波間の間で泣いた日

「好き。」この言葉を伝えてくれた彼は「嘘つき」の彼。嘘をつかず、まっすぐな彼が大好きだったのに。『嘘に決まってんだろ。ブス』人には裏がある。知っていたはずなのに。心が沈む。そんなことばかりだ。
今日も来てしまった。まっすぐで嘘をつかない、この海に。目尻が熱くなる。家族にも嫌われ、好きだった人にも裏切られ。どうして私はいつもこうなのか。波の音、風の音、海の匂い。背中を押してくれるのは、ここだけ。

『ねぇなんで泣いてんの?』 えっ?『…なんでもない、です。』『いやでも、昨日も泣いてたよね?』見られてたんだ。恥ずかしい。知らない彼は隣に座りだした。 『嫌なことあったんでしょ?』彼は私の心が見えるのか。『まぁはい。』『海って嘘をつかないよね。だから俺は好き。』あーおんなじこと考えてる。名前も知らない彼なのに。『あの。もう帰ります。』『なんでまだ4時だよ?門限厳しい?』『いや。そういうわけじゃないんですけど、勉強したいのと、弟が帰ってくる前に、家についていたいので。なので、お先に失礼します。』『ねぇ!あんた名前は?』『名前…』昔の記憶が蘇る。あれは中1の時。母に言われた。『あんたなんか産まなきゃよかった。名前なんてつけなきゃよかった。』 『言いたくないならいいよ。俺は浦田澪。人生を自分のペースでしなやかに進んでほしい!って意味らしい。高一』】『あっ私も、高一。じゃあ私帰ります。』『またねー』本当は帰りたくなかった。親にも会いたくない。彼ともう少し話していたかった。そんなことを考えながら歩き出す。黄昏時みたいな感覚。彼は何者だったのか。………考えていたらいつのまにか、家の前だった。帰りたくないけど、帰るしかない。勇気を振り絞ってドアに手をかける。『ただいま…』母のうるさい笑い声で私の声はかき消される。まぁいい。とりあえず,リビングに進む。『あら。おかえりぃ』おばあちゃん。私の唯一の光。『ただいま』ぎこちなくても笑みが溢れる。その時、母の声が聞こえた。『あんな勉強はちゃんとやって来たの?綺羅に負けてどうすんの?あの子今日高2レベルを解いたのよ。すごいわよ!』『うん。』また弟の話。おかえりとも言わず。というか最後に私の名前を呼んでくれたのはいつだったけ。それすら思い出せない。