「ご注文のお品物です」
はっとして顔を上げる。
テーブルの上には牛丼と豚汁、それに卵が置かれていた。
「ごゆっくりどうぞ」
店員が去っていく。店内ラジオはいつのまにか終わっていて流行りのJpopが流れていた。
ほんの一瞬だったはずなのに、ずいぶん遠くまで思い出していた気がした。
「またお越しくださいませ」
牛丼屋を出るとスマホの時計は23時を指していた。
なんとなくひまわりのアカウントが頭に残っていた。気になってSNSのフォロワーを確認する。そこにあの子の名前はなかった。
そうだった。今のアカウントと高校の時のとは違うんだった。特に意味はないがSNSのアカウントを作り直すことがある。
何度目かの作り直しできっとひまわりのアカウントは消えてしまったのだろう。
ーーひまわり好きなの?
俺たちはいつのまにかDMを送り合う仲になっていた。特別楽しみにしていたというよりも、練習終わりとか、授業の合間にスマホを見てみずきからの返事が来ていると1日が弾むそんな感じだった。
何の話をしていたのか、今となっては細かいことはあまり覚えていない。ただ、一度だけ、夏の大会の話になったことはよく覚えている。
俺が「まあ、いつまでも引きずっててもしょうがないし。俺より悔しいやつだっていたし」と返したとき、みずきは少し間を置いて、
「でも、それってあんまり関係ないんじゃないかな、誰かよりマシとか、誰かの方がしんどいとか、そうじゃなくて君がどう感じたかじゃないかな?」
と送ってきた。
その言葉を見て、俺はすぐに返信できなかった。
反論したいわけじゃなかった。ただ、そういうふうに考えたことがなかった。
あのとき校舎裏で言われた一言も、たぶん同じ意味だったんだと思う。
みずきは、人の感情を丁寧に扱うやつだった。
俺が返信に困っているとみずきは続けた。
「っておばあちゃんが言ってた」
「なんじゃそりゃ笑」
そのときは、そこで会話が終わった。
でも、スマホを伏せたあと、しばらく動けなかった。
悔しかったことを、たぶん俺はずっと、大したことないみたいに扱おうとしていた。
気づいたら、泣いていた。
何に対して泣いていたのか、そのときは自分でもよくわからなかった。
後ろから自転車が抜けていって、俺ははっとした。
目の前の信号はとっくに青に変わっている。
23時を過ぎた駅前はまだ明るくて、どこかの居酒屋から笑い声が漏れていた。
さっきまで思い出していたはずなのに、みずきとのやりとりはまた少し遠くなっていた。
俺はスマホをポケットにしまって、家までの道をまた歩き出した。
今日はやけに街が立体的に感じる。見慣れているはずの看板がいくつも目に入ったが、どれも新品ではなく、年季の入ったものだった。いつもは音楽を聴きながら歩くからだろうか。
こうして街の気配をそのまま受け取りながら歩いていると、頭の中のもやが少しずつ形になっていく。
みずきとのやりとりはいくつもあったはずなのに、不思議とよく覚えている夜がある。
たしか、風が冷たくなり始めた頃だった。
はっとして顔を上げる。
テーブルの上には牛丼と豚汁、それに卵が置かれていた。
「ごゆっくりどうぞ」
店員が去っていく。店内ラジオはいつのまにか終わっていて流行りのJpopが流れていた。
ほんの一瞬だったはずなのに、ずいぶん遠くまで思い出していた気がした。
「またお越しくださいませ」
牛丼屋を出るとスマホの時計は23時を指していた。
なんとなくひまわりのアカウントが頭に残っていた。気になってSNSのフォロワーを確認する。そこにあの子の名前はなかった。
そうだった。今のアカウントと高校の時のとは違うんだった。特に意味はないがSNSのアカウントを作り直すことがある。
何度目かの作り直しできっとひまわりのアカウントは消えてしまったのだろう。
ーーひまわり好きなの?
俺たちはいつのまにかDMを送り合う仲になっていた。特別楽しみにしていたというよりも、練習終わりとか、授業の合間にスマホを見てみずきからの返事が来ていると1日が弾むそんな感じだった。
何の話をしていたのか、今となっては細かいことはあまり覚えていない。ただ、一度だけ、夏の大会の話になったことはよく覚えている。
俺が「まあ、いつまでも引きずっててもしょうがないし。俺より悔しいやつだっていたし」と返したとき、みずきは少し間を置いて、
「でも、それってあんまり関係ないんじゃないかな、誰かよりマシとか、誰かの方がしんどいとか、そうじゃなくて君がどう感じたかじゃないかな?」
と送ってきた。
その言葉を見て、俺はすぐに返信できなかった。
反論したいわけじゃなかった。ただ、そういうふうに考えたことがなかった。
あのとき校舎裏で言われた一言も、たぶん同じ意味だったんだと思う。
みずきは、人の感情を丁寧に扱うやつだった。
俺が返信に困っているとみずきは続けた。
「っておばあちゃんが言ってた」
「なんじゃそりゃ笑」
そのときは、そこで会話が終わった。
でも、スマホを伏せたあと、しばらく動けなかった。
悔しかったことを、たぶん俺はずっと、大したことないみたいに扱おうとしていた。
気づいたら、泣いていた。
何に対して泣いていたのか、そのときは自分でもよくわからなかった。
後ろから自転車が抜けていって、俺ははっとした。
目の前の信号はとっくに青に変わっている。
23時を過ぎた駅前はまだ明るくて、どこかの居酒屋から笑い声が漏れていた。
さっきまで思い出していたはずなのに、みずきとのやりとりはまた少し遠くなっていた。
俺はスマホをポケットにしまって、家までの道をまた歩き出した。
今日はやけに街が立体的に感じる。見慣れているはずの看板がいくつも目に入ったが、どれも新品ではなく、年季の入ったものだった。いつもは音楽を聴きながら歩くからだろうか。
こうして街の気配をそのまま受け取りながら歩いていると、頭の中のもやが少しずつ形になっていく。
みずきとのやりとりはいくつもあったはずなのに、不思議とよく覚えている夜がある。
たしか、風が冷たくなり始めた頃だった。
