幾星霜の呪いの子 ―下町駆け込み寺の怪異譚―

 いつものように三峰家で夕食を済ませ、帰ろうと玄関で靴を履く司の隣に並んだ。
「送る」
「え、なんで?」
「走りに行くから。そのついでに送る」
 司の返事を待たず、先に玄関を出る。すぐに刺すような冷たい空気が顔を包み込んできて、上着のファスナーを口元まで引き上げた。顔を上げると、濃紺の空から小雪が舞い落ちてくるところだった。吐く息が白く染まる。
 スニーカーを履き終えた司が追いついてきた。
「近いから平気だよ」
 司の住むアパートは長栄寺から歩いて五分ほどの場所にある。近くには墨田川が流れ、普段は、ジョギングや犬の散歩をする人が川沿いを多く通る。だが、悪天候だと途端にひと気が途絶えた。
 住宅街の中なので、店も少なく道も暗い。
「最近物騒だから。送る」
 女子高生が姿を消してから二週間が経とうとしていた。目撃証言や遺留品も出てこず、捜査は手詰まりになっているようだ。忙しく飛び回っているのだろう、ここ数日は、佐々木の姿も見ていない。
 二週間――。誰も口にはしないが、諦観の空気が漂い始めている。
「しばらくの間は学校が終わったらすぐ家に帰れ。うちは大丈夫だから」
 料理にも慣れ、時間はかかるが、簡単なものなら作れるようになっていた。
「相変わらず崇文は過保護だね」
 私、もう二十一だよ? と隣から司が覗き込んでくる。
 メイクをしなくても豊かな睫毛、整った眉。くっきりとした二重の瞳は、昔よりわずかに切れ長になった。
 頬は相変わらずなめらかで髭の気配は全くない。ずっと女性として育てられてきた影響なのか、夜も深い時間だというのに、司の頬や顎には産毛(うぶげ)の気配すらなかった。誰がどう見ても美女だ。細い首に突出した喉ぼとけだけは、いつもハイネックの服を着て周囲に隠している。
 もう二十一歳。――いや、まだたったの二十一歳だ。
 もしも今司が死んだら、まだ二十一歳だったのにと誰もが言うだろう。絶対そんなことにはさせない。崇文は真剣な表情で司に言い聞かせた。
「過保護じゃない」
「はいはい」
 女のふりまでして必死で生き伸びてきたのだ。些細なことで司を死なせたりしたくなかった。
 住宅街の中を並んで歩いていると、二台の自転車が崇文たちを追い越して行った。二台とも、制服姿の女子高生が乗っている。二人は走行しながら言葉を交わし、どこか目的地に向かっているようだ。間髪置かず、クロスバイクに乗った男子高校生も同じ方向へと走り去って行く。
「みんなどこ行くんだろう? こんな時間に」
 司が腕時計に目を落とした。
「もう十時だよ?」
 女子高生の行方不明事件も解決していない今、放ってはおけなかった。崇文は小走りに駆け出した。
「ちょっと行ってみよう」
「うん」
 司が後ろをついてきた。