家なし少女はあやかし執行官の執愛に囚われる

 キチジョウジの街はいわゆる和モダンで溢れてる。
 特徴的な丸窓に、障子や提灯といった日本を感じさせるものをところどころで見かけることができた。 
 伊織さんに連れられて、私は村雨探偵事務所に来ていた。
 中はすごく広くて奥に畳の空間がある。そこにはテレビが置かれてて、事務所らしさを感じなかった。
 お茶の用意をしながら、狐の真琴さんが色々と教えてくれた。

「あとシャワールームがあって、あっちに和室があってそこで寝られるようになってるんだ。いつも、もうひとりの祐飛っていうのが引きこもってる事が多いから、使うことあんまりないけど」

 祐飛さん。伊織さんが言ってたっけ。
 ちょっとなれるのが大変とかなんとか。
 黒天狗、て言ってたけどどんな人なのかな。
 ぬらりひょんに、ネコマタ、金狐。都市伝説として掲示板で見てきた世界が、今私の目の前に転がっている。
 それがなんだか不思議な感じでドキドキする。 
 私は真琴さんの頭をちらっと見る。
 ふさふさの毛が生えた獣の耳だ。あれ、ふわふわなのかな。
 うー、触りたい。でも触るわけにいかないし。でも気になる。
 私の視線に気がついたらしい真琴さんが、ニヤニヤ笑ってこちらを見た。

「もしかして、僕の耳、気になる?」

 その言葉に、ビクッとしてしまう。
 私は慌てて首を横に振って、否定した。

「そ、そ、そんなことないです」

 そう言ったものの、声が裏返っているから説得力ないわよね。
 耳触りたいってバレてるの、恥ずかしすぎるんだけど?
 私があたふたしていると、真琴さんがカップやお菓子かのった皿をお盆にのせてそれを持ち上げながら言った。

「人間ってほんと、嘘つけないよねー。飲み物とお菓子用意できたし、あっちでお話しようか?」

「は、はい」

 嘘つけないかあ。たしかに私は嘘、つくの苦手かも。
 真琴さんの後をついて私は畳スペースに近づく。
 そこは多分十畳以上はありそうで、大きな長方形の座卓がでん、と中央においてある。
 それをコの字に囲うように置かれたローソファー。
 テレビが置かれている方には座れない様になっていた。
 伊織さん、いつの間にか窓をあけて煙草を吸ってる。知らなかった、煙草吸うんだ。いつもお香みたいな匂いしかしなかったから気が付かなかった。
 煙を吐き出しながら、彼は窓の下へと目を向けているようだった。
 ここはアーケード街。空は見えなくて、向かいの建物や通りが見えるだけだ。
「いおりん、お待たせー」

 草履を脱いで、軽快に音もなく真琴さんは歩き、座卓にカップやお菓子を並べていく。
 伊織さんが煙草を吸い終えるのを待ってから、私たちは座卓を囲って座り話を始めた。
 最初に話し始めたのは真琴さんだった。
 彼は肘をついて私の方を見ながら言った。

「で、葉月ちゃんの親が借金してたって話なんだけど、どうもねー、そんな形跡無かったんだよねー」

 真琴さんは首をかしげる。

「え……でもあの、借金取りの人、確かにお父さんに借金があって、て……借用書にも名前、あったし」

「だからねー、もう少し調べたんだよ。借金していたのは君のお祖父さんみたいなんだよねー。最近亡くなったでしょ」

 そう言われて私は頷く。

「確かにお父さんのほうのおじいちゃん、亡くなりましたけど……」

 たぶん一月の終わりくらいだったと思う。
 お父さんたち、バタバタしてたなあ……

「そのお祖父さんが事業の失敗で借金つくって、その債権がたちの悪い連中に渡ったみたいな感じなんだよねー」

「え、じゃあお父さんたちは関係ないってこと……?」

「そうそう、ただなんで失踪したのかはわからなかったし、どこにいるのかもまだわかってないけど」

 そう、なんだ……
 お父さんたち、大丈夫かな。
 連絡取れないし、どうにもならなくって途方に暮れていたんだけど。
 チョコレートの包みを剥がしながら、伊織さんが真面目な声で言った。
 
「やっぱその借金、返す必要ないよ、葉月さん。あんたが見せられた借用書は偽造したんだろうね。あんたが子供だから騙せると思ったのかな」

「え、でも……何のために……」

 私の戸惑いに答えたのは真琴さんだった。

「最初から葉月ちゃんをうろうと思っていたんじゃないかなー、数ヶ月前から女の子の失踪事件が多発してて、特に身寄りのない子が狙われててね」

「それで俺たちがその組織を追いかけてたわけ」

 そんな事が起きてたんだ……全然知らなかった。

「身寄りのない子を狙うって……家族とかが騒がないように、てことですか……?」 

 おそるおそる私が言うと、真琴さんはうんうん、と頷く。

「そうだねー。売られた子は海外に連れて行かれて奴隷にされたりしてて、可哀想だったよ」

 そう、憎しみを込めた声で真琴さんは言った。
 ん……? 今の言い方だとそれって……

「買った人たちのところに乗り込んだんですか……?」

 おそるおそるたずねると、すると伊織さんは大きく頷いて言った。

「当たり前だろ。この間俺たちがオークション会場に踏み込んだのは、あいつらを一網打尽にするのと、取引先から女の子を保護することだったからな」

「いつの間にそんなこと……」

「ほら、僕たちには国境も国籍も関係ないからねー。人間じゃないから、法律の外で生きているし。飛べるから入国審査もいらないんだよー」

 そうにやっと笑う真琴さんがなんだか怖かった。この人たちと喧嘩は絶対にしないどこう。
 伊織さんがじっと私の顔をみて言った。

「で、たぶんその借金取りは闇オークションに女の子を斡旋していたんじゃねえかなと。で、今回の任務は葉月さんの借用書を見つけ出して、それは無効であることを証明して、誘拐に関わっていた証拠を押さえること。そのために君の証言が必要なんだ」

 その言葉をきいて、私は深く頷いて返事をした。

「わ、わかりました」

 なんだかスパイ活動みたいでドキドキしてきた。
 私は借金取りについて知ってることを全部話した。