夕食の後、伊織さんの携帯が鳴った。あれ、この音楽何かのアニメの曲じゃないかな。
伊織さんは携帯を操作してそれを耳にあてて言った。
「あぁ、桔梗」
桔梗さんからってなんだろう。
伊織さんはこちらをちらっと見る。その目が鋭く細められた気がして、私はびっくりしてしまった。
どうしたのかな、何が起きているんだろう。
伊織さんは不敵に笑って頷き言った。
「あぁ、わかった。すぐ行く」
そして電話を切って、伊織さんは私の方を見て言った。
「葉月さん、準備して。今から借金取りの拠点に乗り込むから」
「え、今からですか?」
驚く私に伊織さんは楽しそうな顔で頷く。
そして彼は私に手を伸ばしながら言った。
「今、真琴がこっちに車持ってくるから。それで君に確認してほしいんだ。借金取りの中の君を連れ去ったやつがいるかどうか」
犯人を、確認する。
あの、家に帰った時にいた借金取りたちの姿を思い出すと心臓が痛くなってくる。
思い出そうとすると胃の中の物が逆流しそうになって、私は思わず口を押えた。
そんな私の肩にそっと伊織さんの手が触れる。
「大丈夫。あんたを傷つける様なことにはならないから」
その声に私は小さく頷く。
伊織さんたちが強いのはわかってるんだけど……湧き上がる恐怖はそう簡単に消えなかった。
それでも私……がんばらないと、だよね。
だってそうしないと私、ずっと追われることになるんだもん。
気持ち悪いのをぐっと押さえて、私は無理やりな笑顔をつくる。
「わかりました、がんばります」
そう言ったものの出た声はちょっと震えていた。
夜の繁華街。
真琴さんが運転する黒くて大きな車の後部座席にのせられて、私はその時を待っていた。
車の中にはモニターがいくつもあって、例の借金取りたちの様子が映し出されている。
伊織さんは、ノートパソコンにUSBみたいなのをさしながら言った。
「それで葉月さん。今日あの二階の事務所に出入りしていたやつらの映像なんだけど、この中に犯人、いるかな」
「えーと……」
私は必死に記憶をたどる。
男は何人かいた。人数は正確に覚えていないけど、三人以上はいたと思う。
その中で覚えているのはひとりだけだ。たしか「アラキ」って名乗っていたはず。
私は映像を見ながら必死に思い出そうとする。白髪交じりの黒髪だったような。あとけっこう色が黒かったかな。身体が大きくって……他何かなかったっけ。
どうも記憶がぼやけてる。思い出せないのがなんだかもどかしい。そんなに前のことじゃないのにな。
映像に映る怖そうな男たちは十人近くいただろうか。
映像のひとつ、高そうな車から降りてくる真っ赤な羽織を着た男の姿が目に付いた。
他の男たちとは明らかに雰囲気が違う。
私は画面を見つめながら思い出したことを伝えた。
「たしか名前はアラキです。白髪交じりの黒髪だったんですけど……ちょっとこの人に似てるような気がします」
言いながら、私は派手な赤い羽織の男の人を指差す。
画像が荒いからよくわかんないけど、体格とかが似ている気がする。
「ちょっと待って」
って、伊織さんはパソコンを操作する。映像が停止して、なにやらカタカタやっている。
赤い羽織の人物の顔がアップになってちょっと見やすくなる。
髪の毛の色、黒に白が混じっているみたいだ。
なんか思い出そうとすると気持ち悪くなって、私は胃のあたりを押さえた。
「こいつ?」
「そうです、たぶん……」
私の耳の奥でその男の声が響く。
なんて言ってるのかわかんないけど、あのときの恐怖を思い出してしまう。
「葉月さん?」
すぐ横で、伊織さんのとても穏やかな声がする。
「わりいな、怖いこと思い出させて」
気遣うように言って、伊織さんは私の肩に手を回してそっと抱いた。
伊織さんの匂いがする。
煙草の匂いは正直好きじゃないけど、そんな匂いでも今の私にはとても追いつくものに思えた。
「だい……じょうぶです。すみません、思いだすとだめで」
言いながら私はぶるり、と震えてしまう。
そんな私を抱き寄せて、伊織さんは頭にそっと口づけてくる。
「こいつらは俺たちでぶっ潰すから」
なんて物騒なことをとても優しい声で言った。
声と内容の落差がすごい。
伊織さんは私の肩を抱き寄せたまま言った。
「こいつは『アラキナオヒコ』。この金融会社さんの偉い人だから間違いなさそうだな」
笑いを含んだ声で言って、伊織さんはパソコンを閉じる。
そして運転席に座る真琴さんに向かって言った。
「祐飛と桔梗は」
「うん、もう持ち場についてるよ」
「わかった。じゃあ真琴、葉月さんをよろしく」
「わかってる」
そんなやり取りの後、伊織さんが私の方を向いて微笑んで言った。
「君の借金はおにーさんが帳消しにしてくるから。荷物も撮り返してくるよ」
そして私の頭にぽん、と手を置く。
その手がなんだかすっごく温かく感じて、怖かった思いがちょっとだけ小さくなった気がする。
「はい、あの……ありがとうございます」
今にも泣きそうな声で言うと、伊織さんはするっと私の髪を撫でて肩から手を離し、スーツの胸ポケットから赤いサングラスを取り出す。
そしてそれをかけて車のドアを開いて外へと出ていった。
伊織さんは携帯を操作してそれを耳にあてて言った。
「あぁ、桔梗」
桔梗さんからってなんだろう。
伊織さんはこちらをちらっと見る。その目が鋭く細められた気がして、私はびっくりしてしまった。
どうしたのかな、何が起きているんだろう。
伊織さんは不敵に笑って頷き言った。
「あぁ、わかった。すぐ行く」
そして電話を切って、伊織さんは私の方を見て言った。
「葉月さん、準備して。今から借金取りの拠点に乗り込むから」
「え、今からですか?」
驚く私に伊織さんは楽しそうな顔で頷く。
そして彼は私に手を伸ばしながら言った。
「今、真琴がこっちに車持ってくるから。それで君に確認してほしいんだ。借金取りの中の君を連れ去ったやつがいるかどうか」
犯人を、確認する。
あの、家に帰った時にいた借金取りたちの姿を思い出すと心臓が痛くなってくる。
思い出そうとすると胃の中の物が逆流しそうになって、私は思わず口を押えた。
そんな私の肩にそっと伊織さんの手が触れる。
「大丈夫。あんたを傷つける様なことにはならないから」
その声に私は小さく頷く。
伊織さんたちが強いのはわかってるんだけど……湧き上がる恐怖はそう簡単に消えなかった。
それでも私……がんばらないと、だよね。
だってそうしないと私、ずっと追われることになるんだもん。
気持ち悪いのをぐっと押さえて、私は無理やりな笑顔をつくる。
「わかりました、がんばります」
そう言ったものの出た声はちょっと震えていた。
夜の繁華街。
真琴さんが運転する黒くて大きな車の後部座席にのせられて、私はその時を待っていた。
車の中にはモニターがいくつもあって、例の借金取りたちの様子が映し出されている。
伊織さんは、ノートパソコンにUSBみたいなのをさしながら言った。
「それで葉月さん。今日あの二階の事務所に出入りしていたやつらの映像なんだけど、この中に犯人、いるかな」
「えーと……」
私は必死に記憶をたどる。
男は何人かいた。人数は正確に覚えていないけど、三人以上はいたと思う。
その中で覚えているのはひとりだけだ。たしか「アラキ」って名乗っていたはず。
私は映像を見ながら必死に思い出そうとする。白髪交じりの黒髪だったような。あとけっこう色が黒かったかな。身体が大きくって……他何かなかったっけ。
どうも記憶がぼやけてる。思い出せないのがなんだかもどかしい。そんなに前のことじゃないのにな。
映像に映る怖そうな男たちは十人近くいただろうか。
映像のひとつ、高そうな車から降りてくる真っ赤な羽織を着た男の姿が目に付いた。
他の男たちとは明らかに雰囲気が違う。
私は画面を見つめながら思い出したことを伝えた。
「たしか名前はアラキです。白髪交じりの黒髪だったんですけど……ちょっとこの人に似てるような気がします」
言いながら、私は派手な赤い羽織の男の人を指差す。
画像が荒いからよくわかんないけど、体格とかが似ている気がする。
「ちょっと待って」
って、伊織さんはパソコンを操作する。映像が停止して、なにやらカタカタやっている。
赤い羽織の人物の顔がアップになってちょっと見やすくなる。
髪の毛の色、黒に白が混じっているみたいだ。
なんか思い出そうとすると気持ち悪くなって、私は胃のあたりを押さえた。
「こいつ?」
「そうです、たぶん……」
私の耳の奥でその男の声が響く。
なんて言ってるのかわかんないけど、あのときの恐怖を思い出してしまう。
「葉月さん?」
すぐ横で、伊織さんのとても穏やかな声がする。
「わりいな、怖いこと思い出させて」
気遣うように言って、伊織さんは私の肩に手を回してそっと抱いた。
伊織さんの匂いがする。
煙草の匂いは正直好きじゃないけど、そんな匂いでも今の私にはとても追いつくものに思えた。
「だい……じょうぶです。すみません、思いだすとだめで」
言いながら私はぶるり、と震えてしまう。
そんな私を抱き寄せて、伊織さんは頭にそっと口づけてくる。
「こいつらは俺たちでぶっ潰すから」
なんて物騒なことをとても優しい声で言った。
声と内容の落差がすごい。
伊織さんは私の肩を抱き寄せたまま言った。
「こいつは『アラキナオヒコ』。この金融会社さんの偉い人だから間違いなさそうだな」
笑いを含んだ声で言って、伊織さんはパソコンを閉じる。
そして運転席に座る真琴さんに向かって言った。
「祐飛と桔梗は」
「うん、もう持ち場についてるよ」
「わかった。じゃあ真琴、葉月さんをよろしく」
「わかってる」
そんなやり取りの後、伊織さんが私の方を向いて微笑んで言った。
「君の借金はおにーさんが帳消しにしてくるから。荷物も撮り返してくるよ」
そして私の頭にぽん、と手を置く。
その手がなんだかすっごく温かく感じて、怖かった思いがちょっとだけ小さくなった気がする。
「はい、あの……ありがとうございます」
今にも泣きそうな声で言うと、伊織さんはするっと私の髪を撫でて肩から手を離し、スーツの胸ポケットから赤いサングラスを取り出す。
そしてそれをかけて車のドアを開いて外へと出ていった。
