「ちょ……ちょっとそれおかしいでしょ? 絶対遊ぶだけとかじゃないよね」
震える声でいうと、奈美はきゃはは、と笑う。
「葉月だってそういうことしてるんでしょ? 私知ってるよ? 葉月の家、借金あって大変だったんでしょ。なのに家売ろうとしなくて困ってるって。だから葉月、借金返すためにお金持ちに買われたんでしょ?」
「違う! 私、そんなことしてない!」
私は奈美の言葉にかぶせるように言って強く否定する。
伊織さんはそんな人じゃないし、買われてもいないもの。むしろ救ってくれた人だ。
私の反応を見て、奈美は不思議そうな顔になる。
「でも葉月、さっき一緒に暮らしてる人がいるって言ってたじゃないの。その人に買われたんでしょ? 私知ってるんだから」
そして口もとに手を当てて笑う。
そんな奈美が、私にはとてつもないバケモノに思えた。
伊織さんは自分をバケモノだって言っていたけど、絶対に違う。
私を売ろうとした闇オークションの人たち。私をだました借金取りたち。そして、彼のためにお金が必要だと言う奈美。
バケモノは伊織さんたちじゃない。
この世界で生きている人間たちの方だ。
そのことに私は怖くなる。
私はがたり、と立ち上がる。
だってこんなところにいたくないから。
「私は誰にも買われてない。私と一緒に暮らしてる人は悪い人じゃないし、そういう人を取り締まる人だもの」
「なにそれ? まるで私たちが悪い人みたいじゃないの」
奈美はすっと目を細めて厳しい顔になる。その顔が子供の頃に見た般若みたいに見えて怖かった。
「だ、だって、お金持ちと遊ぶって絶対それだけじゃないよね。それって……」
「お金貰って、気持ちいいことするだけだよ。何が悪いの?」
「わ、悪いでしょ。だってそれってばい……」
そこで私は息をのむ。
奈美が立ち上がって、私を睨み付けている。
そして声を上げた。
「だからそれの何が悪いの? お小遣いもらって、その一部をこっちはもらうだけよ? これはビジネス。女の子はお金が欲しい。男たちは若い子と遊びたい。需要と供給ってやつ? だから何も悪いことないじゃないの」
「よ、よくないって。そもそもなんで奈美、私が売られそうになった事知ってるの? おかしいでしょ!」
言いながら、嫌な予感が頭をよぎる。
伊織さんが言っていた。私のバイト先に電話した、女性の存在のこと。
奈美は笑ってる。優しい笑みで。それはまるで天使みたいにみえた。そのことにおぞましさを感じてしまう。
「だって、おカネくれるっていうから協力したんだもん。葉月たち、借金で大変だからそれ助けるためにって。だから私、葉月を卒業旅行に誘ったんだもの」
その言葉を聞いたとき、私の全身の体温が下がるような気がした。
なにこれ……
じゃあ奈美は始めから私がどうなるか知っていたって事?
私は売られそうになって、撃たれて……
足が、指が、身体が冷えてきて胃から何かがこみ上げてくる。
私は口を押えて奈美から目をそらした。
早くここから逃げないと。そう思うのに足が重くて動けない。
「それで葉月んち、借金返せたの? 今ここにいて大学休学してるってことはてっきりお金持ちに買われていい生活してるのかと思ったのよ。だってその服、高いやつだよね。他の服も、靴も、鞄も高いやつだし。でもバイトさせるとかおかしくない? 葉月、その人に身体売ってそういうの買ってもらってるんじゃないの? いっしょでしょ」
その言葉を聞いて、私の中で何かが切れる音がした。
「ち、ちがう! 伊織さんはそんなことしないし、お金で私を買うなんて絶対にしない!」
思わず叫ぶ私に、奈美は余裕の笑みを浮かべる。
「へえ、伊織さんて言うんだ、その人。葉月を買って服とか与えてるのに、手を出さないなんてダサッ」
「だから違うってば! 私は買われてないの。伊織さんたちはその組織を潰してる人。私は、伊織さんに助けられたんだから」
「なにそれ、どういうこと? 葉月、もしかして逃げたの?」
責める様な声に、私はびくっとして思わず後ずさる。
何でだろう。
同じ言葉をしゃべっているはずなのに全然話が通じない。
なんでこうなるのよ。
奈美、こんな子じゃなかったはずなのに。
「ホストのせい……? ホストのせいで奈美、そんなになっちゃったの?」
泣きそうな声で言うと、奈美は首を傾げて私を睨み付けてくる。
「彼のせいってなにそれ? 私の彼を馬鹿にしないで。私は私の意思でやってるの。お金が必要だから、お金を稼ぐ。家出していく場所のない女の子を斡旋してお金稼がせて、家を用意して、面倒見てるのよ? 売り上げの一部を私は貰ってる。それだけよ。何もわるいことしてないけど?」
「お、おかしいよそんなの」
私の理解を越えすぎて、それ以上の言葉が出てこない。
奈美は、大きくため息をついて言った。
「残念だな、葉月ならわかってくれるって思ったのに」
「わかんないよ。奈美の言ってること、私には何にもわかんないよ。でも悪い事には関われないよ。ごめん、私、帰るから」
言いながら私は奈美に背を向けようとする。でもその腕をがしっと掴まれてしまった。
「帰すわけないでしょ。全部知られたんだから、葉月、私がもっといい生活送らせてあげる」
まるでいいことみたいに言う奈美の声に私は総毛だつ。
無理、何これ、怖すぎる。
「離して」
何とか腕を振り払おうとするけど、力が強くて全然手が離れない。
奈美、にやにや笑ってる。
もう嫌だ。怖いよ、奈美。
その時だった、聞きなれた男の声が室内に響いた。
『あー、ここが拠点だったのか。たどり着けなくって苦労してたんだよな』
「いたっ」
奈美が声を上げて私からばっと手を離す。
その瞬間、私を抱き寄せて奈美から引き離す腕があった。
「テメエが人身売買、売春組織などの闇組織と深くかかわってるってよくわかったよ」
「い……伊織さん」
闇の中から現れて私を抱き寄せたのは、白い着物にまとった伊織さんだった。
震える声でいうと、奈美はきゃはは、と笑う。
「葉月だってそういうことしてるんでしょ? 私知ってるよ? 葉月の家、借金あって大変だったんでしょ。なのに家売ろうとしなくて困ってるって。だから葉月、借金返すためにお金持ちに買われたんでしょ?」
「違う! 私、そんなことしてない!」
私は奈美の言葉にかぶせるように言って強く否定する。
伊織さんはそんな人じゃないし、買われてもいないもの。むしろ救ってくれた人だ。
私の反応を見て、奈美は不思議そうな顔になる。
「でも葉月、さっき一緒に暮らしてる人がいるって言ってたじゃないの。その人に買われたんでしょ? 私知ってるんだから」
そして口もとに手を当てて笑う。
そんな奈美が、私にはとてつもないバケモノに思えた。
伊織さんは自分をバケモノだって言っていたけど、絶対に違う。
私を売ろうとした闇オークションの人たち。私をだました借金取りたち。そして、彼のためにお金が必要だと言う奈美。
バケモノは伊織さんたちじゃない。
この世界で生きている人間たちの方だ。
そのことに私は怖くなる。
私はがたり、と立ち上がる。
だってこんなところにいたくないから。
「私は誰にも買われてない。私と一緒に暮らしてる人は悪い人じゃないし、そういう人を取り締まる人だもの」
「なにそれ? まるで私たちが悪い人みたいじゃないの」
奈美はすっと目を細めて厳しい顔になる。その顔が子供の頃に見た般若みたいに見えて怖かった。
「だ、だって、お金持ちと遊ぶって絶対それだけじゃないよね。それって……」
「お金貰って、気持ちいいことするだけだよ。何が悪いの?」
「わ、悪いでしょ。だってそれってばい……」
そこで私は息をのむ。
奈美が立ち上がって、私を睨み付けている。
そして声を上げた。
「だからそれの何が悪いの? お小遣いもらって、その一部をこっちはもらうだけよ? これはビジネス。女の子はお金が欲しい。男たちは若い子と遊びたい。需要と供給ってやつ? だから何も悪いことないじゃないの」
「よ、よくないって。そもそもなんで奈美、私が売られそうになった事知ってるの? おかしいでしょ!」
言いながら、嫌な予感が頭をよぎる。
伊織さんが言っていた。私のバイト先に電話した、女性の存在のこと。
奈美は笑ってる。優しい笑みで。それはまるで天使みたいにみえた。そのことにおぞましさを感じてしまう。
「だって、おカネくれるっていうから協力したんだもん。葉月たち、借金で大変だからそれ助けるためにって。だから私、葉月を卒業旅行に誘ったんだもの」
その言葉を聞いたとき、私の全身の体温が下がるような気がした。
なにこれ……
じゃあ奈美は始めから私がどうなるか知っていたって事?
私は売られそうになって、撃たれて……
足が、指が、身体が冷えてきて胃から何かがこみ上げてくる。
私は口を押えて奈美から目をそらした。
早くここから逃げないと。そう思うのに足が重くて動けない。
「それで葉月んち、借金返せたの? 今ここにいて大学休学してるってことはてっきりお金持ちに買われていい生活してるのかと思ったのよ。だってその服、高いやつだよね。他の服も、靴も、鞄も高いやつだし。でもバイトさせるとかおかしくない? 葉月、その人に身体売ってそういうの買ってもらってるんじゃないの? いっしょでしょ」
その言葉を聞いて、私の中で何かが切れる音がした。
「ち、ちがう! 伊織さんはそんなことしないし、お金で私を買うなんて絶対にしない!」
思わず叫ぶ私に、奈美は余裕の笑みを浮かべる。
「へえ、伊織さんて言うんだ、その人。葉月を買って服とか与えてるのに、手を出さないなんてダサッ」
「だから違うってば! 私は買われてないの。伊織さんたちはその組織を潰してる人。私は、伊織さんに助けられたんだから」
「なにそれ、どういうこと? 葉月、もしかして逃げたの?」
責める様な声に、私はびくっとして思わず後ずさる。
何でだろう。
同じ言葉をしゃべっているはずなのに全然話が通じない。
なんでこうなるのよ。
奈美、こんな子じゃなかったはずなのに。
「ホストのせい……? ホストのせいで奈美、そんなになっちゃったの?」
泣きそうな声で言うと、奈美は首を傾げて私を睨み付けてくる。
「彼のせいってなにそれ? 私の彼を馬鹿にしないで。私は私の意思でやってるの。お金が必要だから、お金を稼ぐ。家出していく場所のない女の子を斡旋してお金稼がせて、家を用意して、面倒見てるのよ? 売り上げの一部を私は貰ってる。それだけよ。何もわるいことしてないけど?」
「お、おかしいよそんなの」
私の理解を越えすぎて、それ以上の言葉が出てこない。
奈美は、大きくため息をついて言った。
「残念だな、葉月ならわかってくれるって思ったのに」
「わかんないよ。奈美の言ってること、私には何にもわかんないよ。でも悪い事には関われないよ。ごめん、私、帰るから」
言いながら私は奈美に背を向けようとする。でもその腕をがしっと掴まれてしまった。
「帰すわけないでしょ。全部知られたんだから、葉月、私がもっといい生活送らせてあげる」
まるでいいことみたいに言う奈美の声に私は総毛だつ。
無理、何これ、怖すぎる。
「離して」
何とか腕を振り払おうとするけど、力が強くて全然手が離れない。
奈美、にやにや笑ってる。
もう嫌だ。怖いよ、奈美。
その時だった、聞きなれた男の声が室内に響いた。
『あー、ここが拠点だったのか。たどり着けなくって苦労してたんだよな』
「いたっ」
奈美が声を上げて私からばっと手を離す。
その瞬間、私を抱き寄せて奈美から引き離す腕があった。
「テメエが人身売買、売春組織などの闇組織と深くかかわってるってよくわかったよ」
「い……伊織さん」
闇の中から現れて私を抱き寄せたのは、白い着物にまとった伊織さんだった。
