Bメロみたいな恋だった

――別に、平気なふりしなくてもいいんじゃないですか。

あれは、高三の夏の終わりだった。

夏の大会で負けた帰り、部室に備品を返すために学校に寄った。その日は猛暑で夕方にもかかわらず日差しが強かった。

「ひなたー!」

後ろから声がして、マネージャーのひなたが振り返る。
つられて俺も振り向くと、バスケ部の練習着を着たショートカットの女子が、小走りでこちらに近づいてきた。

「みずきじゃん!お疲れ」

ひなたはいつもより少しだけ明るい声でそう返した。

「今日試合だったよね。どうだった?」

みずきがそう聞くと、ひなたは少しだけ言葉を詰まらせてから、
「負けちゃったんだよね」
と答えた。

なぜひなたが気まずそうにしていたのかは分かっていた。
今日の試合は、俺のミスがなければ勝てていたからだ。

だから、少し茶化すように俺は言った。

「いやー、今日の戦犯、俺なんですよ。ひなたも気ぃ遣ってくれてるんですけど、でも、その……」

そこまで言って、言葉が止まった。
うまく笑えなかった。思っていたより、悔しかった。

みずきはまっすぐ俺を見ていた。

「別に、平気なふりしなくてもいいじゃないですか」

慰めるでもなく、励ますでもなく、ただそう言った。

俺はなんて返せばいいのかわからず、
「ありがとうございます」
とだけ言った。

礼を言う場面だったのかどうかもわからなかった。ただ、そう言うしかなかった。

部室には、すでに何人かが戻っていた。
俺の顔を見ると会話が止まった。たぶん、さっきの失点のことを話していたんだと思う。

「本当にごめん。今日で最後のやつもいたのに」

そう言うと、少し間が空いた。

俺たちの高校は普通科と特進に分かれていて、特進のやつらの中には受験を理由に夏で部活を終えるやつもいた。そういうやつらのことを思うと、なおさら胸が苦しかった。

「まあでも、俺らはこれで勉強に集中できるし、大丈夫だよ」

そう言ってくれたのは、けんただった。
中学からの仲で、正直、俺はこいつのために今日勝ちたかったとさえ思う。

「そうそう。まだ冬があるやつは冬があるし、切り替えるしかないだろ」

誰かがそんなふうに続けた。

みんな、気を遣ってくれていた。
それはちゃんとわかっていた。わかっていたけど、うまく反応できなかった。

みんなの言葉はありがたかったけど、家に着いたあとも、なんだか落ち着かなかった。試合の汗を流すようにシャワーを浴びて、少し熱めの湯に浸かる。自分と湯の境目が曖昧になるころ、ぽつりと呟いた。

「そうだよな、切り替えないとな。ミスなんて誰でもするし、次どうするか考えなきゃ……」

そこまで言ったところで、なぜかみずきの言葉が浮かんだ。

別に、平気なふりしなくてもいいんじゃないですか。

引きずってどうすんだよ、と心の中で打ち消すように、俺はバスタブの中に顔を沈めた。

風呂上がり、惰性でSNSを眺めていると、ひまわりのアイコンがおすすめ欄に出てきた。
アカウント名は mizuki。フォロワーにひなたの名前があったから、多分あのみずきだろう。

特に深く考えず、そのままフォローした。返ってこなかったら気まずいな、とそこまで考えたところで、急に目の前に影が差した。