不器用な彼女

「なんかあったっすか?」池谷さんが眉間にしわを寄せてこちらを見ている。
 池谷さんは僕が働いているコンビニのバイト仲間だ。今年の春から高校生になり、
すぐさまこのコンビニに応募をしてきた。うちのコンビニは勤務中は制服の一部として、キャップを被ることになっており、そのために髪色や長さなどは規定が存在しなかった。
 オーナーも寛大な人なので、金髪のうねうねロングヘヤーである彼女も、即採用された。
 いわゆるギャルである彼女は人見知りである僕との壁も平気で乗り越えてきて、
すぐさま仲良くなることができた。
「さっきから、口角がたまにあがってて、キモいんですけど」
「それは言い過ぎだろ。キモい⋯のか?」
「いや、キモいですけど、本気にしないでくださいよ。なんかあったっすか?」
 同じ質問を繰り返ししてくるので、一部嘘をつき話すことにした。
「今週の土曜日デートなんだよね。彼女と」
「あー。それは私聞かなかったことにするっす」
「え?なんで?」
「その日、渡辺さんのかわり私っすよ。店長が渡辺さんがどうしても外せない用事が
あるから休みたいって」
 店長には詳細は話していない。もちろんデートだから休ませてなんて言えるはずもなかったが、他にいい嘘がつける自信もなかったので、理由は言わず用事があるとだけ伝えていた。
「え、ごめん⋯」
「あー。私は全然いいっすよ。お金欲しいし。でも、今暇なんでその話聞かせてください」
 僕の恋愛事情を暇つぶしにしようというのか⋯。代わってもらってる手前、断れない。
「実は最近彼女ができたんだよ。初めての彼女でさ、んで初デートなんよね」
「それでニヤけてたわけですか。きしょいっすね」
「だから言い過ぎだろ。僕きしょかった?」
「だからきしょいっすけど、本気にしないでくださいよ」
「池谷さんは彼氏とうまくいってるの?」
 実は池谷さんの彼氏を一度だけ見たことがある。バイト先に来たことがあり、男の僕と隣同士で仕事をしていることにヤキモチを焼いたのか、仕事中にも関わらず、池谷さんにたいして「ちょっとこい」と怒鳴りつけ、外の駐車場で言い合いをする。なんてところに立ち会った事があるため、印象深く僕の記憶に残っていた。
「あー。先日はすいませんっした。全然ラブラブっすよ」
 よくあんな喧嘩をしておいて、と思ったがあれはあれで愛のある行動なんだろうな。
「とりあえずあの件に関してはめっちゃしめといたんでもう大丈夫っす」
 もみあげからくるくると伸びた自分の髪の毛を指に絡ませながら、だるそうに答えた。
「デートどこ行くんすか?」
「人生で初めてだから、どこがいいかな?」
「あたしに聞いてどうするんすか?あたしを連れてってくれるんすか?」
「いや、そーなんだけどさ、なんかアドバイス頂戴よ。初デートってどこ行くべき?」
「あたしだったら家でまったりしたいっす」
「初デートで家デートするの?」
「あたしが映画行きたーいとか、遊園地行きたーいとか言うと思いますか?」
 確かにそうだ。失礼かもしれないが、池谷さんのそんなセリフは全然想像できない。
「人それぞれってことだね」
「そゆことっす。まあ、彼女の行きたいことしたいことを考えるか、自分のしたいことに彼女を付きあわせるかのどっちかじゃないっすか?」
「それなら、彼女に会わせたいかも」
僕のしたいことなんて、特にはなかった。彼女と一緒ならなんでもいいと思ってるし。
「彼女の趣味とか知らないんすか?好きなものとか」
「うーん。あんまり知らないんだよね」
「なら、デートまでに聞き出してプラン決めれば大丈夫っすよ。それに、デートなんて
大体プラン通りになんて行かないっすよ」
「そういうもんなのかな?」
「むしろ、その場その場で行きたいところに行くほうが楽っすよ。私ならそうします」
「行きたいところがなかったら?」
「初デートで行きたいところないなら別れればいいっすよ。」
「それもそうか。別れたくないな」
その時入り口が開き、入店音が流れた。
 いらっせーと二人で入り口を見てみると、見覚えのある顔。
 理沙と一弥が入店してきた。
「え?」不意に表れた知人と彼女に対して、かなり大きな声を出してしまった。
 ふんふふーんと鼻歌を歌いながらこちらに近づいてくる。
「ごめん、ちょこがバイト先教えろってうるさくてさ」一弥が両手を合わせてごめんのポーズを僕に向けてきた。
「あたしドリンク補充してきますね」と池谷さんがスタスタとバックヤードへ歩いて行った。
 彼女なりに気を使ったのだろうか。後でお礼を言わなければ。
「いやー。働いとるかね、若者よ」幸い店には二人以外はお客さんがいなかったので、彼女も遠慮なくふざけているのだろう。
「どうしたの?こんなところまで」
「ちょこがバイト先教えろってうるさくてさ」
「君に聞いてないよ。それは聞いたし、君に聞いてるよ?」
と彼女に目線を送ると、
「迷惑?」と言われたので、
「いや、全然っ、うれ、しいよ」
あまりに急なことすぎて呂律がうまくまわらなかった。
「頑張って働いている最中、知り合いが来たら結構嬉しい説。どう?嬉しい?」
「う、嬉しいよっ」
「あのさぁ、俺もいるんだけど、いちゃつかないでもらっていいか?」
 そういえば、一弥には付き合っている事をまだ言ってなかったが、この様子だと
多分もう知っているんだろうな。
「いやーごめんね。働いてる姿見たくてさ、うん。制服姿もかっこいいね」
 面と向かって言われると、恥ずかしすぎるが、一弥がいる手前あまり表情には出せないのでワタワタしていると、入り口の入店音が鳴り響いた。
 いらっせーと声をかけると、お客さんは奥のドリンク売り場の方へ消えていった。
「一目見て一通り冷やかしたから帰るね」
 ばいばいと手を振り、コンビニから出ていった。
「付き合ったら言えっつったろ。じゃあな」と少し眉間にしわを寄せながら言い残し、
 一弥も彼女の後を追うようにコンビニを出ていった。
  しばらくするとバックヤードから池谷さんが戻ってきた。
「ごめんね」手を合わせて少し会釈すると、
「いや、全然っす。友達っすか?」
「男の方は友達だね。」
「女の方は?」
「あれが、彼女だね」
「え、かわいいじゃないすか!」
「うん。可愛いよね」
 ボソリと呟いたが、聞こえただろうか。
「渡辺さんかわいいっすね」
 多分聞こえていたんだろうなと思い、口を抑えながら池谷さんのほうをちらりと見ると、ニタニタしながらこちらを見ていた。