待ちに待った週末、待ち合わせは僕らの高校の最寄り駅に集合だったので、
朝からバタバタと準備を進めた。
普段は使わないが、せっかくのデートだと髪の毛はワックスをつけた。
鏡の前で何度もトライアンドエラーを繰り返し、なんとか形にはなった。
今度一弥に教わるか⋯。ふと時計を見ると、出発する時間になっていたので、
テキパキと準備をし、家を後にした。
ピンクのクラゲは家に置いてきている。一度デートに持っていたところ、
「それは私の替りでしょー?今日は本物がいるんだよ?」と言われた。
そういえば理沙は一度もアオのクラゲを持っているのを見なかったが、
そういう理由があったのか。だから僕もそれ以来は、理沙とのデートには
アオのクラゲにはお留守番をしてもらうことにしている。
自転車でいきたいところだったが、髪の毛が風で崩れるのが嫌なので、
バスと電車で向かうことにした。
結局今日のダブルデートでどこに行くのかは聞かされていないので、
荷物は最小限にとどめた。かばんのなかには、財布とスマホと着替えくらいしか
入っていない。バスに乗ると、流石は週末と言わんばかりの密集具合。
息苦しさを感じながらもなんとか家の最寄り駅に到着した。
そこから電車に乗り一駅、もちろん電車もそれなりに混んでおり、
もちろん座れることはなく、ぎゅうぎゅうとまでは行かないが、
それなりに狭苦しい空間をたくさんの人と共有した。
これだから電車もバスも苦手なんだよな⋯。なんて思っていると、
待ち合わせの駅に到着した。
改札を通り抜けると、既に僕以外の三人が改札前に集まっていた。
何やら不穏な空気、三人が何か言い合っているような。
いや、一弥と細川さんが理沙に何かを言っている様子だった。
二人とも険しい顔をしながらも、どこか寂しげな顔をしながら理沙に何かを伝えている。
理沙は少し困った様子で二人の話を聞いているようだ。
理沙が何かしたのだろうか?不安を抱えながらも、
駆け足で三人に近づくと、理沙がこちらに気づき大きな声で
「おはよー」とこちらにブンブンと手を振ってきた。
それに気づいた一弥と細川さんも一瞬困った顔をしたが、
すぐにこちらに笑顔になりこちらに手を振ってくれた。
何かあったのかもしれない。あとで聞けばいいかなと思い、三人と合流した。
「ごめん、遅れた⋯」少し息が上がりながらも、三人に謝罪する。
「いや、俺らが早くきすぎたんだよ。まだ集合時間になってないぞ」
膝に手を当て息を整える僕の背中をさすりながら一弥がニヤけながら呟いた。
「ねえ、おはよーってば」理沙が僕に返事を強要してきた。
「あぁうん。おはよー」理沙に小さく手を振り、挨拶を済ませる。
細川さんはというと、こちらをみることはなく、スマホで何かを見ていた。
怒っている⋯のかな?と不安になったが、先日理沙が言っていたことを思い出す。
「まみちゃんはね、人見知りの厄介女の子なの。人見知りモードになると、
ツンツンしちゃうんだけど、それは怒ってるわけじゃなくて、ただ照れてるだけなんだ
そういうときこそ、話しかけてあげると喜ぶよ」
これがまさにあの時言っていた人見知りモードなのかな?
確かに僕はほぼ話したことはないから、仕方ないか。
「細川さんもおはよう」勇気を振り絞ってあいさつをすると
「う、おはよう」一瞬意表を突かれたようなうめき声を出したが、
普通にあいさつをしてくれたことに安心しつつ、理沙の方に目を向けると、
ほらねと言わんばかりのニコニコ顔をしていた。
一通りの挨拶が終わると、理沙が全員分の切符を手渡してきた。目的地は書いていないが、
金額からして、そこまで遠くはないのだろうと推測できた。
「とりあえず行こう」という理沙の号令に残りの三人はただただついていくことしかできなかった。
「今日はこれからキャンプをします!」言われるがままに電車に乗り一弥と話をしていると
コホンという咳払いの後、理沙が声たかだかに宣言をする。
電車のなかにしては中々に大きな声を出していたせいで、
周りの乗客が一瞬こちらを振り向き、理沙は注目の的となった。
耳を真っ赤にさせた理沙が周りに軽く会釈をしながら再びコホンと咳払いをする。
「今日はこれからキャンプをします。」先ほどとは打って変わってか細い声でこちらに話しかけてきた。
事前にどこに行くのか知らされていなかった理沙以外の三人は同時に顔を見合わせる。
「ちょっと待って、今からキャンプに行くの?」
少し怒り気味の声で眉間にしわを寄せながら理沙のほうを見る。
どうやら一弥と細川さんも行き先は知らなかったらしい、
それもそのはず、二人とも、いや、僕も含めて三人とも
これからキャンプに行くとは思えないような服装で来ているのだ。
一方で理沙はボーダー柄のショート丈シャツにハイウエストのデニムを着ていた。
本人も含め四人ともキャンプに適した格好とは言えないだろう。
理沙は突拍子もなく提案をすることが多い。
以前のデートでも急に海へ行くことになったかと思いきや、
その日の夕方には地元に帰ってきて映画を見たり。
デート中に急に入院しているおばあちゃんの病院へ電撃訪問したこともあった。
彼女は行動力に優れているが僕はそうでないので、
それをきっかけに喧嘩をしてしまったこともあるが、
そのたびに彼女は「今しかできないから。」と無理矢理僕を納得させていた。
キャンプの道具は?いやその前に今どこに向かっているんだ?と頭をフル回転させていると、
右手に温かい感触が伝わる。ふと見ると僕の横に理沙が移動し、
僕の手を握りながら助けをこうように上目遣いでこちらを見ている。
顔を一弥と細川さんに戻すと二人とも眉間にしわを寄せこちらをみている。
「まあ、ね。」少し呼吸を整える。少なくても僕だけは味方をしなければと
彼女の手をぎゅっと握り返した。
「まあ、さ、色々と驚いたけど、このメンツだったら絶対楽しいよ!」
と言いながら彼女に視線を落とすと、
彼女はまるで太陽のような明るい笑顔で手を強く握ってくれた。
振り回されているものの、彼女のお願いなのだから、
彼氏である僕が叶えてあげるのは当然のことだ。
「はぁ~。」一弥と細川さんが目を合わせて同時にため息をついた。
いつの間に眉間のしわはどこかへ消え去ったようだ。二人とも心配そうな目をしながら
「わかったよ。」と了承してくれた。電車は既に目的地へ向けて轟音を轟かせているので、
あきらめてもらうしかなかったが、説得できたようだ。
「どこに行くつもりなの?」扉に寄りかかりながら細川さんが理沙に聞く。
「大島公園駅で降りてそこからキャンプ場まで歩くよ」
大島公園駅はその名の通り大島公園にある駅だ。大島公園は海沿いにある広大な土地に
緑地や運動場、子どもたちが遊べるアトラクションや今回の目的地であるキャンプ場などがある。
「こないだ予約してね。道具とか全部そろってるんだってさ。
お肉とかそのへんの食べ物関係も人数分用意してもらってるよ」
「全部やってくれたんだね。ありがとう。」
細川さんはさっきの態度とは打って変わって、笑顔で理沙之頭をなでていた。
そんなやりとりをしている二人を横目に一弥の方へ目線を移すと、スマホとにらめっこをしている。
「なんか調べてんの?」とスマホを覗き込もうとすると、
「いや、なんでもなーいよ」とスマホをさっとポケットにしまい込む。
「いやらしいものでもみてたんじゃないのー?」とすかさず理沙が茶化すと
「一応私が彼女なんだからそーゆーのやめてよね」と細川さんまでもが茶化しだす。
「ちげーわ。火の起こし方とか、キャンプの知識を頭にたたき込んでたの。
そーゆーの初見でできる男かっこいいだろ?」フンッと鼻息を無らしながら胸を拳で叩いてみせた。
「ちなみに火起こしとかやらないよ?チャッカマン使うし」キシシと笑いながら理沙が話しだした。
「野菜とかもカットされてるし、私たち焼いて食べるだけだよー」
「それってもはやキャンプじゃなくてバーベキューじゃないの?」とすかさず細川さんが突っ込むが、
「たき火やるよ?キャンプファイヤーやるよ?だからキャンプなんだよ?」と理沙が必死に説明していた。
電車が大島公園駅につくと、4人でキャンプ場へ向けて歩き出した。
キャンプ場につくと、正面に大きな木像の建物。そこが受付になっているらしく、
「ちょっと待ってて」と三人に告げて、理沙が一人で建物に入っていった。
理沙は受付を済まし戻ってくると、
「荷物もらったから運ぼうか」とニコニコしながらこちらに手招きをしている。
女性陣が食材を男性陣がその他の重いものを持ちながら目的地まで歩いていく。
受付から五分ほど歩くと僕らのキャンプ地があった。
周りに木々が生えており、少し薄暗く不気味な空間、しかしその隙間から浜風が入ってくるので、
気温とは裏腹かなり涼しいスポットだった。
木造の大きなテーブルと、地面に固定された木造の椅子。
地面にはくるぶしくらいまで伸びた芝が足をくすぐっていた。
木造のテーブルの横には、ここで火を扱ってくださいと言わんばかりに
一部芝がはげているところがある。僕と一弥はそこにあらかた荷物を置き、
設営を始めた。女性陣は木造のテーブルに食材を置き、椅子に座って一休みしている。
「おい、設営手伝えよ」一弥が額の汗を拭いながら女性陣にツッコミをいれると
「かっこいいとこ見せてよ」と細川さんが涼しい顔して答えた。
結局僕たちだけで一通りの設営は終わった。キャンプと聞いていたが、
これはやっぱりバーベキューだな⋯。テントはもちろんないのである。
男性陣は炭などの準備、女性陣は食材の準備に取り掛かる。
そういえば理沙は料理はできるのだろうかと思ったが、
意外にも包丁さばきはお手の物だった。むしろクールな印象の細川さんは、
普段包丁を握らないのか、随分とお粗末なカット野菜だった。
「まみはさ⋯座ってて⋯。」ガックシと言わんばかりの顔で理沙が細川さんの肩を叩く。
「ちょっとそれどーゆーこと!?
「確かに細川が切った野菜、動物にあげる用なの?」
一弥が細川さんの切った野菜を手に取りケラケラ笑っている。
「顔もいいし、スタイルもいいんだから。料理っていうマイナスがあってもまみは大丈夫。
むしろ、私たちがお腹壊すの怖いから、私の料理さばきをみてて、んで褒めて。」
とニタニタしながら理沙が細川さんの両肩を持ち、椅子へとエスコートした。
僕らは炭の準備に多少てこずったものの、うまく火がついた。
鉄板が熱くなってきた頃、ちょうど理沙も野菜や肉をすべて準備できた。
「ごめんだけど、ちょっと意外だったよ。料理得意なんだね。」と理沙に話しかけると、
「惚れた?」というので、「元々惚れてる。」というと、少し寂しげな笑顔を見せた。
「さぁ、焼こうか」一弥の一声で僕たちのバーベキューっぽいキャンプは幕を明けた。
鉄板のうえに肉と野菜を置き、焼き上がりを僕と一弥が観察し、
横の鉄板では、理沙が野菜を炒め、細川さんが理沙にアドバイスをもらいながら
焼きそばの麺を炒めていた。
「なんか、楽しいな」横で肉の焼け具合を見ている一弥が囁いた。
「そうだね。思い出だ」と僕がいうと一弥がポカンと口を開けてこちらを見ていた。
「なんかなべさあ、こーゆーの苦手かと思ってたわ」
「苦手かも。でもメンツによるんじゃないかな?このメンツなら楽しいよ」
「そっか、俺がいるもんな」
「うん。それはデカいと思う」
「ツッコめよ。ハズいだろ」
そんな会話をしていると横から理沙が
「男子二人で何いちゃついてるのー?」とちょっかいを出してきた。
「私たちはおじゃまかしら?」と細川さんまで言い出してきたので
僕は焦るように
「いや、みんながいるから楽しいんだよ」とフォローをしておいた。
一通りの肉や野菜、焼きそばを食べ終えると、後片付けを開始した。
理沙は普段からキッチン周りの手伝いをしているらしく、洗い物すらもテキパキと
こなしている。一方の僕ら三人は焦げた麺がこびりついた鉄板と格闘していた。
「キャンプファイヤーやろう。」と理沙は提案したが、流石に明るすぎることもあり
あとでやることになった。
一弥と細川さんにごみの処理をお願いし、僕たちは二人で残った洗い物を洗い始めた。
「一弥と細川さんって付き合ってるのにあんまり話さないんだね」
一弥と細川さんは食事中も話さなかった。細川さんは理沙と一弥は僕と
たくさん話をしていたので、少し違和感を感じていた。
疑いほどのものでもないが、違和感というか、変だなって思っていた。
「付き合いたてなんだよ。それなのに私が無理矢理タブルデート誘っちゃったから」
鉄板にこびりついた頑固なコゲをこすりながら言った。
「そんなもんなのかな?僕たちはそんなことなかったのにね。」
「それは私ががんがんお話するタイプだからだよ。」
「細川さんはともかく一弥もがんがんタイプだけどなあ」
「まあでもほら、今は二人っきりだからたくさん話してるよきっと。」
キャンプ地に戻ると一弥と細川さんは普通に会話をしていた。
やっぱり僕らがお邪魔なのだろうかと考えていると、
「おう、おかえり」と一弥がこちらに気づく。
キャンプファイヤーの薪は二人で準備してくれていたらしく、
立派な焚き火となっていた。その周りを四方囲むように携帯チェアーが置かれていた。
まわりはまだ明るいが、木々に囲まれた僕らのキャンプ地は少し薄暗くなっていたので
焚き火の炎が丁度いい明かりになっていた。
「エモい。」理沙がポツリとつぶやく。
「確かにエモい。」と細川さんも同調する。
「煙全部こっち来てるからエモさとかわからん」ゴホッと咳き込みながら
一弥が涙目で訴える。
煙は僕と一弥の肺を交互に攻撃していたので、急遽女性陣の隣に移動した。
「これもいい思い出だねー。」と理沙が寂しげにつぶやいた。
「焚き火の雰囲気にやられるな。なんか寂しげじゃん」と僕が突っ込むと。
三人は少し寂しげな顔しながら、笑っていた。
話題は学校のことに移った。
誰々が付き合ってるらしいとか、〇〇先生の授業は相当だるいとか、
焚き火にはにつかない、愚痴や他人の情報をまるで井戸端会議のように四人で話した。
夏休みにそれぞれどう過ごしているかの話にもなった。
僕はバイトかデートかの二択だったのに対して、理沙はかなりアクティブに動いているらしい。
僕とデートをする日以外は、友達と過ごしたり親戚の家に行ったりと
たくさんの人と会っているようだった。
「家にいると気分暗くなるからさ、常にリフレッシュしたいの」と言っていたが、
家族との仲が悪いわけではないらしい。とにかく会っておきたい人がたくさんいると
少し意味深な事を言っていた。
一弥と細川さんは共にバイト漬けらしく、この夏休みもほとんど外出はせず、
家とバイト先を往復しているのだそうだ。
「二人はデートしないの?」と僕が聞くと、
「お金がねーからな、冬休みは色々と行こうかなって、なあまみちゃん」
一弥は少し動揺しながら、細川さんに話題をバトンパスした。
あれ?まみちゃんって呼んでたっけ?でも付き合ってるなら名前で呼ぶかと自己解決し
細川さんの方を見ると、
「そうね。」とだけ答え話題を終わらせてしまった。
少し気まずさを感じていると、
あたりが本格的に暗くなってきたので、僕たちは分担して片付けをすることになった。
テントがないわけだから、当然日帰りだ。
炭の消化を済まし、借りた道具一式を綺麗にかばんにしまい込み、
受付の方へと歩き始めた。
「こんな感じでよかったの?」隣を歩く理沙に聞いてみると、
「こんな感じが最高だよ。いい思い出」とニッコリご満悦の様子だ。
「それならよかった。僕も楽しかった」
「正直ダブルデートならどこでもよかったけど、ついでにキャンプもしちゃおうってさ」
「ついでって、なんのついで?」と僕が聞くと、
前を歩いていた一弥と細川さんがこちらに振り返った。
ん?何か言っちゃったのかな?と思っていると、
「俺がさ、元々まみちゃんとキャンプしたいって言ってたんだよ」
「そーなんだ。一弥がキャンプってちょっと意外だな」
「普通のデートは女友達とし飽きたからさ、キャンプいいなって思ったの。はい、
これでおしまい」と強制的に話題を終わらせると、再び受付に向けて四人で歩き出した。
道具の返却を受付で済ませ、駅へと歩き出した。
先ほどの会話で少し気まずさを感じていたが、帰りの電車のなかでは
そんな空気は一切なくなっていた。
電車内は人はそれほど多くはなく、快適に過ごすことができた。
「キャンプめっちゃ楽しかった〜」理沙が僕の服の裾を握りしめながら
僕の返答を待っている。
「そうだね。またこのメンバーで来れるといいね」
「うん⋯。そうだね」
意味深な間を空けられたので、理沙の顔を覗き込むと、
理沙は僕からふいっと目をそらし、握っていた僕の裾を離した。
あれ?と思いつつ理沙を見ていると、
「電車のなかでいちゃつくなよ」と一弥が割って入ってきた。
「いちゃついてないし〜」と理沙がいつものテンションに戻った。
駅に到着すると細川さんと理沙、僕と一弥で別れた。
理沙の家の最寄り駅は違うが、細川さんと買い物をしてから帰るらしい。
一弥が女の子の買い物に付き合うのは勘弁して。とか言うもんだから、
僕たちと別れることになった。
女の子たちと離れ離れにしておきながら、一弥自身も
「疲れたから帰るわ〜」と僕に手を振って駅の中へ消えていった。
僕は再び改札を抜け、電車に乗った。
楽しかったけど、なんだが気まずい瞬間いくつかあったな⋯と
今日の出来事を振り返っていると、いつの間にか最寄り駅に到着していた。
バスに乗り換えると、辺りはすでに日が落ちており、田んぼ道に差し掛かると、
漆黒そのものとなった。漆黒の道をしばらく走り、僕の家の近くの
停留所で僕はバスを降りた。
家へ向けて歩き出そうとしたその瞬間にスマホが着信を知らせる。
「お前ら疑似恋愛なんだろ?」
「え?なんで⋯」
「知ってんだよ、俺は。」
「それは⋯」
「ちょこも知ってるよ、俺が知ってることは。お前はちょこに自分の気持ち伝えたの?」
理沙には疑似恋愛だが、周りにはちゃんとお付き合いしてる体にしようと
言われていたので、周りの人間には気づかれていないと思っていた。
もちろん僕自身は理沙が好きだから、僕の態度は疑似恋愛とは程遠いとは思うが、
「お前は自分の気持ちをちょこに伝えたのか?」
黙っている僕にもう一度同じ問いを投げかけてくる。
「⋯好きだよ。でも、理沙は疑似恋愛にこだわってるみたいなんだ。
それも夏休みが終わったら解消される。でも、僕は理沙が好きだ。
だから、夏休み最終日に疑似恋愛を終わらせて、改めて僕から告白をするつもりだよ。
そこで僕の気持ちを全部話そうと思ってるよ。」
沈黙の後一弥がため息をした音が伝わってきた。
「手遅れにならないといいけど⋯そうか。」とつぶやき、
「まあ、頑張れ」
そこで通話は切れてしまった。
一体何のことだろうと考えるも答えが出るはずもなく、
モヤモヤしながらも僕は家へと歩き出した。
朝からバタバタと準備を進めた。
普段は使わないが、せっかくのデートだと髪の毛はワックスをつけた。
鏡の前で何度もトライアンドエラーを繰り返し、なんとか形にはなった。
今度一弥に教わるか⋯。ふと時計を見ると、出発する時間になっていたので、
テキパキと準備をし、家を後にした。
ピンクのクラゲは家に置いてきている。一度デートに持っていたところ、
「それは私の替りでしょー?今日は本物がいるんだよ?」と言われた。
そういえば理沙は一度もアオのクラゲを持っているのを見なかったが、
そういう理由があったのか。だから僕もそれ以来は、理沙とのデートには
アオのクラゲにはお留守番をしてもらうことにしている。
自転車でいきたいところだったが、髪の毛が風で崩れるのが嫌なので、
バスと電車で向かうことにした。
結局今日のダブルデートでどこに行くのかは聞かされていないので、
荷物は最小限にとどめた。かばんのなかには、財布とスマホと着替えくらいしか
入っていない。バスに乗ると、流石は週末と言わんばかりの密集具合。
息苦しさを感じながらもなんとか家の最寄り駅に到着した。
そこから電車に乗り一駅、もちろん電車もそれなりに混んでおり、
もちろん座れることはなく、ぎゅうぎゅうとまでは行かないが、
それなりに狭苦しい空間をたくさんの人と共有した。
これだから電車もバスも苦手なんだよな⋯。なんて思っていると、
待ち合わせの駅に到着した。
改札を通り抜けると、既に僕以外の三人が改札前に集まっていた。
何やら不穏な空気、三人が何か言い合っているような。
いや、一弥と細川さんが理沙に何かを言っている様子だった。
二人とも険しい顔をしながらも、どこか寂しげな顔をしながら理沙に何かを伝えている。
理沙は少し困った様子で二人の話を聞いているようだ。
理沙が何かしたのだろうか?不安を抱えながらも、
駆け足で三人に近づくと、理沙がこちらに気づき大きな声で
「おはよー」とこちらにブンブンと手を振ってきた。
それに気づいた一弥と細川さんも一瞬困った顔をしたが、
すぐにこちらに笑顔になりこちらに手を振ってくれた。
何かあったのかもしれない。あとで聞けばいいかなと思い、三人と合流した。
「ごめん、遅れた⋯」少し息が上がりながらも、三人に謝罪する。
「いや、俺らが早くきすぎたんだよ。まだ集合時間になってないぞ」
膝に手を当て息を整える僕の背中をさすりながら一弥がニヤけながら呟いた。
「ねえ、おはよーってば」理沙が僕に返事を強要してきた。
「あぁうん。おはよー」理沙に小さく手を振り、挨拶を済ませる。
細川さんはというと、こちらをみることはなく、スマホで何かを見ていた。
怒っている⋯のかな?と不安になったが、先日理沙が言っていたことを思い出す。
「まみちゃんはね、人見知りの厄介女の子なの。人見知りモードになると、
ツンツンしちゃうんだけど、それは怒ってるわけじゃなくて、ただ照れてるだけなんだ
そういうときこそ、話しかけてあげると喜ぶよ」
これがまさにあの時言っていた人見知りモードなのかな?
確かに僕はほぼ話したことはないから、仕方ないか。
「細川さんもおはよう」勇気を振り絞ってあいさつをすると
「う、おはよう」一瞬意表を突かれたようなうめき声を出したが、
普通にあいさつをしてくれたことに安心しつつ、理沙の方に目を向けると、
ほらねと言わんばかりのニコニコ顔をしていた。
一通りの挨拶が終わると、理沙が全員分の切符を手渡してきた。目的地は書いていないが、
金額からして、そこまで遠くはないのだろうと推測できた。
「とりあえず行こう」という理沙の号令に残りの三人はただただついていくことしかできなかった。
「今日はこれからキャンプをします!」言われるがままに電車に乗り一弥と話をしていると
コホンという咳払いの後、理沙が声たかだかに宣言をする。
電車のなかにしては中々に大きな声を出していたせいで、
周りの乗客が一瞬こちらを振り向き、理沙は注目の的となった。
耳を真っ赤にさせた理沙が周りに軽く会釈をしながら再びコホンと咳払いをする。
「今日はこれからキャンプをします。」先ほどとは打って変わってか細い声でこちらに話しかけてきた。
事前にどこに行くのか知らされていなかった理沙以外の三人は同時に顔を見合わせる。
「ちょっと待って、今からキャンプに行くの?」
少し怒り気味の声で眉間にしわを寄せながら理沙のほうを見る。
どうやら一弥と細川さんも行き先は知らなかったらしい、
それもそのはず、二人とも、いや、僕も含めて三人とも
これからキャンプに行くとは思えないような服装で来ているのだ。
一方で理沙はボーダー柄のショート丈シャツにハイウエストのデニムを着ていた。
本人も含め四人ともキャンプに適した格好とは言えないだろう。
理沙は突拍子もなく提案をすることが多い。
以前のデートでも急に海へ行くことになったかと思いきや、
その日の夕方には地元に帰ってきて映画を見たり。
デート中に急に入院しているおばあちゃんの病院へ電撃訪問したこともあった。
彼女は行動力に優れているが僕はそうでないので、
それをきっかけに喧嘩をしてしまったこともあるが、
そのたびに彼女は「今しかできないから。」と無理矢理僕を納得させていた。
キャンプの道具は?いやその前に今どこに向かっているんだ?と頭をフル回転させていると、
右手に温かい感触が伝わる。ふと見ると僕の横に理沙が移動し、
僕の手を握りながら助けをこうように上目遣いでこちらを見ている。
顔を一弥と細川さんに戻すと二人とも眉間にしわを寄せこちらをみている。
「まあ、ね。」少し呼吸を整える。少なくても僕だけは味方をしなければと
彼女の手をぎゅっと握り返した。
「まあ、さ、色々と驚いたけど、このメンツだったら絶対楽しいよ!」
と言いながら彼女に視線を落とすと、
彼女はまるで太陽のような明るい笑顔で手を強く握ってくれた。
振り回されているものの、彼女のお願いなのだから、
彼氏である僕が叶えてあげるのは当然のことだ。
「はぁ~。」一弥と細川さんが目を合わせて同時にため息をついた。
いつの間に眉間のしわはどこかへ消え去ったようだ。二人とも心配そうな目をしながら
「わかったよ。」と了承してくれた。電車は既に目的地へ向けて轟音を轟かせているので、
あきらめてもらうしかなかったが、説得できたようだ。
「どこに行くつもりなの?」扉に寄りかかりながら細川さんが理沙に聞く。
「大島公園駅で降りてそこからキャンプ場まで歩くよ」
大島公園駅はその名の通り大島公園にある駅だ。大島公園は海沿いにある広大な土地に
緑地や運動場、子どもたちが遊べるアトラクションや今回の目的地であるキャンプ場などがある。
「こないだ予約してね。道具とか全部そろってるんだってさ。
お肉とかそのへんの食べ物関係も人数分用意してもらってるよ」
「全部やってくれたんだね。ありがとう。」
細川さんはさっきの態度とは打って変わって、笑顔で理沙之頭をなでていた。
そんなやりとりをしている二人を横目に一弥の方へ目線を移すと、スマホとにらめっこをしている。
「なんか調べてんの?」とスマホを覗き込もうとすると、
「いや、なんでもなーいよ」とスマホをさっとポケットにしまい込む。
「いやらしいものでもみてたんじゃないのー?」とすかさず理沙が茶化すと
「一応私が彼女なんだからそーゆーのやめてよね」と細川さんまでもが茶化しだす。
「ちげーわ。火の起こし方とか、キャンプの知識を頭にたたき込んでたの。
そーゆーの初見でできる男かっこいいだろ?」フンッと鼻息を無らしながら胸を拳で叩いてみせた。
「ちなみに火起こしとかやらないよ?チャッカマン使うし」キシシと笑いながら理沙が話しだした。
「野菜とかもカットされてるし、私たち焼いて食べるだけだよー」
「それってもはやキャンプじゃなくてバーベキューじゃないの?」とすかさず細川さんが突っ込むが、
「たき火やるよ?キャンプファイヤーやるよ?だからキャンプなんだよ?」と理沙が必死に説明していた。
電車が大島公園駅につくと、4人でキャンプ場へ向けて歩き出した。
キャンプ場につくと、正面に大きな木像の建物。そこが受付になっているらしく、
「ちょっと待ってて」と三人に告げて、理沙が一人で建物に入っていった。
理沙は受付を済まし戻ってくると、
「荷物もらったから運ぼうか」とニコニコしながらこちらに手招きをしている。
女性陣が食材を男性陣がその他の重いものを持ちながら目的地まで歩いていく。
受付から五分ほど歩くと僕らのキャンプ地があった。
周りに木々が生えており、少し薄暗く不気味な空間、しかしその隙間から浜風が入ってくるので、
気温とは裏腹かなり涼しいスポットだった。
木造の大きなテーブルと、地面に固定された木造の椅子。
地面にはくるぶしくらいまで伸びた芝が足をくすぐっていた。
木造のテーブルの横には、ここで火を扱ってくださいと言わんばかりに
一部芝がはげているところがある。僕と一弥はそこにあらかた荷物を置き、
設営を始めた。女性陣は木造のテーブルに食材を置き、椅子に座って一休みしている。
「おい、設営手伝えよ」一弥が額の汗を拭いながら女性陣にツッコミをいれると
「かっこいいとこ見せてよ」と細川さんが涼しい顔して答えた。
結局僕たちだけで一通りの設営は終わった。キャンプと聞いていたが、
これはやっぱりバーベキューだな⋯。テントはもちろんないのである。
男性陣は炭などの準備、女性陣は食材の準備に取り掛かる。
そういえば理沙は料理はできるのだろうかと思ったが、
意外にも包丁さばきはお手の物だった。むしろクールな印象の細川さんは、
普段包丁を握らないのか、随分とお粗末なカット野菜だった。
「まみはさ⋯座ってて⋯。」ガックシと言わんばかりの顔で理沙が細川さんの肩を叩く。
「ちょっとそれどーゆーこと!?
「確かに細川が切った野菜、動物にあげる用なの?」
一弥が細川さんの切った野菜を手に取りケラケラ笑っている。
「顔もいいし、スタイルもいいんだから。料理っていうマイナスがあってもまみは大丈夫。
むしろ、私たちがお腹壊すの怖いから、私の料理さばきをみてて、んで褒めて。」
とニタニタしながら理沙が細川さんの両肩を持ち、椅子へとエスコートした。
僕らは炭の準備に多少てこずったものの、うまく火がついた。
鉄板が熱くなってきた頃、ちょうど理沙も野菜や肉をすべて準備できた。
「ごめんだけど、ちょっと意外だったよ。料理得意なんだね。」と理沙に話しかけると、
「惚れた?」というので、「元々惚れてる。」というと、少し寂しげな笑顔を見せた。
「さぁ、焼こうか」一弥の一声で僕たちのバーベキューっぽいキャンプは幕を明けた。
鉄板のうえに肉と野菜を置き、焼き上がりを僕と一弥が観察し、
横の鉄板では、理沙が野菜を炒め、細川さんが理沙にアドバイスをもらいながら
焼きそばの麺を炒めていた。
「なんか、楽しいな」横で肉の焼け具合を見ている一弥が囁いた。
「そうだね。思い出だ」と僕がいうと一弥がポカンと口を開けてこちらを見ていた。
「なんかなべさあ、こーゆーの苦手かと思ってたわ」
「苦手かも。でもメンツによるんじゃないかな?このメンツなら楽しいよ」
「そっか、俺がいるもんな」
「うん。それはデカいと思う」
「ツッコめよ。ハズいだろ」
そんな会話をしていると横から理沙が
「男子二人で何いちゃついてるのー?」とちょっかいを出してきた。
「私たちはおじゃまかしら?」と細川さんまで言い出してきたので
僕は焦るように
「いや、みんながいるから楽しいんだよ」とフォローをしておいた。
一通りの肉や野菜、焼きそばを食べ終えると、後片付けを開始した。
理沙は普段からキッチン周りの手伝いをしているらしく、洗い物すらもテキパキと
こなしている。一方の僕ら三人は焦げた麺がこびりついた鉄板と格闘していた。
「キャンプファイヤーやろう。」と理沙は提案したが、流石に明るすぎることもあり
あとでやることになった。
一弥と細川さんにごみの処理をお願いし、僕たちは二人で残った洗い物を洗い始めた。
「一弥と細川さんって付き合ってるのにあんまり話さないんだね」
一弥と細川さんは食事中も話さなかった。細川さんは理沙と一弥は僕と
たくさん話をしていたので、少し違和感を感じていた。
疑いほどのものでもないが、違和感というか、変だなって思っていた。
「付き合いたてなんだよ。それなのに私が無理矢理タブルデート誘っちゃったから」
鉄板にこびりついた頑固なコゲをこすりながら言った。
「そんなもんなのかな?僕たちはそんなことなかったのにね。」
「それは私ががんがんお話するタイプだからだよ。」
「細川さんはともかく一弥もがんがんタイプだけどなあ」
「まあでもほら、今は二人っきりだからたくさん話してるよきっと。」
キャンプ地に戻ると一弥と細川さんは普通に会話をしていた。
やっぱり僕らがお邪魔なのだろうかと考えていると、
「おう、おかえり」と一弥がこちらに気づく。
キャンプファイヤーの薪は二人で準備してくれていたらしく、
立派な焚き火となっていた。その周りを四方囲むように携帯チェアーが置かれていた。
まわりはまだ明るいが、木々に囲まれた僕らのキャンプ地は少し薄暗くなっていたので
焚き火の炎が丁度いい明かりになっていた。
「エモい。」理沙がポツリとつぶやく。
「確かにエモい。」と細川さんも同調する。
「煙全部こっち来てるからエモさとかわからん」ゴホッと咳き込みながら
一弥が涙目で訴える。
煙は僕と一弥の肺を交互に攻撃していたので、急遽女性陣の隣に移動した。
「これもいい思い出だねー。」と理沙が寂しげにつぶやいた。
「焚き火の雰囲気にやられるな。なんか寂しげじゃん」と僕が突っ込むと。
三人は少し寂しげな顔しながら、笑っていた。
話題は学校のことに移った。
誰々が付き合ってるらしいとか、〇〇先生の授業は相当だるいとか、
焚き火にはにつかない、愚痴や他人の情報をまるで井戸端会議のように四人で話した。
夏休みにそれぞれどう過ごしているかの話にもなった。
僕はバイトかデートかの二択だったのに対して、理沙はかなりアクティブに動いているらしい。
僕とデートをする日以外は、友達と過ごしたり親戚の家に行ったりと
たくさんの人と会っているようだった。
「家にいると気分暗くなるからさ、常にリフレッシュしたいの」と言っていたが、
家族との仲が悪いわけではないらしい。とにかく会っておきたい人がたくさんいると
少し意味深な事を言っていた。
一弥と細川さんは共にバイト漬けらしく、この夏休みもほとんど外出はせず、
家とバイト先を往復しているのだそうだ。
「二人はデートしないの?」と僕が聞くと、
「お金がねーからな、冬休みは色々と行こうかなって、なあまみちゃん」
一弥は少し動揺しながら、細川さんに話題をバトンパスした。
あれ?まみちゃんって呼んでたっけ?でも付き合ってるなら名前で呼ぶかと自己解決し
細川さんの方を見ると、
「そうね。」とだけ答え話題を終わらせてしまった。
少し気まずさを感じていると、
あたりが本格的に暗くなってきたので、僕たちは分担して片付けをすることになった。
テントがないわけだから、当然日帰りだ。
炭の消化を済まし、借りた道具一式を綺麗にかばんにしまい込み、
受付の方へと歩き始めた。
「こんな感じでよかったの?」隣を歩く理沙に聞いてみると、
「こんな感じが最高だよ。いい思い出」とニッコリご満悦の様子だ。
「それならよかった。僕も楽しかった」
「正直ダブルデートならどこでもよかったけど、ついでにキャンプもしちゃおうってさ」
「ついでって、なんのついで?」と僕が聞くと、
前を歩いていた一弥と細川さんがこちらに振り返った。
ん?何か言っちゃったのかな?と思っていると、
「俺がさ、元々まみちゃんとキャンプしたいって言ってたんだよ」
「そーなんだ。一弥がキャンプってちょっと意外だな」
「普通のデートは女友達とし飽きたからさ、キャンプいいなって思ったの。はい、
これでおしまい」と強制的に話題を終わらせると、再び受付に向けて四人で歩き出した。
道具の返却を受付で済ませ、駅へと歩き出した。
先ほどの会話で少し気まずさを感じていたが、帰りの電車のなかでは
そんな空気は一切なくなっていた。
電車内は人はそれほど多くはなく、快適に過ごすことができた。
「キャンプめっちゃ楽しかった〜」理沙が僕の服の裾を握りしめながら
僕の返答を待っている。
「そうだね。またこのメンバーで来れるといいね」
「うん⋯。そうだね」
意味深な間を空けられたので、理沙の顔を覗き込むと、
理沙は僕からふいっと目をそらし、握っていた僕の裾を離した。
あれ?と思いつつ理沙を見ていると、
「電車のなかでいちゃつくなよ」と一弥が割って入ってきた。
「いちゃついてないし〜」と理沙がいつものテンションに戻った。
駅に到着すると細川さんと理沙、僕と一弥で別れた。
理沙の家の最寄り駅は違うが、細川さんと買い物をしてから帰るらしい。
一弥が女の子の買い物に付き合うのは勘弁して。とか言うもんだから、
僕たちと別れることになった。
女の子たちと離れ離れにしておきながら、一弥自身も
「疲れたから帰るわ〜」と僕に手を振って駅の中へ消えていった。
僕は再び改札を抜け、電車に乗った。
楽しかったけど、なんだが気まずい瞬間いくつかあったな⋯と
今日の出来事を振り返っていると、いつの間にか最寄り駅に到着していた。
バスに乗り換えると、辺りはすでに日が落ちており、田んぼ道に差し掛かると、
漆黒そのものとなった。漆黒の道をしばらく走り、僕の家の近くの
停留所で僕はバスを降りた。
家へ向けて歩き出そうとしたその瞬間にスマホが着信を知らせる。
「お前ら疑似恋愛なんだろ?」
「え?なんで⋯」
「知ってんだよ、俺は。」
「それは⋯」
「ちょこも知ってるよ、俺が知ってることは。お前はちょこに自分の気持ち伝えたの?」
理沙には疑似恋愛だが、周りにはちゃんとお付き合いしてる体にしようと
言われていたので、周りの人間には気づかれていないと思っていた。
もちろん僕自身は理沙が好きだから、僕の態度は疑似恋愛とは程遠いとは思うが、
「お前は自分の気持ちをちょこに伝えたのか?」
黙っている僕にもう一度同じ問いを投げかけてくる。
「⋯好きだよ。でも、理沙は疑似恋愛にこだわってるみたいなんだ。
それも夏休みが終わったら解消される。でも、僕は理沙が好きだ。
だから、夏休み最終日に疑似恋愛を終わらせて、改めて僕から告白をするつもりだよ。
そこで僕の気持ちを全部話そうと思ってるよ。」
沈黙の後一弥がため息をした音が伝わってきた。
「手遅れにならないといいけど⋯そうか。」とつぶやき、
「まあ、頑張れ」
そこで通話は切れてしまった。
一体何のことだろうと考えるも答えが出るはずもなく、
モヤモヤしながらも僕は家へと歩き出した。
