私は、なんて言っていいのかわかんなかった。
なんか伊織さん、すっごく自分のことを冷たく見ているように思えてなんだか切ない気持ちになってしまった。
私は考えて、マグカップを握りしめたままなんとか言葉を引きずり出した。
「で、でも、その契約があるから私、伊織さんたちに助けていただけたわけですよね」
すると伊織さんは頷いてお酒をグイッと飲む。
「まあそうだな。前から若い女の行方不明事件が多発してて。それで追ってたんだが、やっとオークション会場突き止めて、あの日俺たちが踏み込んだんだ。どうもいくつかの組織があいつらに女を斡旋していたみたいで、その全部はまだおえてねえけど」
その話を受けて、私はずい、と伊織さんに身体を近づけて言った。
「そうだったんですね。私、伊織さんたちがいなかったらどこかに売り飛ばされていたわけですよね。よかった、もう私、助からないんだろうなって諦めてたから」
その時の怖さがだーって甦って来て、私の視界が曇りだす。やばい、涙出てきちゃった。
私は口を押えてマグカップを座卓に置いた。
怖かった。すっごく怖かった。落札されていく女の子の姿、泣きたくても口をふさがれて泣けなくって、ただ怯えるしかできなかった。
あー。思い出したら止まらなくなっちゃった。
「え? あ……え?」
そんな慌てたような伊織さんの声が聞こえてくる。
私は顔を上げられなくって、ひっく、と喉を鳴らして泣いた。
「えーと……まじで泣いてる?」
どう見ても泣いてるでしょ。
私はゆっくりと顔を上げて伊織さんの方を見る。
彼はさんはどうしたらいいのかわからないみたいで、オロオロしてるようだった。明らかに目が泳いでる。
伊織さん、本当に妖怪の総大将なのかな。
助けてくれたときは確かにかっこよかったけど、でも今はなんていうか、だらしないと言うか……すごく人間臭いっていうか。
すごい落差だな。
そう思ったらちょっと面白くなってきて、私は泣きながら笑ってしまう。
すると伊織さんは戸惑ったような声で言った。
「え、笑ってる?」
私は涙を拭って、ちょっと笑いながら頷く。
「だって、伊織さんがなんだかおもしろいから」
そう私が言うと、伊織さんは不服そうな顔になる。
「俺のどこが面白いって?」
「だって……助けてくれたときは羽織り着てサングラスしてすっごくかっこよかったのに。今はなんて言うか……」
そこで言葉を切って、私はちょっと首を傾げる。その時私の視界の端に、テレビ番組が映った。
あぁ、そうだ。
私は閃いて、伊織さんをじっと見つめて笑顔で言った。
「なんか芸人さんみたいで面白いなって」
「ちょっと待て。今テレビで芸人が映ってるからそれ言ってない?」
呆れたように言われて私は笑ったまま頷く。
「あはは、そうですね」
「俺は芸人じゃねえし。そんな面白くもないっての」
そう恥ずかしげに言ったかと思うと、伊織さんはグイッてお酒を飲み干した。
なんだかこういう、どうでもいいやりとりがなんだか温かかった。
お父さんもお母さんもいなくなって、借金取りに捕まって借金返しながらどうしたらいいのかわかんなくって。びくびくしながら過ごしてきた。
卒業旅行から帰るまでは普通だったのに。私、親の借金のことなんて何にも知らなかった。
私は涙を拭いながら言った。
「私、ここ数か月ろくなことがなくって、こんなに笑う事なかったからかも」
「あぁ、あんた借金あるんだっけ」
そう言われて私はハッとする。
「そうだ、私、借金取りに携帯取られて……私の携帯、知りませんか?」
忘れてた。
私の荷物、全部取られてしまって何にもない。
「いいや、あんただけじゃなく、ほかの女の子の荷物もあの会場にはなかったよ」
その言葉をきいて、絶望感が押し寄せてくる。
皆、心配してるだろうな……
もう諦めるしかないのかな……
ひとりうちひしがれていると、伊織さんが言った。
「葉月さん、ちょっとだけあんたのこと調べたけど、親が借金残して夜逃げして、それであんたがその借金背負うことになったんだって?」
その言葉を聞くと、心が痛くなる。実際その通りなんだけどさ。すっごい恥ずかしいことだから桔梗さんにも言えなくて、どうしたらいいかも分かんなくって悩んでいたから。
「とりあえず、いろいろ悩むのは後にしなよ。どちらにしろ今すぐどうこうできねえし。あんたにお金貸していた借金取りのことも俺たちで調べてるから」
それを聞いて私は胸に手を当てて顔を上げる。
伊織さんはお酒を飲んで、テレビジョンを見つめていた。
「調べてるって……?」
「違法なことやってんならその借金は返す必要はない。違法なことじゃなければ、その借金は返さねえとだけどあんたにその義務があるかどうか、なんだよなぁ」
「え、でも借金取りの人たちは、親の借金はお前の責任だって……」
そう震えながら言うと、彼はグラスを片手にこちらを見て笑う。
「そりゃーそう言うだろうよ。貸した方はどうにかして金を返してほしいわけだからな。でもあんた、親が死んだわけじゃねえし、親の負債を背負う義務、あると本気で思う?」
そう言われると……どうなんだろう。
確かに親はいなくなったけど、死んだのかどうなのかはわかんない。
ただ借金取りの人たちに言われるままに私、連れ去られて……こうするしかないって思ったんだ。お父さんたち、いなくなっちゃったんだもん。
黙り込む私の頭に、何かが触れる。それが手だ、と気が付くのに時間はかからなかった。
伊織さんが私の頭に触れている。そして彼は、ふっと笑って言った。
「俺たちはそういう表には出ていない違法行為を取り締まるのも仕事なんだよ。まかせとけ」
「伊織さん……」
そんな言葉がすごくうれしくって、私はまた、涙があふれた。
なんか伊織さん、すっごく自分のことを冷たく見ているように思えてなんだか切ない気持ちになってしまった。
私は考えて、マグカップを握りしめたままなんとか言葉を引きずり出した。
「で、でも、その契約があるから私、伊織さんたちに助けていただけたわけですよね」
すると伊織さんは頷いてお酒をグイッと飲む。
「まあそうだな。前から若い女の行方不明事件が多発してて。それで追ってたんだが、やっとオークション会場突き止めて、あの日俺たちが踏み込んだんだ。どうもいくつかの組織があいつらに女を斡旋していたみたいで、その全部はまだおえてねえけど」
その話を受けて、私はずい、と伊織さんに身体を近づけて言った。
「そうだったんですね。私、伊織さんたちがいなかったらどこかに売り飛ばされていたわけですよね。よかった、もう私、助からないんだろうなって諦めてたから」
その時の怖さがだーって甦って来て、私の視界が曇りだす。やばい、涙出てきちゃった。
私は口を押えてマグカップを座卓に置いた。
怖かった。すっごく怖かった。落札されていく女の子の姿、泣きたくても口をふさがれて泣けなくって、ただ怯えるしかできなかった。
あー。思い出したら止まらなくなっちゃった。
「え? あ……え?」
そんな慌てたような伊織さんの声が聞こえてくる。
私は顔を上げられなくって、ひっく、と喉を鳴らして泣いた。
「えーと……まじで泣いてる?」
どう見ても泣いてるでしょ。
私はゆっくりと顔を上げて伊織さんの方を見る。
彼はさんはどうしたらいいのかわからないみたいで、オロオロしてるようだった。明らかに目が泳いでる。
伊織さん、本当に妖怪の総大将なのかな。
助けてくれたときは確かにかっこよかったけど、でも今はなんていうか、だらしないと言うか……すごく人間臭いっていうか。
すごい落差だな。
そう思ったらちょっと面白くなってきて、私は泣きながら笑ってしまう。
すると伊織さんは戸惑ったような声で言った。
「え、笑ってる?」
私は涙を拭って、ちょっと笑いながら頷く。
「だって、伊織さんがなんだかおもしろいから」
そう私が言うと、伊織さんは不服そうな顔になる。
「俺のどこが面白いって?」
「だって……助けてくれたときは羽織り着てサングラスしてすっごくかっこよかったのに。今はなんて言うか……」
そこで言葉を切って、私はちょっと首を傾げる。その時私の視界の端に、テレビ番組が映った。
あぁ、そうだ。
私は閃いて、伊織さんをじっと見つめて笑顔で言った。
「なんか芸人さんみたいで面白いなって」
「ちょっと待て。今テレビで芸人が映ってるからそれ言ってない?」
呆れたように言われて私は笑ったまま頷く。
「あはは、そうですね」
「俺は芸人じゃねえし。そんな面白くもないっての」
そう恥ずかしげに言ったかと思うと、伊織さんはグイッてお酒を飲み干した。
なんだかこういう、どうでもいいやりとりがなんだか温かかった。
お父さんもお母さんもいなくなって、借金取りに捕まって借金返しながらどうしたらいいのかわかんなくって。びくびくしながら過ごしてきた。
卒業旅行から帰るまでは普通だったのに。私、親の借金のことなんて何にも知らなかった。
私は涙を拭いながら言った。
「私、ここ数か月ろくなことがなくって、こんなに笑う事なかったからかも」
「あぁ、あんた借金あるんだっけ」
そう言われて私はハッとする。
「そうだ、私、借金取りに携帯取られて……私の携帯、知りませんか?」
忘れてた。
私の荷物、全部取られてしまって何にもない。
「いいや、あんただけじゃなく、ほかの女の子の荷物もあの会場にはなかったよ」
その言葉をきいて、絶望感が押し寄せてくる。
皆、心配してるだろうな……
もう諦めるしかないのかな……
ひとりうちひしがれていると、伊織さんが言った。
「葉月さん、ちょっとだけあんたのこと調べたけど、親が借金残して夜逃げして、それであんたがその借金背負うことになったんだって?」
その言葉を聞くと、心が痛くなる。実際その通りなんだけどさ。すっごい恥ずかしいことだから桔梗さんにも言えなくて、どうしたらいいかも分かんなくって悩んでいたから。
「とりあえず、いろいろ悩むのは後にしなよ。どちらにしろ今すぐどうこうできねえし。あんたにお金貸していた借金取りのことも俺たちで調べてるから」
それを聞いて私は胸に手を当てて顔を上げる。
伊織さんはお酒を飲んで、テレビジョンを見つめていた。
「調べてるって……?」
「違法なことやってんならその借金は返す必要はない。違法なことじゃなければ、その借金は返さねえとだけどあんたにその義務があるかどうか、なんだよなぁ」
「え、でも借金取りの人たちは、親の借金はお前の責任だって……」
そう震えながら言うと、彼はグラスを片手にこちらを見て笑う。
「そりゃーそう言うだろうよ。貸した方はどうにかして金を返してほしいわけだからな。でもあんた、親が死んだわけじゃねえし、親の負債を背負う義務、あると本気で思う?」
そう言われると……どうなんだろう。
確かに親はいなくなったけど、死んだのかどうなのかはわかんない。
ただ借金取りの人たちに言われるままに私、連れ去られて……こうするしかないって思ったんだ。お父さんたち、いなくなっちゃったんだもん。
黙り込む私の頭に、何かが触れる。それが手だ、と気が付くのに時間はかからなかった。
伊織さんが私の頭に触れている。そして彼は、ふっと笑って言った。
「俺たちはそういう表には出ていない違法行為を取り締まるのも仕事なんだよ。まかせとけ」
「伊織さん……」
そんな言葉がすごくうれしくって、私はまた、涙があふれた。
