家なし少女はあやかし執行官の執愛に囚われる

「おい、なんだ! 何が起きた!」

 暗闇の中で騒ぐ声がする。
 何が起きているのかわからず私はきょろきょろと辺りを見回す。窓がないから光源がなくって、何にも見えない。
 懐中電灯のあかりが、舞台の上で光っているのに気がついた。

「主電源を早く確認しろ!」

 なんて叫び声が聞こえたときだった。

「はいはーい、全員そこから動くなよ。ナイトヴァルトだ」

 っていう、飄々とした男の声が聞こえた。

「ナイトヴァルト?」

「闇の執行官だ!」

 そんな声が聞こえたかと思うと、悲鳴が響いた。

「どういうことだ! 政府のいぬじゃないか!」

「いぬかぁ。いぬじゃないんだなあ、これが」

 その声の後、ばっと灯りが点く。
 すると客席の真ん中で、白髪に黄色いサングラスをかけたかっこいい青年が、ひとりの客を縛り上げていた。
 青年は白地に紺色でなんかおどろおどろしい絵が描かれた羽織を着て、黒いズボンに黒い革靴を履いている。
 なにこれ。
 カタカタと震えながらあたりを見回すと、他にも数人の派手な羽織姿の男性や女性がいて、客や従業員を縛り上げているみたいだった。
 闇の執行官……て、都市伝説の? 悪い人を法律の外で取り締まるっていう、人間じゃないって噂のあるあの……?
 私は呆然と客席の様子を見つめた。

「……白い髪……お前が闇の執行官の……!」

 なんて声が聞こえたかと思うと、白い髪の男性はにやっと笑ってこっちを見て言った。

「あはは、俺の事知っているんだ。以後お見知りおきを。まあ、二度と会うことはないだろうけどな」

 そしてすっと姿が消えたような気がした。

「な、なに?」

 見回すと、舞台の上にいる銃を持った男がきょろきょろとしているのが見えた。
 嘘、この人たち銃なんて持ってるの?

『俺たちに人間の武器は通じないよ』

 そんな声が聞こえたかと思うと、その男の背後に白髪の青年が現れ、その手に持つ銃を掴んだ。

「ひっ! ば、バケモノ!」

「その通りだよ、俺たちはバケモノだ」

 ニヤニヤと笑いながら言って、青年は銃を握りしめバキッとそれをへし折った。
 うそ……銃が折れた。
 呆然としていると、袖の方から女の子の声が聞こえた。

「いおりー! 女の子たちは全員保護したわよ」

 青年は頷き、男を文字通り張り倒す。

「あぁ、わかった」

 何が起きているのかわからずに呆然としていると、私のそばで声が聞こえた。

「く……バケモノだと?」

 ハッとして、私は顔を上げる。
 すると私を舞台上に連れてきた男が、羽織の胸に手を入れて何かをとりだそうとしていた。
 あの黒いやつ……あれは銃? どうしよう、あの白髪の人、気が付いてないよね。
 危ない!
 そう叫びたいのに口を塞がれているから声が出せない。
 せっかく助けに来てくれたのに、このままじゃあの人、撃たれちゃう……!
 私はとっさに立ちあがって、足枷をはめられた足で男にとびかかった。

 バーン!

 渇いた音と、お腹に感じる鈍い痛み。

「ちょ……」

 驚いたような声がいくつも重なる。
 完全に固まっている男を、金髪の青年が後ろから羽交い絞めにしているのが見えた。
 なんでかな、お腹が熱い。私はゆっくりとお腹に触れて目を落とした。
 あぁ、真っ赤だ。真っ白の服が真っ赤に染まってる。
 私、死ぬのかなぁ。
 親に捨てられて、借金背負わされて、オークションにかけられてこんな終わり迎えるんだ。
 できたら次は、家族に囲まれて最期を迎えたいな……
 最後に見たのは、焦った顔の白髪の綺麗な青年だった。