不器用な彼女

暑さとともに汗が噴き出る。エアコンのない僕の部屋はまさに蒸し風呂状態。
夏真っ只中、夏休みも折り返していた。
僕と理沙の疑似恋愛期間は夏休み終了とともピリオドを打つことになっている。
しかし、僕は心に決めていた。最終日に必ず告白すると。
何度も自分の気持ちを話そうとしたが、そのたびにのらりくらりとかわされて
結局現在に至るまで、僕は自分の気持ちをきちんと理沙に告げられずにいた。
そこまで僕の告白をさけるのならばいっそのこと疑似恋愛を楽しんでやろうかとも
思ったが、デートをするたびに理沙に対しての想いは強くなる。このままでは
心が破裂してしまいそうになる。
今日に至るまで僕は本当の気持ちを押し殺して理沙と会っていた。
しかしデートばかりではお金がいくらあっても足りない。
夏休み中はちょこちょこバイトを入れて、店長に頭を下げて前借りしたお金で
デートをしていた。いつもは夕方からの時間帯しかはいらないが、
夏休み期間中は、朝でも昼でもはいれる日は無理やりにでも入った。
この日もバイトを終えた。朝から夕方までのロングシフトをこなし、
心身ともに疲弊状態となった僕は自宅のベットに倒れ込むように横になる。
しばらく目を瞑っているとポンッとメッセージの通知が鳴る。
「ちょっと相談なんだけどさぁ~」
一弥からのメッセージだった。
「タブルデートしない?」
⋯は?思わずメッセージを二度見した。僕の目は間違えてなかった。
僕の記憶が正しければ一弥に彼女はいなかったはず⋯
口をぽかんと空け、メッセージを睨みつけていると
「いや、彼女できたんよ」
僕の胸中を察してか、立て続けにメッセージが来た。
「H組に細川まみっているのわかる?」もちろん知っている。
理沙の親友だ。
細川さんは理沙とは正反対で普段は物静かな印象だった。
何を考えているのかよくわからないミステリアスな女性だ。
しかしながら背中まで伸びたつややかな髪の毛や時折見せる幼い笑顔で男子のなかでは
密かに人気である。
一弥の隣に細川さんがいる映像を思い浮かべると、確かにしっくりくるな。
でも、一弥はダブルデートなんて提案してくるようなやつではない気がする。
想像だけど細川さんもそんな提案しなさそう⋯。まさか⋯。
「ああ、理沙と仲いい子だよね?」
「そうそう!」
「それで?」他人の色恋沙汰など興味はないが、一応食い気味で聞いてみる。
「なんか二人で話し合って、タブルデートがしたい。てかしよう。ってことになったらしくて。」
僕は少し顔をゆがめる。やっぱり、理沙の提案か。
この夏休み中に理沙とは何度もデートをしたが、デートの引き出しはまだまだある。
なのにもう普通のデートじゃなくてダブルデートをしようというのか。
しかしせっかくの提案に釘を差すわけには行かない。
「分かったけど、どこで何するの?」
「行き先も何するかも全部ちょこがきめるんだってさ。俺たちは電車賃とか食事代だけでいいって。」
「よくそれ了承したな。」と眉間にしわを寄せると。
「いや、まあ、ちょこのしたいことさせてあげればいいんじゃない?俺たち的にはデートもできるわけだし。
まあ詳しいことは大好きなちょこにでも聞きなさ〜い」
「まあいいけど」
「ありがとよっ」
理沙にも色々聞かないとなと思ったが、疲れが溜まっていて今すぐにでも眠りたかった。
重いまぶたを閉じると、僕は意識を失った。

母親の怒声が聞こえ、目が覚めた。
夕御飯ができたらしいが、僕は何度か母親の呼び出しを無視したことになっている。
もちろん無視はしていない。寝ていたのだから。スマホを見てみると通知が来ていた。
「今週末まみもちょこも空いてるんだけど、なべは空いてる?」一弥からのメッセージだった。
今週末は幸いにも予定がなかった、というか、バイトとデートの毎日で疲弊している僕の
様子を見て店長が気を遣って休みにしたらしい。余計な事をしてくれるなと思ったが、
デートが予定にはいるなら結果オーライだ。店長ありがとう。心の中でお礼を言い、
「空いてるよ」と短く返事をすると、
「じゃあそこでデートね。」というメッセージとともにかわいい猫のスタンプがおくられてくる。
いよいよしびれを切らしたのか母親がずかずかとわざとらしく足音を鳴らして階段を
のぼってくる音が聞こえたので、怒らるのは勘弁なので寝たふりをした。
「あら、寝てたの。裕太起きなさい」
母親に揺すぶられ、今起きましたと言わんばかりの演技をする。
「ごめん、寝てた」
この手を使えば母親は怒らないのを知っている。いや、寝ていたのは本当なのだけれども。
その日の夜、理沙から「お疲れ〜」と短いメッセージが送られてきた。
お疲れ様と書かれたタヌキのスタンプを送ると、
間髪入れずにポンッと音を立て新たなメッセージが送られてくる。
「週末のこと聞いた!?」
「一弥から聞いたよ。細川さんと付き合ってるらしいね。」
またも間髪入れずにポンッと音をたてる。
「そう!ビックリ!」「デートは私がプランを練るから任しといて!」
最後にフンッと言わんばかりに鼻息が書かれた猫のスタンプを送ってきた。
今までのデートも大体が理沙の要望で進められた。
彼女には行きたいところが溢れているんだろうなと毎回プランは任せっきりにしているし、
僕はプラン立てたりするのが苦手だから正直助かる。
ダブルデートのプランについては彼女に任せることにしよう。
「ダブルデートは理沙が提案したんでしょ?」
「うん。すごいね。よくわかったね」
「一弥はダブルデートなんてキャラじゃないもん。何となくだけど細川さんも
そんなことはしないかなって」
「まみちゃんは結構ぐいぐいタイプだよ?私に対しては」
まみちゃんとは細川さんの名前である。そんなふうには見えないけど、相手が女の子だからでは?
と思いつつ、あまり深く突っ込むのはやめようと話題を変えた。
「一弥とは面識あるの?」
「もちろん知ってるよ」
心がざわつくのを感じた。隣のクラスだし、知っていることには何の疑いもない。
自分から聞いといてなんだが、僕の心は一丁前にヤキモチとやらを妬いているらしい。
「いっつも裕太と一緒にいるから、彼のおかげで裕太と話すタイミングないんよね〜」
まるでこちらの心の中を覗いたのかと疑いたくなるくらい、今の僕を一瞬で元気にさ
メッセージを送られ、僕のざわつく心はどこかへ消えてしまった。
その後も他愛のないメッセージのやり取りを行い、十時のおやすみメッセージで
その日の締めくくった。