夜明けみたいな恋だった


 情けないことに、これに類するエピソードが、私にはいくらでもある。
 それこそ日が暮れるまでだって話し続けられるほど。

 受け取り下手なのはモノに限らなかった。
 人の好意全般を受け取ることが苦手なこどもだった。

 けれど、こどもというのは成長する生き物なのである。
 高2になった私も、いつの間にやらすっかりスマートな振る舞いのできる子女へと──

 というのは嘘です、はい。
 ごめんなさい。

 とはいえ、さすがに好意を完全拒否することはしなくなっていた。
 『ド下手がちょい下手くらいまでには改善された』くらいなら言っても許されるだろうか。

 どうしてちょい下手なのかというと、好意を受け取るときに居心地の悪さを感じてしまうのはどうにもならなかったから。
 依然として、苦手意識は残ったままだった──


「ねえ、今度の午前授業の日、午後から遊びに行かない? 親睦会兼ねて」

 それは、新年度早々クラスのムードメーカーの座に躍り出た友梨奈の提案だった。

「行く行く」
「俺部活だからパス」
「あー、私も部活あったかも。もしなかったら参加するってことでもいい?」
「はい、はーい! 行きたーい!」

 すぐさま出欠が集まる。

 私はドキドキしながら、全神経を耳に集中させていた。

「愛莉もどう?」

(キター!)

 声をかけてくれるのを待っていた。
 心の中でガッツポーズする。

 そのくせに表向きには、えっ私も? みたいな演技をしてしまう。

「あー、うん、たぶんその日は空いてると思う」

 しかし、高校生の私は少なくとも、『行かない』とは言わない。
 まあ、素直に『誘ってくれてうれしい! 絶対行く‼︎』と言うことも、決してできないのだけれど。
 長年染みついた習慣というか癖というか、そういうものを修正するのは、なかなかに難しいものなのだ。

「なら、一緒に遊び行こ?」
「別にいいけど」

 それでも、参加表明はできたのだから上出来だということにしておこう。

「人数けっこう集まったね」
「どこ行く?」
「ボウリングは? でも、いくつかのレーンに分かれることになるから親睦会って感じじゃないかあ」
「なら、カラオケは?」
「大部屋予約すれば全員入れるし、いいんじゃない?」

 一気に話がカラオケでまとまりそうになり、うれしかったはずの私の気持ちは急速に萎れていく。
 なぜなら、私はカラオケが苦手だから。

 みんなが歌うのを聴いているだけでいいのに、『愛莉、歌ってなくない?』とリモコンを回してくれて……
 そうして、たいして上手くもない私の歌に手拍子やら拍手やらしてくれて……
『すごくよかったよー』なんてお世辞までもらってしまった日には、どう返答すればいいのかも分からない。

 気遣いのオン・パレードで、受け取り下手人間にとっては、もはや苦行とまで呼べる域なのだ。
 想像しただけでも気が重い。

「愛莉はカラオケ、どう思う?」

 さすが友梨奈。
 さっきから黙っている私のことまで気にかけて、優しい微笑みを向けてくれた。
 でも、その気遣いすらも、この状況では受け取れない。

「でも、私上手くなくて……」

 とうとうネガティブな言葉を発してしまった。

(あーあ。こんな発言しちゃったら、みんなは『大丈夫だよー』とかって言ってくれるんだろうな……)

 その慰めは追い打ちでしかない。
 もうドツボにハマっていく未来しか見えない気がした。

 ところが、聞こえてきたのは意外な言葉だった。

「マジで⁉︎」

 笑顔で訊いてきたのは、まだほとんど話したことのない男子だった。

(名前は確か、小橋 流星くん……)

「俺も俺も」
「そう……なんだ……?」
「なあ、どっちが下手か採点で勝負しない?」
「何その勝負。えっ、それってまさか点数が低いほうが勝ちになるの?」
「もちろん」
「やだー! そんな勝負、勝ってもうれしくないよ」

 私は噴き出してしまった。

「じゃあ、負けたほうは勝ったほうに購買でアイスを奢るってことにしよう」
「それならオッケー」

 行き先は満場一致でカラオケに決定した──