パンにカップスープをいただいてちょっと物足りなさを感じていると、カフェオレが入ったカップを手にした伊織さんが言った。
「葉月さん、今日は探偵事務所に行こうと思うんだけど」
「探偵、事務所……?」
私もミルクティーが入ったカップを手に持って首を傾げる。
あぁ、そういえば伊織さん、探偵事務所をやっているって言っていたっけ。
そこで私を働かせてくれるって。
そのことを思い出し、私は思わず腰を軽く浮かせて言った。
「あの、仕事、ですか?」
すると伊織さんはちょっと驚いた顔をした後、苦笑を浮かべる。
「まあそれもあるけど、あんたを追いかけてる借金取りのこと、教えてほしいから」
「あ……」
そうだ、昨日私の借金のこと、話していたもんね。
私は椅子にゆっくりと戻って頷いて答えた。
「わたりました」
「とりあえず、あんたのアパートに借用書とかなかったんだけど」
「……借用書……?」
言いながら私は首を傾げる。
私はお父さんたちがいなくなって借金取りに捕まった時のことを思い出した。
そういえば何か書類見せられて、一千万? だかなんだかの借用書を見せられたような記憶があるけど。
私は不思議に思いながら伊織さんに言った。
「借用書って、借金した人が持っているものなんですか?」
その言葉に、伊織さんは苦笑したまま大きく頷く。
「うん、普通は。やっぱり普通じゃねえみたいだな、あんたの親が借金したってところ」
伊織さんの言葉を聞いて、私が本当に何にも知らなかったことを思い知った。
洗濯物を干したあと、私は着替えをして出かける準備をする。
買ってもらった服は皆洗濯したから、今日私が着ている服はシャツと綿パンだ。
持ち物、それにクリーニングに出す服が詰まった袋を玄関に用意する。
そこで私は思い出す。勝手にクリーニングに出すって言っちゃったけどこれ、大丈夫なのかな……
急に不安に襲われて立ち尽くしていると、伊織さんの声がした。
「準備出来た?」
その声にびくん、ってして私は振り返る。
するとそこには、黒いスーツに帽子をかぶり、黒いサングラスをかけた伊織さんが立っていた。
「あ……はい」
返事をしつつ、私はちらっと伊織さんの服が詰まった袋に視線を向ける。
すると伊織さんの苦笑交じりの声がした。
「クリーニングに出すんだよね。行くついでに持っていこうか」
そう言いながら、伊織さんは靴を履いた後その袋をひょい、ともつ。
クリーニングに出すって言い出したのは私なのに、すっごくおろおろしてしまう。
伊織さんは私に微笑みかけて言った。
「俺の服だし、ちゃんとお金は出すよ」
「す、すみません、なんか出過ぎたことしてるような気がしてその……」
震える声で言いながら私は俯いてしまう。
あぁ、助けてくれた人に私、掃除させてクリーニング代も出させて何してるんだろう。
「そんなことないよ。まあ、掃除するって言い出したのは驚きましたけど」
そんな笑い交じりの声が聞こえる。
そうですよね、人の家なのに、居候なのに……でも、居候だから私にできることはしたい。
そう思って私はゆっくりと顔を上げる。
そうだ、ちゃんと言わないと。私がしたいこと。
私はぎゅっと手を握りしめて伊織さんを見つめた。
「あ、あの、伊織さん」
「何?」
「私に、家事をやらせてください!」
そう、お腹から声を出す。
しばらく間があいた後、伊織さんは目を瞬かせて言った。
「え、えーと家事ってあの……掃除とか炊事とか?」
「そうです、それです」
「洗濯とかゴミ捨てとか、新聞とってきたりとか?」
戸惑った様子で伊織さんが言う。
新聞をとって来るって、郵便受けに取りに行くって意味かな。それって家事とは違う様な。
でもそんな突っ込みは後回しにして、私は大きく頷いて伊織さんにずい、と近づく。
そして力強く言った。
「そうです、家事です! だって家に置いていただくわけだし、仕事までさせてもらうから……だから私に家事、やらせてください、お願いします!」
私は深く大きく頭を下げる。
しばらくの沈黙の後、頭にふわっと手が触れる。
「わかった。見ての通り俺、そういうの気にしてなかったからありがたいよ」
その言葉を聞いて、私の胸の奥が熱くなる。
私はばっと顔を上げて笑顔を向けて言った。
「ありがとうございます!」
「お礼を言うのは俺の方だっての」
あぁ、そう言われてみればそうか。
なんだか気恥ずかしくなって目をそらすと伊織さんが歩き出す。
「そうなるといろいろ必要だよね。遠慮なく言って。お金には困ってないし」
「わかりました」
玄関の戸を開ける伊織さんの背中が、すっごく大きいものに見えた。
「葉月さん、今日は探偵事務所に行こうと思うんだけど」
「探偵、事務所……?」
私もミルクティーが入ったカップを手に持って首を傾げる。
あぁ、そういえば伊織さん、探偵事務所をやっているって言っていたっけ。
そこで私を働かせてくれるって。
そのことを思い出し、私は思わず腰を軽く浮かせて言った。
「あの、仕事、ですか?」
すると伊織さんはちょっと驚いた顔をした後、苦笑を浮かべる。
「まあそれもあるけど、あんたを追いかけてる借金取りのこと、教えてほしいから」
「あ……」
そうだ、昨日私の借金のこと、話していたもんね。
私は椅子にゆっくりと戻って頷いて答えた。
「わたりました」
「とりあえず、あんたのアパートに借用書とかなかったんだけど」
「……借用書……?」
言いながら私は首を傾げる。
私はお父さんたちがいなくなって借金取りに捕まった時のことを思い出した。
そういえば何か書類見せられて、一千万? だかなんだかの借用書を見せられたような記憶があるけど。
私は不思議に思いながら伊織さんに言った。
「借用書って、借金した人が持っているものなんですか?」
その言葉に、伊織さんは苦笑したまま大きく頷く。
「うん、普通は。やっぱり普通じゃねえみたいだな、あんたの親が借金したってところ」
伊織さんの言葉を聞いて、私が本当に何にも知らなかったことを思い知った。
洗濯物を干したあと、私は着替えをして出かける準備をする。
買ってもらった服は皆洗濯したから、今日私が着ている服はシャツと綿パンだ。
持ち物、それにクリーニングに出す服が詰まった袋を玄関に用意する。
そこで私は思い出す。勝手にクリーニングに出すって言っちゃったけどこれ、大丈夫なのかな……
急に不安に襲われて立ち尽くしていると、伊織さんの声がした。
「準備出来た?」
その声にびくん、ってして私は振り返る。
するとそこには、黒いスーツに帽子をかぶり、黒いサングラスをかけた伊織さんが立っていた。
「あ……はい」
返事をしつつ、私はちらっと伊織さんの服が詰まった袋に視線を向ける。
すると伊織さんの苦笑交じりの声がした。
「クリーニングに出すんだよね。行くついでに持っていこうか」
そう言いながら、伊織さんは靴を履いた後その袋をひょい、ともつ。
クリーニングに出すって言い出したのは私なのに、すっごくおろおろしてしまう。
伊織さんは私に微笑みかけて言った。
「俺の服だし、ちゃんとお金は出すよ」
「す、すみません、なんか出過ぎたことしてるような気がしてその……」
震える声で言いながら私は俯いてしまう。
あぁ、助けてくれた人に私、掃除させてクリーニング代も出させて何してるんだろう。
「そんなことないよ。まあ、掃除するって言い出したのは驚きましたけど」
そんな笑い交じりの声が聞こえる。
そうですよね、人の家なのに、居候なのに……でも、居候だから私にできることはしたい。
そう思って私はゆっくりと顔を上げる。
そうだ、ちゃんと言わないと。私がしたいこと。
私はぎゅっと手を握りしめて伊織さんを見つめた。
「あ、あの、伊織さん」
「何?」
「私に、家事をやらせてください!」
そう、お腹から声を出す。
しばらく間があいた後、伊織さんは目を瞬かせて言った。
「え、えーと家事ってあの……掃除とか炊事とか?」
「そうです、それです」
「洗濯とかゴミ捨てとか、新聞とってきたりとか?」
戸惑った様子で伊織さんが言う。
新聞をとって来るって、郵便受けに取りに行くって意味かな。それって家事とは違う様な。
でもそんな突っ込みは後回しにして、私は大きく頷いて伊織さんにずい、と近づく。
そして力強く言った。
「そうです、家事です! だって家に置いていただくわけだし、仕事までさせてもらうから……だから私に家事、やらせてください、お願いします!」
私は深く大きく頭を下げる。
しばらくの沈黙の後、頭にふわっと手が触れる。
「わかった。見ての通り俺、そういうの気にしてなかったからありがたいよ」
その言葉を聞いて、私の胸の奥が熱くなる。
私はばっと顔を上げて笑顔を向けて言った。
「ありがとうございます!」
「お礼を言うのは俺の方だっての」
あぁ、そう言われてみればそうか。
なんだか気恥ずかしくなって目をそらすと伊織さんが歩き出す。
「そうなるといろいろ必要だよね。遠慮なく言って。お金には困ってないし」
「わかりました」
玄関の戸を開ける伊織さんの背中が、すっごく大きいものに見えた。
