
「案件、怖いか?」
慧がぽつりと聞く。
莉央は少しだけ考えた。
「……怖いです」
正直に答える。
「失敗したらどうしようとか……」
「うん」
「期待に応えられなかったらどうしようとか……」
夜風が髪を揺らす。
隣を見ると、慧は黙って話を聞いてくれていた。
「でも……でも、頑張りたいんです」
そう言うと、慧がふっと笑った。
「知ってる」
その一言が嬉しかった。
ぽん、と頭に手が乗っかった。
「莉央はよく頑張ってる」
どこまでも優しい声。
胸がじんわり熱くなる。
「まだ何も成功してないですよ」
「関係ない」
頭を撫でながら慧が言う。
「任された仕事から逃げなかった」
「……」
「それだけでも十分偉い」
莉央は思わず俯いた。
こういうところだ。
この人は。
結果だけじゃなくて、過程も見てくれる。
「ご褒美だ」
「え?」
顔を上げた瞬間、ぐいっと肩を引き寄せられた。
「ひゃっ」
気づけば慧の肩に頭を預ける形になっている。
「け、慧さん」
「充電中」
「何ですかそれ」
「俺が……」
さらっと返される。
「慧さんが?」
「うん」
低い声が耳元で響いて莉央の心臓が跳ねる。
「莉央が……仕事ばっかり見てるから」
「だって案件が」
「案件と俺、どっちが大事なんだ?」
「子供ですか」
思わず笑ってしまう。
すると慧も笑った。
少しして。
莉央はそっと慧の肩に額を預けた。
疲れていたのかもしれない。
安心したのかもしれない。
「慧さん」
「ん?」
「ありがとうございます」
素直な気持ちだった。
すると慧は少しだけ目を細める。
「まだ早い」
「え?」
「成功したら……ちゃんとしたご褒美な」
その言葉に胸が高鳴る。
「ふふ……それは楽しみですね」
「だろ?」
「じゃあ、ご褒美のためにも頑張らないと!」
「無理はするなよ」
「……善処します」
「今のは信用できないな」
「ひどい」
「事実だろ」
くすくす笑いながら、慧は莉央の髪を撫でる。
その手は優しくて、温かくて。
ずっとこうしていたくなる。
帰り際。
車に乗り込む前に、慧が不意に莉央を呼び止めた。
「莉央」
「はい?」
「一人で抱えるな」
真剣な目だった。
「案件も……」
少しだけ近づいてくる。
「不安も……」
優しく頬に触れる指先。
「ちゃんと俺を頼れ」
その距離にドキリとする。
「……はい」
小さく頷くと、慧は満足そうに笑った。
「よし」
そして。
額にそっとキスを落とした。
「今日のご褒美終了」
まるで何でもないことみたいに言うから。
莉央は真っ赤になりながら思う。
(この人は……本当にずるい……)
でも。
だから好きなのだ。
欲しい時にくれる言葉もぬくもりも。
いつも優しく包んでくれる腕も胸も。
心の中の氷が解けるように。
莉央の不安をいつだって溶かしてくれる。
そんな慧の存在すべてが愛おしいと思う莉央だった。
To be continued

