
その日は、部署の飲み会。慧はいつものように、静かにグラスを傾けていただけなのに……。女性社員たちがこぞって席を替わりながら話しかけてくる。
「部長って彼女いないんですか?」
「え、じゃあ今フリー? すっごい意外!」
「休日は何してるんですか? 今度よかったら……」
(……またかぁ……)
莉央は、笑顔で対応する慧を横目に、黙々とビールを煽っていた。
(わかってる。部長は悪くない。この状況はいつものことだけど……でも、やだ……)
グラスを置く音が、少しだけ強くなった。気づけば、顔がぽーっと熱くて、思考もふわふわ。そんな莉央を見て、慧が声をかける。
「白石、飲み過ぎだ」
「んー……やだ。まだ飲む」
「もう十分飲んだだろ。ふらふらしてる」
「してないもん……っ」
「いいから帰るぞ」
なんとか連れ出された帰り道。酔った莉央は千鳥足で、明らかに様子がおかしい。
「少しここで休もう」
近くの公園のベンチに、そっと座らせてくれる。
「黒瀬部長って……ほんと優しいですよね……」
「そうか? 普通だろ」
「いえ……優しいですよ……」
「お前はお酒弱いくせに、無理するな」
「だって……部長がモテるからぁ……」
「……は?」
「いっつもモテてて……顔もかっこいいし、仕事もできるし、みんな好きになっちゃうの当たり前じゃないですかぁ……」
「お前……酔ってるな」
もう自分が何を言いたいのか分からなくなってきた。
「最初……怖かったんです。部長のこと。目つきとか、無口だし厳しいし……でも」
少し潤んだ瞳で、慧を見上げる。
「でも……ちゃんと知ったら……すっごく優しくて、ちゃんと人を見てて……すごいなって思ったんです。自分にも他人にも厳しいのに、嫌われないの、凄いです」
「………」
「言ったことは必ずやり遂げるし……その、なんか……」
「…………」
次の言葉を待つ慧が息を飲んだその瞬間……。
「……すごく……だから………私………」
コテン。
「……おい」
莉央の頭が、慧の肩にトンと預けられている。すやすや寝息を立てる莉央の顔は、赤く染まっていて……。
「……ここで寝るなよ」
小さく笑って、慧はそっと莉央の髪を撫でた。
To be continued

