
あっという間に数週間が経った。
莉央の毎日は目まぐるしかった。
慧の後押しもあるが、やっぱり初めての案件。
不安もプレッシャーも大きかった。
それでも、頑張ろう、と思えたのは……。
『白石ならできる』
あの日の慧の言葉があったからだ。
もちろんそれだけではないけれど。
そして迎えた、重要な社内プレゼンの日。
営業部だけでなく、企画部や経営陣も出席する。
この案件の方向性を決める重要な会議だった。
莉央は緊張しながらも準備を終え、会議室へ向かった。
(大丈夫……)
何度も確認したし、資料も見直した。
(問題ない……)
そう思っていた。
会議が始まるまでは。
「こちらが市場分析データになります」
何度もシュミレーションした通りに進行する莉央。
その時、企画部長が眉をひそめる。
「白石さん」
「はい」
「この数値、前回資料と違わないか?」
「え……」
心臓が跳ねた。
画面を見て、資料を見る。
そして……。
血の気が引いた。
(違う!)
数字が違う。
本来入力するはずだった最新データではなく、修正前のデータが残っている。
しかも重要な部分だった。
会議室が静まり返る。
「も……申し訳ありません」
声が震える。
慌てて訂正しようとしたが、頭が真っ白だった。
その時。
「続きはこちらで説明します」
慧が立ち上がった。
静かな声で会議はそのまま進行した。
けれど莉央には、その後の内容がほとんど入ってこなかった。
会議終了後。
「白石」
慧に呼ばれる。
「会議室に来い」
その一言だけだった。
重い足取りで会議室へ向かう。
慧以外はもちろんいない。
ドアが閉まる音がやけに大きく聞こえる。
莉央は俯いたまま立っていた。
「今回のミスの原因は?」
慧が口を開く。
声はいつも通り冷静だった。
「確認不足です」
「なぜ確認不足になった」
「……大丈夫だと思ったからです」
「思った?」
鋭い声と視線。
莉央の肩が震える。
「営業に思い込みは不要だ」
厳しい言葉だった。
「数字一つで信用は失われる」
「……はい」
「今回は社内だったからよかった」
慧の視線が真っ直ぐ向けられる。
「だが取引先相手ならどうなっていた?」
何も言えない。
想像するだけでゾッとする。
「白石」
さらに低い声が響く。
「期待していた」
胸が痛んだ。
「……申し訳ありません」
「謝罪はいい」
慧は首を振る。
「次にどうするか考えろ」
それだけ言って慧は会議室を出て行った。
To be continued

