。でもちょっと、過去に色々とあってね……」
「こんな顔させるなんて、嫌なやつだな」
「そう……だね」