不器用な彼女

夏休みも明けて今日から二学期が始まる。昨日振られた事実を受け止めきれず
どうにか自分を鼓舞して自転車を走らせる。
何がいけなかったのか、何かしてしまったのだろうか。
そもそも僕のこと、全然好きではなかったのか⋯。
嫌な思いだけが脳内をぐるぐる回る。
学校に到着し、気まずさからか、理沙のいるH組を見ないように意識しながら
自分のクラスへと入っていく。
自分の席に着くと、ローファーのカツカツ音が耳に響いた。
「おはよう」まるで全てを察しているかのように、
一弥が近づいてくる。細川さんから何か聞いたのか、いや、
多分僕の顔色相当悪いんだろうな、多分気づいているのだろう。
「⋯おはよー」
「なんとなくわかるけど、大丈夫か?」
「全然大丈ばない。」
「だよな、放課後どっか行くか?」
「ありがとう、今日バイトなんだ。」
バイトは入っていなかったが、慰められるのは惨めに感じて嫌だった。
以前彼氏に振られたからと一週間学校を休んだクラスメイトがいたが、
当時はたかが高校生の恋愛でバカバカしいと鼻で笑っていたが、
今なら気持ちがわかる。僕もできれば家にこもっていたかった。
それでも、もしかしたら学校で理沙に会うことができるかもしれない。
もしかしたら話すことができるかもしれない。
もしかしたら⋯と少しは期待をしている自分がいて、なんとか学校までは来た。
しかし、理沙と話すどころか、彼女の姿を見ることもなかった。
一週間もたつと、二学期に開催される文化祭のことや、もちろん学業、
バイトなどもあり、寂しさを紛らわす事ができた。あきらめきれない思いと
諦めなければと思う心が僕の心をどんどん真っ黒に染めていく。
しかし今日は木曜日。彼女と隣の席に座る唯一の時間だ。
来週から文化祭準備があり、選択授業の枠はクラスで準備の時間になることが決まっている。
今日。今日を逃せばしばらく選択授業で会うことはなくなってしまう。
必ず今日何か行動をしなければいけない。
プレッシャーを感じつつ、選択授業へと向かった。
教室にはいると、そこに理沙はいなかった、動揺はしない。
彼女はいつもぎりぎりにくるから
これは想定内。後は授業中にでも声をかければいいか。どうせ今日も飯田先生は
人数分のプリントを用意してないだろう。
少しずるいかもしれないが、隣の席なんだから逃さない。
そんなことを考えていると、始業開始のチャイムがなる。
おかしい、まさか⋯。
不安は的中。彼女は休みだった。
振られた日以来既読のつかないメッセージアプリを開く、
やはり既読はついていない。少し苛立ちさえ感じてきた。
彼女は言っていたんだ。明日からは友達⋯と。
これじゃあ友達にもなれないじゃないか。
何かあったのだろうか、心配が心配を呼び授業は一切頭に入ってこなかった。
昼食の時間。いつも通り一弥と食堂に行くと、いつも通り食堂は大賑わい。
今日は母親が珍しく寝坊したらしく、お弁当箱ではなく、小銭をもらっていた。
これで食堂で済ましてくれというらしい。
やっとのことで食券を購入する。注文口の列に並んでいると、食堂の出口から
細川さんが菓子パンを持って出ていく後ろ姿を見かけた。
細川さんなら何か知っているかもしれない。後ろに並んでいた一弥に
「これあげるよ」とカツカレーの食券をわたし、細川さんのあとを追った。
H組に入る寸前のところで声をかけた。
「細川さん!」自分でもビックリするくらい大きな声を出してしまい、
クラスが一瞬静寂に包まれる。細川さんも肩をビクッとさせていた。
「なに?大きい声出さないでよ。」
眉間にしわを寄せながらこちらを振り向いた。怒りの感情が見て取れた。
「ごめん。少し話せないかな?」
「ごめんね。今からお昼食べるからまた今度ね。」
「お願いだ。少しでいいから。」
クラスの注目の的になっていることはこの際気にしない。
頭を直角に下ろす。
「ほんとに少しだから。」
「やめてよ。分かったから。」
ずるい。とにかくずるい。クラスのみんなが見ている前で頭を下げれば
いい晒しもんだ。そうなれば絶対に断れないと思って行動している。
僕は彼女のためならプライドすら捨てれるんだな。
二人で廊下に出る。細川さんは一切目を合わせてくれない。
「理沙⋯さんのことなんだけどさ」
恐る恐る口を開くと、
「君は何も知らなくていいよ。それがあの子の望んだことなの。
察しの通りあの子は学校に来ていない、理由は言えない。
でも、それはあなたのせいじゃない。あの子はわがままなの。自分勝手なの。
あなたは巻き込まれたの。それだけ、私から何も言えない。
あなたはあの子のことを忘れて自分の人生を謳歌しなさい。」淡々と話された。
「ちょっと待って⋯」
それじゃあね。と教室へと戻っていった。
廊下に残され、泣きたい気持ちをぐっとこらえた。下唇から血が出るほど噛んでいた。
いたい。心がいたい。謳歌?できるわけないだろ。
目の前のもやもやを超えない限り、無理に決まってるだろ。
イラつきさえも感じていたが、細川さんに当たるのは違う。
理沙が、細川さんに何も言うなって⋯多分そう言ったんだろう。
その日は午後の授業もバイトも休んだ。無気力で何もする気になれなかった。
自転車を学校に置きっぱなしにし、思い出の公園へと足を運んだ。
ブランコに座り過去の行動、彼女の言動、そして細川さんの言葉を
ぐるぐると繰り返す。僕らは間違いなく恋人同士だった。
お互い疑似恋愛ということも忘れて、一夏の恋に夢中になっていたはず。
絶対におかしい、彼女の身に何かあったのかもしれない。
頭のなかで自問自答を繰り返し、気づいたら駅まで歩いていた。
このままでは埒が開かない。やはり、もう一度話さないとだめだ。
これだけはしたくなかったが、仕方ない。
彼女の家に行こう。そう思った。いや、思ってしまった。
これは流石にやめたほうがいいと今までしてこなかったが、
もう箍が壊れてしまっている。
あと一度、あと一度だけ話せればそれでいい、
彼女の自宅へは学校の最寄り駅一駅隣の駅、そこから歩いて十五分程でつく。
デートの帰りに何度か送っていったことがあるので、家は知っている。
会ってくれないかもしれない、なんて考えなかった。なんせ今の僕はずるい。
わざわざ家まできた僕を無下に帰したりしないだろうと思っていた。
電車に乗りこみ一駅分を移動して、電車を降りた。
学校の最寄り駅は急行も止まるかなり栄えた駅だが、理沙の家の最寄り駅は
各停しかとまらない、あまりひと気のない駅である。
昼間の時間帯だったので、その駅で降りたのは僕一人だった。
きっと今のぼく、気持ち悪いだろうなと考えながら、
彼女の自宅へと歩いていった。頭のなかで自宅のインターホンを押す、
出てきた理沙にたいして優しく話す。そんな事を妄想しながら歩いていると
「危ない!」
あまりにもぼーっとしすぎていた。
見慣れた駅の光景がいま僕の目の前でぐるぐると回っている。
何がなんだかわからない。身体に衝撃を感じてからものの数秒で僕の視界は
コンクリートと何人かの足が見えた。
その後僕の視界は真っ暗になった。意識はあるはず、
ただ目の前は真っ暗、何も考えることができないし、
じわじわと全身に痛みが走る。
遠くから、いろんな人の声がする。それは僕に向けられたものなのか、
ただの雑音なのか全くわからなかった。
僕はどうしてしまったのだろうか。
糸が切れるかのごとく、プツンと僕の意識は消え去った。