家なし少女はあやかし執行官の執愛に囚われる

 私は携帯電話の画面を思い出す。
 いくら見ても見当たらなかった奈美のメッセージ。
 着信履歴にも奈美の名前はなかった。知らない番号とかあったけど、番号変えたとかあるかな?
 でもそれならメールくれるよね?
 すっごく胸騒ぎがする。なのに奈美が通うって言っていた学校の名前が全然思い出せない。
 思い出そうとすると頭が痛くなってきてしまう。やだな、私、記憶がおかしくなってるのかな。
 もし奈美に何かあったらどうしよう……やだ、怖すぎる。
 伊織さんたちなら奈美、捜せるかな。
 そう思って私は、伊織さんの腕をばっと掴んで言った。
 
「伊織さん、あの、友だち、捜してほしいです」

「友だちって誰?」

 言いながら伊織さんは小さく首を傾げた。

「卒業旅行に一緒に行った友だちなんです! 名前は菊間奈美。家はあの……」

 住所を言おうとしたけど、友だちの家の住所なんて覚えてるわけがない。
 だから私は奈美のことで覚えている限りのことを伝えた。
 親の職業、家族構成、奈美の家の近所にあったもの。トーキョーのどこかの大学に通っているはずって事。
 伊織さんは黙って話を聞いたあと、私の肩にぽん、と手をおいて不敵に笑う。

「わかった。その子の事を調べればいいんだな」

 と言って力強く頷く。
 それを聞いて私は大きく息を吐いた。

「ほんとうですか? ありがとうございます! 私の携帯に連絡先登録されているので必要なら見てください!」

 そう私が言うと伊織さんは、

「携帯に異常がないってわかったら」

 と言ってくれた。
 よかった。私の携帯、何もしかけられてないといいけど。
 伊織さんたち、借金取りの拠点を見つけてくれたし、きっと大丈夫だよね。
 お父さんたちもきっと見つかる。
 そう思ったらちょっと安心してきた。
 私は伊織さんから腕を離して、テレビの方を見た。
 娯楽番組が終わって、ニュースの時間になっている。
 殺人事件の話、マフィアとかヤクザが捕まった話、行方不明事件の話。
 伊織さんがおもむろにチャンネルをかえて言った。

「葉月さん、明日、出かけない?」

「え? 出かけるって」

「藤の花。そろそろ満開なはずだから」

「藤、ですか……?」

 藤、といわれても全然ピンとこない。
 私が首をかしげると、伊織さんは笑って携帯を片手に持つ。

「あぁ、知らないか。こういう花」

 伊織さんは携帯で検索して画像を見せてくれる。
 そこに映し出されたのは、紫の雨のような満開の花たちだった。

「あ、知ってる! これ、藤って言うんですね。名前は初めて知りました」

「そっかー。少しここから離れているけど、神社で藤祭りってやってるんだけど毎年行ってんだよね」

 そうなんだ、全然知らなかった。
 って……
 私は伊織さんの言葉を頭の中で繰り返す。
 神社で藤祭り。
 私は不思議に思い、伊織さんの問いかけた。

「あの、あやかしって神社に入れるんですか?」

 そんな私の疑問に、伊織さんは心底おかしそうに笑った。

「あはは、そっかー、そう思うんだ。神社は神域だし下位のあやかしならはいれねえとかあるけど、俺はそんな軟なやつじゃないからな」

「じゃあ大丈夫なんですね。ちょっと心配でした」

「じゃなくっちゃ、行きたいなんて自分から言わねえよ」

 そう恥ずかしげに笑い、伊織さんは携帯を座卓に置く。
 そう言われてみればそうね。
 漫画とかの影響だけど、あやかしって神社に入れないかと思ってた。
 私は伊織さんをジーと見る。
 でも伊織さん、普通のあやかしじゃないんだもんね。そもそも人の形してるけど、本当に伊織さん、あやかしなのかな。
 すっと姿消したり、銃を片手で壊したりしていたけど、それだけだ。
 桔梗さんは二股の尻尾があるし金色に目が光る。
 真琴さんは三角の耳がある。
 祐飛さんは黒い羽根を残して消える。
 でも伊織さん、見た目的に変わったところ、ないし。
 私の視線に気がついたのか、伊織さんは含みのある笑みで言った。

「何、俺の顔見つめてどうかした?」

「あの、伊織さんはどう見ても人間にしか見えないから、あやかしの総大将っぽくないなーって思って」

 そう私が言うと、伊織さんは私の頬を両手で掴んで顔を近づけてくる。
 そして、じっと私の目を見つめて言った。

「言ってるだろ、俺はバケモノだって。今のこの姿は借りの姿。本当に姿なんて知らない方がいい」

 すごく真面目な顔で伊織さんが言う。
 バケモノ、っていわれても私の想像できるものじゃないのかな。
 全然わかんない。ぬらりひょんがそもそもどんな姿なのか知らないしな……
 私は伊織さんに笑って答える。
 
「バケモノの姿でも伊織さんは伊織さん、ですよね。だって中身まで変わらないわけだし」

 すると伊織さんはしばらく黙ったあと、ふっと笑い、

「そうだな」

 と呟き私からそっと手を離した。