家なし少女はあやかし執行官の執愛に囚われる

 私は縁側に座って、式神さんと一緒に洗濯物を畳んでいた。
 私の箪笥が届くのはまだ先だから、カゴにしまうしかできない。
 伊織さんの服もとりあえずカゴにまとめておいたけどこれ、ちゃんと伊織さんは片付けられるのかな。
 そう思って私は縁側から上を見上げる。
 
「伊織さんの部屋、どうなってるんだろう」

 やっぱり散らかってるのかな。でも勝手に入るわけにはいかないし。でも気になる。
 伊織さんは今、出かけてる。
 このお屋敷、一階は私が使わせてもらっている和室の他にもいくつか部屋があったけど使われていないみたいだった。
 ということは二階に伊織さんの寝室があるはずよね。
 階段を上り下りしてる様子はあるし。
 伊織さん、あんまり足音がしないからよくわかんないけど。
 私は、伊織さんの服をいれたカゴに視線を向ける。
 
「これを届けに行くついでだし……上、あがってみようかな」

 そう呟いて私は立ち上がって、カゴを手に持って階段の方へと向かった。
 私の横を、音も無く式神さんがついてくる。
 階段の下に立って、私は上を見上げる。
 昔からの日本家屋にあるちょっと急な階段で、上を見るとなんだか薄暗く見える。
 お化けでそう。
 そう思って私は首を横に振る。

「そもそも伊織さん、あやかしじゃないの。お化けなんているわけないわよね」

 そう言い聞かせて私はカゴを片手にゆっくりと階段を上った。
 ギシギシ……って音が大きく響く。
 この階段をほとんど音をたてないで上っていく伊織さん、ほんとうに人じゃないんだなぁ、って改めて感じる。
 だって私には足音たてないように階段を上るの、無理だもの。
 階段を上りきって私は辺りを見回す。
 四方に四つの扉が見える。この家本当に広いなぁ。
 どれが伊織さんの部屋なんだろう。
 迷っていると、下から声がした。

「葉月さん」

 その声に私は大げさにびくん、てしてしまう。
 ど、ど、ど、どうしよう。勝手に二階に上がったってしられたら怒られちゃうかな。いや、そんな事じゃあ怒らないとは思うけど

「……葉月さん?」

 声が近づいてくる。って嘘、いる場所ばれてる?
 二階でおろおろしていると、音も無く静かに伊織さんが階段を上ってきた。
 黒い紳士服姿の彼はサングラスを胸ポケットにしまいながら、不思議そうな顔になって言った。

「どうしたの?」

「えーと、その……せ、洗濯物を片付けに……」

 言いながら私は挙動不審になってしまう。
 ドキドキする私に、伊織さんは優しい声で言った。

「あぁ、ありがとう、わざわざ持って来てくれたんだ」

「あ……はい」

 ありがとう、って言ってもらえると嬉しい。よかった、かってに二階にあがっちゃったから大丈夫かちょっと不安だったから。
 その時私は、伊織さんの手に紙袋がぶら下げられていることに気がついた。
 あの色はもしかして。
 私の視線に気がついたらしい伊織さんは、その紙袋を私の前に差し出しながら言った。

「あんたにこれ、渡そうと思って買いに行っていたんだ」

「え、でもこれって……携帯電話?」
 
 袋を受け取りながら私は言った。
 その袋は携帯会社のものだ。
 戸惑う私に、伊織さんはズボンのポケットに手を突っ込みながら言った。

「うん、携帯の行方、わかんないでしょ。連絡取れないと不便だから」

「わ、わざわざ私のために……?」

「俺が連絡取れないと困るからね」

「あ、そっか……そうですね、すみません、いろいろお気遣いいただいてありがとうございます」

 私は深く頭を下げた。
 確かに何かあった時、伊織さんと連絡取れないと困るもんね。
 私は袋から箱を出して、中身を出す。
 箱に書かれていた携帯の形は、伊織さんが使っているものと同じだった。
 確か伊織さんのは白だったけど、私のはピンクっぽい色だ。

「これ……新しいやつじゃあ……」

「うん、考えるの面倒だったからね」

 私は箱を開けて携帯を取り出す。新しい物を開けるとってすごくわくわくする。
 電源を入れると画面に携帯会社の名前が出る。
 
「ネットも使えるからあんま気にしないで使って」

「す、すみませんありがとうございます」

「とりあえず設定したら俺に番号とか教えて」

 携帯を握りしめて伊織さんを見上げ、笑って頷いた。

「はい、わかりました」