ジーパンに七分袖のTシャツに着替えて私たちは外に出る。
そこで私は初めてこの家の全体を見た。
大きな和風の二階建のお屋敷で、私が知らないお部屋がいくつもありそうだった。
玄関から門まで、真っ白な石が敷かれていて歩くと音がする。
なのに桔梗さんは全然足音がしなかった。
おかしい、桔梗さんが履いているの、普通に売ってる下駄っぽく見えるサンダルなのに。
本当に人じゃないんだろうな。そんな些細な差に驚いてしまう。
門を出るとタクシーがいて、私たちはそれに乗ってキチジョウジの駅前へと向かった。
正直タクシー乗るほどの距離じゃなかったけど。
夕暮れの繁華街。学校帰りっぽい制服姿の子たちの姿が目立つ。
タクシーを降りると、いつの間にか黄色いサングラスになっていた伊織さんが辺りを見回しながら言った。
「桔梗、お店、どこ行けばいい?」
「伊織ってばそこまで考えてなかったの?」
からかうような口調で桔梗さんが言うと、顎に手を当ててそうねぇ、と呟いてから言った。
「あっちに百貨店あるからそこ行きましょう」
そしておもむろに私の腕を掴んで笑う。
「いっぱい買おうねー」
「え? あ……は、はい……」
いや、はいって言ってよかったのかな。ドキドキしながら私は伊織さんの方を見る。
彼は目立つ白髪を隠すかのように黒い帽子を被って言った。
「じゃあ行くぞ」
「はーい」
私はふたりにつれられて、駅前にある百貨店へと向かった。
久しぶりに歩く外はなんだか異様に思えた。
皆楽しそうに談笑しながら、夕暮れの通りを歩いている。
桔梗さんが着ている羽織風の派手な色の服も目立つ。こういう服、最近多いのよね。和モダン、とか呼ばれている服。和と洋を混ぜた服なんだけど。
お金ある人ほどこういう服着るのよね。
私は買ったことないけど。この手の服はちょっと高くて高校生の私には手が出せないからだ。
幸せそうに手を繋いで歩くカップルに、小さな子供の手をひいて歩くお母さんの姿を見ると心が痛くなって、思わず目をそらしてしまう。
家族かぁ……
お父さんたち、どこにいるんだろう。結局その手掛かりはないままだ。
人々の喧騒を聞いているだけで、私の中の孤独が大きくなるような気がした。
百貨店の中に入って、桔梗さんに言われるままにお店へと向かう。
着いたのは、いわゆるファストファッションのお店だった。
ごく普通のTシャツやパンツ、それに流行りの和柄の服も結構おいてある。
「ここなら無難かなぁって思って。どう、葉月ちゃん」
「あ、はい。でもあの、本当にいいんですか?」
不安な気持ちで伊織さんの方を見る。彼はポケットに手を突っ込んでこっちを見て言った。
「大丈夫だっての。金には困ってねえし。っていうか慰謝料みたいなやつ?」
それを受けて桔梗さんが何度も頷いて言った。
「そうそう、遠慮しないで! 伊織はお金あるから!」
「あ、ちょ!」
桔梗さんは私の腕を掴んで歩き出す。
私はきょろきょろと挙動不審に辺りを見回してしまう。
そこはTシャツのコーナーで、色とりどりの半袖のTシャツが並んでいる。中にはキャラクターの絵が描いてあるものもある。
「葉月ちゃん、何色が好き?」
「え? えーと……ぶ、ぶなんなのがいいです」
とっさにいろの名前が出てこなくてそう言いながら私は近くにあったベージュのTシャツを手に取った。
これとかいいかも。無地だし。値札を見ると千五百円って書いてあっておもわず固まってしまう。
お母さんたちがいたときでも、Tシャツ一枚にここまで出したことがない。高くても千円いかない位だ。
躊躇していると、桔梗さんの声が聞こえた。
「その色可愛いー! それほらかごに入れて。あとはー」
って言って、桔梗さんは服を手に取って私に合わせていく。
カゴにどんどん服が入っていくのを見て私は腹をくくる。
時間が経つにつれて服選びがだんだん楽しくなってきた私は、桔梗さんと一緒にトップスの他、ズボンやワンピース、下着なんかもカゴに入れていった。
その数たぶん十着以上。
会計したら万単位で、私は思わず短い悲鳴を上げてしまった。
だけど伊織さんは平然とお金を払ってくれた。
お見せを出たあと、大きな袋を手に提げて、私は伊織さんに深く頭を下げた。
「あ、あ、ありがとうございます」
「気にしなくていいって。あと食器とかかなー。うちそういうのあんまりないんで」
と言った。
そのあと食器とかの生活必需品を買って、夕食を食べたあと私たちは伊織さんの屋敷に帰った。
すごい荷物の量だなぁ。
大きな袋が六つもある。
靴や下駄サンダルまで買ってもらって、何万円かかったんだろう。大丈夫かな、これ。
不安な面持ちで、広い玄関に置いたショップ袋を見つめる。
すると背後で桔梗さんの軽快な声が響いた。
「ただいまーっと。じゃあ私は帰るから、今夜からは伊織、よろしくねー!」
「あぁ、付き合ってくれてありがと、桔梗」
その声に私は慌てて振り返る。
その時にはすでに桔梗さんの姿は玄関から消えていた。
音も無く、気配も無く。あやかしってすごい。
呆然としていると、伊織さんが玄関にあがり、六個の袋を両手に持つ。
そして私に向かって言った。
「とりあえず、中入って」
「あ、はい。そう、ですね」
私は慌てて靴を脱いで、伊織さんの跡をついていった。
初めて入った、居間と思われる部屋を見て、私は思わず固まってしまう。
一〇畳以上は余裕でありそうな畳と洋室が半分半分の部屋。
畳の部分には黒い大きな座椅子が置かれていて、座卓が置いてある。そして壁際には最新の薄型の大きなテレビジョン。
それはいいんだけど……
床に散らばる服に雑誌に書類になんだろう。
よく言えば雑然としているし、悪く言えば……散らかっている。
その中を物を器用によけながら、伊織さんは歩いていった。
そこで私は初めてこの家の全体を見た。
大きな和風の二階建のお屋敷で、私が知らないお部屋がいくつもありそうだった。
玄関から門まで、真っ白な石が敷かれていて歩くと音がする。
なのに桔梗さんは全然足音がしなかった。
おかしい、桔梗さんが履いているの、普通に売ってる下駄っぽく見えるサンダルなのに。
本当に人じゃないんだろうな。そんな些細な差に驚いてしまう。
門を出るとタクシーがいて、私たちはそれに乗ってキチジョウジの駅前へと向かった。
正直タクシー乗るほどの距離じゃなかったけど。
夕暮れの繁華街。学校帰りっぽい制服姿の子たちの姿が目立つ。
タクシーを降りると、いつの間にか黄色いサングラスになっていた伊織さんが辺りを見回しながら言った。
「桔梗、お店、どこ行けばいい?」
「伊織ってばそこまで考えてなかったの?」
からかうような口調で桔梗さんが言うと、顎に手を当ててそうねぇ、と呟いてから言った。
「あっちに百貨店あるからそこ行きましょう」
そしておもむろに私の腕を掴んで笑う。
「いっぱい買おうねー」
「え? あ……は、はい……」
いや、はいって言ってよかったのかな。ドキドキしながら私は伊織さんの方を見る。
彼は目立つ白髪を隠すかのように黒い帽子を被って言った。
「じゃあ行くぞ」
「はーい」
私はふたりにつれられて、駅前にある百貨店へと向かった。
久しぶりに歩く外はなんだか異様に思えた。
皆楽しそうに談笑しながら、夕暮れの通りを歩いている。
桔梗さんが着ている羽織風の派手な色の服も目立つ。こういう服、最近多いのよね。和モダン、とか呼ばれている服。和と洋を混ぜた服なんだけど。
お金ある人ほどこういう服着るのよね。
私は買ったことないけど。この手の服はちょっと高くて高校生の私には手が出せないからだ。
幸せそうに手を繋いで歩くカップルに、小さな子供の手をひいて歩くお母さんの姿を見ると心が痛くなって、思わず目をそらしてしまう。
家族かぁ……
お父さんたち、どこにいるんだろう。結局その手掛かりはないままだ。
人々の喧騒を聞いているだけで、私の中の孤独が大きくなるような気がした。
百貨店の中に入って、桔梗さんに言われるままにお店へと向かう。
着いたのは、いわゆるファストファッションのお店だった。
ごく普通のTシャツやパンツ、それに流行りの和柄の服も結構おいてある。
「ここなら無難かなぁって思って。どう、葉月ちゃん」
「あ、はい。でもあの、本当にいいんですか?」
不安な気持ちで伊織さんの方を見る。彼はポケットに手を突っ込んでこっちを見て言った。
「大丈夫だっての。金には困ってねえし。っていうか慰謝料みたいなやつ?」
それを受けて桔梗さんが何度も頷いて言った。
「そうそう、遠慮しないで! 伊織はお金あるから!」
「あ、ちょ!」
桔梗さんは私の腕を掴んで歩き出す。
私はきょろきょろと挙動不審に辺りを見回してしまう。
そこはTシャツのコーナーで、色とりどりの半袖のTシャツが並んでいる。中にはキャラクターの絵が描いてあるものもある。
「葉月ちゃん、何色が好き?」
「え? えーと……ぶ、ぶなんなのがいいです」
とっさにいろの名前が出てこなくてそう言いながら私は近くにあったベージュのTシャツを手に取った。
これとかいいかも。無地だし。値札を見ると千五百円って書いてあっておもわず固まってしまう。
お母さんたちがいたときでも、Tシャツ一枚にここまで出したことがない。高くても千円いかない位だ。
躊躇していると、桔梗さんの声が聞こえた。
「その色可愛いー! それほらかごに入れて。あとはー」
って言って、桔梗さんは服を手に取って私に合わせていく。
カゴにどんどん服が入っていくのを見て私は腹をくくる。
時間が経つにつれて服選びがだんだん楽しくなってきた私は、桔梗さんと一緒にトップスの他、ズボンやワンピース、下着なんかもカゴに入れていった。
その数たぶん十着以上。
会計したら万単位で、私は思わず短い悲鳴を上げてしまった。
だけど伊織さんは平然とお金を払ってくれた。
お見せを出たあと、大きな袋を手に提げて、私は伊織さんに深く頭を下げた。
「あ、あ、ありがとうございます」
「気にしなくていいって。あと食器とかかなー。うちそういうのあんまりないんで」
と言った。
そのあと食器とかの生活必需品を買って、夕食を食べたあと私たちは伊織さんの屋敷に帰った。
すごい荷物の量だなぁ。
大きな袋が六つもある。
靴や下駄サンダルまで買ってもらって、何万円かかったんだろう。大丈夫かな、これ。
不安な面持ちで、広い玄関に置いたショップ袋を見つめる。
すると背後で桔梗さんの軽快な声が響いた。
「ただいまーっと。じゃあ私は帰るから、今夜からは伊織、よろしくねー!」
「あぁ、付き合ってくれてありがと、桔梗」
その声に私は慌てて振り返る。
その時にはすでに桔梗さんの姿は玄関から消えていた。
音も無く、気配も無く。あやかしってすごい。
呆然としていると、伊織さんが玄関にあがり、六個の袋を両手に持つ。
そして私に向かって言った。
「とりあえず、中入って」
「あ、はい。そう、ですね」
私は慌てて靴を脱いで、伊織さんの跡をついていった。
初めて入った、居間と思われる部屋を見て、私は思わず固まってしまう。
一〇畳以上は余裕でありそうな畳と洋室が半分半分の部屋。
畳の部分には黒い大きな座椅子が置かれていて、座卓が置いてある。そして壁際には最新の薄型の大きなテレビジョン。
それはいいんだけど……
床に散らばる服に雑誌に書類になんだろう。
よく言えば雑然としているし、悪く言えば……散らかっている。
その中を物を器用によけながら、伊織さんは歩いていった。
