家なし少女はあやかし執行官の執愛に囚われる

 居間に行って、私は携帯の設定をする。
 お父さんたちの電話番号も奈美たち友だちの電話番号も全然覚えてないから、誰とも連絡取れない。
 奈美たち、心配してるよね……
 私の携帯、無事だといいけど。
 そう思うと寂しさで心の中がいっぱいになる。
 でも今はまず、借金取りの問題をどうにかしないと。
 もしかしたらあの人たちが何か知ってるかもしれないし。
 それまでの辛抱だ。
 そう自分に言い聞かせて私は携帯を見つめた。
 初期設定が終わって、私は着崩した着物姿でノートパソコンを開く伊織さんの方を向いて言った。

「あの、伊織さん。設定できました!」

 すると伊織さんは手を止めて、携帯を手に持ってこちらを向く。

「じゃあ交換しようか」

 と言い、携帯を開いた。
 伊織さんと連絡先を交換して、私はそれを握りしめて言った。

「ありがとうございます。そうしたら私、夕飯、作りますね!」

 といっても難しいものは作れないけど。
 カレーは作れるから、今日は牛肉のカレーにするんだ。
 料理の本も買ってもらったし、それで料理の勉強もしよう。
 意気込む私に、伊織さんは嬉しげに笑って頷いた。

「うん、ありがとう」


 食卓に並ぶ、なんの変哲もないカレーとサラダ。それにお惣菜のポテトサラダ。
 昔からお手伝いしていたし、休みの日は自分でご飯作ったりしていたからまあまあうまくできたと思う。
 この家、お皿とかもなかったからカレー用のお皿も買ってもらったんだ。
 食卓にならぶお皿を見て、伊織さんは顔をほころばせて言った。

「ありがとう、葉月さん」

 私は買ってもらったばかりの桜色のエプロンを着たままはにかむ。

「食べましょう、伊織さん」

 言いながら私はエプロンをはずし、伊織さんの向かい側に座る。
 飲み物は温かいほうじ茶を用意した。
 スプーンを手にして私たちは同時に言った。

「いただきます」

 自分で作ったカレーは、美味しいのかおいしくないのかよくわからなかったけど、食べられる味ではあったと思う。ちゃんとカレーの箱に書いてあった通りに作ったから問題はないはず。
 伊織さんはひと口食べて私の方を向いて言った。

「おいしいよ」

 って。

「よ、よかったです。久しぶりにつくったからちょっと心配だったけど……」

「そうなんだ。手慣れてたけど料理ってしてたの?」

「はい、すっごくしていたわけじゃないですけど、時々」

 そう答えると、伊織さんはちょっと驚いたような顔になる。

「そうなんだ。最近の子ってあんまり料理しないかと思っていたけど、そうでもないんだね」

「うーん……する子はしますよ。私の友だち、半分くらいはしてたと思うし」

 一番仲がいい奈美はそういうのはしないって言ってたな。お菓子は作るけどって。親がお金持ちらしいからする必要がないのかもしれないけど。
 友だちのことを思い出して思わず手が止まる。

「皆、心配してるかな……」

「家族は俺たちで探してるから。公的に転居届が出されていなくてまだ行方がつかめてないんだ」

「そう、なんだ……」

 いったいどこに行ったんだろう。何があって、失踪したのかな。

「あんたが住んでいた辺り、駅前だし最近高層マンションできて、商業施設も増えていたでしょ」

 そう言われて、私は頷く。
 私が住んでいた家は大きな駅の近くだった。
 おじいちゃんの、もっと前から住んでいたらしくって、周りには古い住宅が多かった。
 でも駅が近いからどんどん土地開発が進んで、土地の値段も上がる一方だったらしい。

「そういえば、家を売ってほしいって話が多いってお父さんたちが言ってたな……」

 もうしょっちゅう、そう言う話がきては断っていたらしい。

「それじゃねえかな、借金取りたちの狙い」

「え?」

「駅近くの、高騰している土地。さらに値段は上がる一方だ。だから地上げ屋に目をつけられたんじゃねえかな」

 そう言った伊織さんの目が妖しく光ったような気がした。
 地上げ屋。って聞いたことないけどなんだろう。

「地上げ屋って言うのは……開発予定の土地をまとめて買い上げる奴ら。持ち主に交渉してふつうは円満にどいてもらうんだけど、中には脅迫じみた事をやる奴らもいるんだよ」

「そんなことあるんですか……?」

 なんだか映画みたい。

「ああ。じっさいほかの家も怖い人たちがやってきてなくなく立ち退きしてるって聞いたしな」

 なんだか知らないうちにとんでもないことになってるらしい。すごい世界。

「もともとあんたのおじいさんの債権を借金取りたちが引き取ったのも、元々土地狙いだったんじゃねえかなー」

「そ、そんなことであんなこと……」

「昔からあるよ。土地ってのは何億もの金が動く事があるからな。だから手段も選ばねぇんだよ。昔は拉致も殺人も、放火もあったんだからな」

 その話に私は心が冷えるばかりだった。