不器用な彼女

二十五日の夜、明日に福岡旅行を控えてる中、数日前から懸念されていた
ある嫌な出来事が現実味を帯びてきた。
朝から何度も繰り返しスマホの気象情報を見る。
見てもなにも変わらないのはわかっているが、もしかしたらという小さな希望にかけて
何度も見ていたが、残念ながら結果は変わらない。
明日から福岡だというのに、台風が九州のすぐそこまで来ていた。
今はちょうど九州のあたりに停滞しているらしいのだが、
明日の朝にかけてこちらに北上してくる予報だ。
すでに空の便では欠航が出ているらしい。
新幹線の欠航も時間の問題だった。
僕のスマホが震える、メッセージ通知とは違う音が鳴る。
理沙から電話だった。
「もしもし⋯」スマホを耳にかざすと、理沙は電話の向こうで泣いていた。
「どうしたの?大丈夫?」理沙からの応答はなかった。
「もしもし?大丈夫?」と少し語気を強めていうと、
「ごめん、ショックすぎる⋯」鼻水をすすりながら理沙が答えた。
「まだ、わかんないよ。今日の夜中に通り過ぎるかもって予報でも行ってた。」
「違うの。親が駄目だって。」
「どうして⋯」
「危ないから中止にしなさいって。さっきまでそれで話し合いしてたの…
もはや喧嘩だったけど。」
「そっか⋯」
こんな時なんて声をかければいいか分からない。
「私も意地になってたけど、多分欠航すると思う。だから、ごめん。諦める。」
こんな悔しそうな声を聞くのは初めてだった。
「また今度いけるよ。絶対にいこうよ。」
「うん⋯」理沙からの電話は一方的に切れてしまった。
その後すぐにメッセージの通知音が鳴る。
「流石に泣きすぎて会話できなそうだからメッセージにする」
「うん。大丈夫かい?」
「大丈夫じゃないよ!でも仕方ないもん」
「さっきも言ったけど、また今度いけばいいさ。」
「うん。そうだね」
「必ず行こうね」
三十分程たったころにようやく理沙からメッセージが来た。
「さっきはごめん。もう一回説得したけど無理だった」
「僕は大丈夫だよ。」
「楽しみにしてたのに⋯」
「流石に運が悪すぎたよね⋯」
「ほんとそれ、あーーーー」
むしゃくしゃした気持ちをメッセージにぶつける理沙を必死になだめた。
珍しく、十時を過ぎてもメッセージのやりとりは続いた。
よほどショックだったのだろう、中々寝付けないらしい。
それは僕も一緒なので深夜になるまでお互い傷を舐め合うように
励ましあい、理沙からの返信が来なくなったことを確認してから
僕もベットに横になり、まぶたを閉じた。
結局台風は夜中のうちに北上し、日本列島を逸れる形で進路を変えていった。
なんだよ⋯。と思いつつも、昨日の段階で中止を決めていた僕たちは、
昨日のうちに新幹線や泊まるはずだったホテルの予約をキャンセルしてしまっていた。
まあ、また今度必ず行こう。絶対に。と心に誓ったが、
僕らに次は訪れることはなかった。