生命線上に独白の告発を

 次の日、バイトに行くと早速佐江月さんもやってきた。
「佐江月 裕也(ゆうや)です。バイト初心者なんですけど、精一杯頑張ります。よろしくお願いします」
 裕也……いい名前だね
 世間への向き方もいい。声も落ち着いている。優しくて、責任感もありそうだ。
 何より、世間一般的に見たらこの人はイケメンの部類。この人なら、色んな人物とも関わってきたことがありそうだ。
 つまり、私との関わり方も前のデータから引っ張り出して、しっかりと考えてくれるかもしれない。
 バイト終わり、私は佐江月さんを外食に誘った。佐江月さんは怪我のお詫びもしたいと、快く誘いに乗ってくれた。
「玉乃さんとさしで喋るのは初めてだね」
「そうですね」
 歩道でも率先して車道側を歩く。話題の振り方や、声のトーンなんかも完璧だ。文句のつけどころがない。
「言い辛かったらいいんだけど、何で俺を誘ってくれたの?」
「何となくです」
「そうは見えないけど。そうだね、あまり聞かないでおくよ」
 ふむ……
 私の突き放すかのような言葉に狼狽えず、表情もさほど崩さない。そして言葉をいい感じに流してくれる。詮索するようなこともない。
 私が今、とても必要としている人だ。
「また、誘ってもいいですか」
「え、まだご飯を食べてもいないよ」
 そう言って笑う佐江月さんに、久しぶりに笑顔が溢れた。
「玉乃さんが笑っているところ初めて見た」
「そうですか?」
「うん。綺麗に笑うね。そんな綺麗な笑顔見たことないよ」
「そうですか」
 ところどころに私を褒める言葉をおいている。やはり、世間への向き方も素晴らしいものがある。
 離したくないと思った私は、佐江月さんと二人で休日に出かける予定を立てた。てっきり断ってくるかと思っていたが、佐江月さんもどこか乗り気のように感じた。
 この人なら、元カレのことを上書きして、忘れさせてくれるかもしれない。

「お待たせしました」
「ん、俺も今来たところだよ」
 休日の佐江月さんは、その高身長をふんだんに生かして、落ち着いているのにおしゃれな格好をしていた。バイト面接の時なんかよりもよっぽどおしゃれな格好だ。
 一言目が凄い。そんな言葉になりそうなくらいには、私の好みドンピシャだった。
 私も頑張っておしゃれをしてきたつもりだったが、その努力が薄く見えるほどだ。
 久しぶりに緊張と、胸の高鳴りを感じた。今、私は恋をしている。
「じゃあ行こうか」
 佐江月さんは私のことを本当に知らないのか疑うほど、私の好みそうな店や場所を選んではそこは絶対に外さず、それ以外でも静かで穏やかなスポットに連れて行ってくれた。通りでモテるわけだと、初めて痛感した。
 そんな楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、もう辺りも暗くなってきた。
「玉乃さん、帰りは電車かな」
「はい」
「じゃあ、そろそろ解散しようか」
「あ……最後に、あのお店に寄ってもいいですか」
「うん、玉乃さんが行きたいなら着いていくよ」
 そう言って天女のように優しい顔で微笑む。本当に優しい人だ。

「今日はありがとうございました」
「そんなに畏まらないでよ。楽しめたならよかった」
「はい。最高でした」
「ふふっ、じゃあ玉乃さんさえよかったら、また遊ばない?」
「ぜひ、お願いします」
「じゃあ、また学校で」
「はい」
 佐江月さんとはスムーズに言葉を交わせて、スムーズに事が進んでいく。これほどまでに完璧な人は初めて見た。
 本当に、完璧だ。


 別れてから幾日が経ったのだろうか。
「稲吹、元気出せよー」
「はぁーー…………」
 香澄は、今何をしてるかな……
 今頃はその事ばかりを考えてしまう。本当に好きだった。
 振り回された感じもあるけど、表情も、声も、行動も、性格も、何もかもが好きだった。
 だから俺はずっと深掘りして、仲を深めたいと思っていた。
 君への迷惑を考えれていなかった自分が悪い。
 でも贅沢を言わせてほしい。付き合えなくてもいい。またどこかで一度だけでも、面と向かって喋りたい。最初の頃に見せてくれたあの笑顔を、もう一度だけでも見せてくれたら諦めがつく。それだけ。
「アイスおごっからさぁー」
「トリュッセンで頼む……」
「ほんとに好きだなトリュッセン」
香澄が好きだったんだ……。俺も好きになったよ


 デートを何回か繰り返し、私は佐江月さんいや、裕也と付き合い始めた。
「玉乃さん。俺も下の名前で呼んでもいいかな?」
「構わないよ」
「じゃあ、香澄って呼ぶね」
「うん」
 敬語も抜けてきて、また今前に進んだところだ。
 ゆっくりでいい。少しずつ、仲を深めていけたらそれでいい。
 いや、その暖かさが心地いい。


 また幾日に時間が追加されていった。
 学校に行けど、部活に行けど、家に帰れど、何も楽しいことがない。日々が億劫だ。
  君を失うとこんなにも世界が薄い色に見えることが、初めて分かった。
「稲吹、土曜遊びに行こうぜ!」
「……遠かったら行かない」
 友達はいつだって元気だ。羨ましい限り。
奏吾(そうご)。稲吹これまだいじけてる感じ?」
「あんなけ好きだって言ってた玉乃さんと別れてんだから、当たり前だろ」
「まあそうだよなー」
「迷惑かけてごめんな……」
 高校に入学してから、俺はまだあまり元気な姿を見せられていない。
 もう別れてから二ヶ月ほどは経っていると言うのに、ずっと未練たらたらで馬鹿みたいだ。
「いいってお前は気にすんな」
「俺たちはぁ、友達だろ!」
維吹(いぶき)、それ言いたいだけだろ」
「奏吾が怒った。ふるえろ維吹……」
「奏吾、聞いたか。元気になってるって。頼むよぉ、言葉責め結構くるんだよぉ……」
「お前はいつもうるさいんだよ。李月(りつき)は真剣に悩んでるだろ」
「うっ……」
 香澄のこと、早く忘れないとな……