
慌ただしい日々が続く。
かれこれ2週間近くゆっくりできていない。
休日も慧と会うことなく、資料作りで潰れてる。
そして今日もあっという間に終業時間を過ぎていて。
デスクにはまだ終わっていない仕事が山積みだった。
「あと少し……」
パソコンの画面を見つめながら小さく呟く。
疲れていないわけじゃない。
でも初めて任された大きな仕事。
結果を出したい。
慧に認めてもらいたい。
部長としても恋人としても。
そんな気持ちがあった。
パソコンに向き合っていた莉央は背後からの気配に気づかなかった。
「白石」
不意に降りてきた声。
顔を上げると慧が立っている。
「あ、部長。お疲れ様です」
「何時だと思ってる」
時計を見る。
午後九時半。
「あ……」
「帰るぞ」
「えっ」
「帰るぞ」
「でもまだ終わってません」
「終わってる」
「え?」
「さっき確認した」
莉央は瞬きを繰り返した。
確かに今日中にやるべき分は終わっている。
でも。
「明日の準備が」
「明日やれ」
「でも……」
「白石」
低い声。
嫌な予感がした。
この声は。
慧が何かを決めた時の声だ。
「立て」
「はい?」
「立つんだ」
有無を言わせない空気だった。
莉央は反射的に立ち上がる。
そして15分後。
なぜか莉央は慧の車に乗せられていた。
「どこ行くんですか?」
「秘密」
「怖いんですけど」
「誘拐だからな」
「部長が言っちゃダメなやつですよ」
思わず笑う。
すると慧が満足そうに口元を緩めた。
その顔を見て、少しだけ胸が温かくなった。
連れて来られたのは海沿いの公園だった。
頬をかすめる夜風が心地いい。
街の灯りが水面に映ってきらきら揺れている。
「わぁ……」
思わず声が漏れた。
「久しぶりに外の空気吸ったか?」
「……そうかもしれません」
言われて気づく。
ここ最近。
会社と家の往復ばかりだった。
休日も資料を読んでいたし。
「だろうな」
慧は苦笑した。
「根を詰めすぎだ」
「そんなこと……」
「ある」
遮られてしまう。
「自分じゃ気づいてないだけだ」
図星だった。
莉央は昔からそうだった。
頑張り始めると周りが見えなくなる。
海が見えるベンチに並んでベンチに座る。
しばらく沈黙が続く。
でも不思議と心地よかった。
耳に響く波の音も鼻をかすめる潮風の匂いも。
「案件、怖いか?」
慧がぽつりと聞く。
莉央は少しだけ考えた。
To be continued

