黒瀬部長は部下を溺愛したい



 久しぶりの3連休初日。
 
 本当なら。
 今日は朝から一緒に出掛ける予定だった。
 映画を見て、ランチをして、夜は慧の家でのんびりする。
 そんな約束だった。

 そう本当なら……。

『悪い。急なトラブルだ』

 朝7時に届いたメッセージ。
 すぐに返信した。

『大丈夫です^^ お仕事頑張ってください!』
『本当にごめん。俺の家で待っててくれていいから』
『はい^^ 待ってますね』

 本心だった。
 誰も悪くない。
 仕事なんだから仕方ない。
 分かってる……分かってるけど。

 時計を見れば時刻は午後3時。
 まだ連絡はない。
 テレビも見たし本も読んだ。
 普段やらない所まで掃除もした。

 でも……なんだか落ち着かない。
 気付けば午後6時。
 用意した夕ご飯はラップして食卓の上で待っていた。
 
『もう少しかかる』

 短いメッセージ。

『了解です!』

 笑顔のスタンプ付きで返す。
 リアルは全然笑えないのに。
 
 私は平気。
 仕事なんだし仕方ない。
 何度も自分に言い聞かせた言葉。

 テレビをただ流しているだけで夜9時になった。

 ——ガチャ!

 玄関の鍵が開く音がした。

「ただいま」

 聞き慣れた声が聞こえて立ち上がる。

「おかえりなさい!」
「待たせたな」
「全然です!」

 嘘だった。
 めちゃくちゃ待った。

 慧はネクタイを緩めながら息を吐く。
 それだけで疲れているのが分かった。
 だから、余計に言えなかった。

「ご飯温めますね」
「ああ」

 食卓に並ぶのは冷めてしまったものばかり。
 少しだけ胸が痛んだ。
 当たり障りのない会話をしながらした食事は味も覚えていない。

 食後、ようやく2人でソファに座った。
 ちょん、と肩が触れる。

 本当は抱きつきたい。
 でも、疲れてるだろうと思うとできなかった。

「今日は悪かった」
「大丈夫ですよ」
「デート潰れたのに」
「お仕事ですから」

 莉央は笑った。
 上手く笑えたと思った。
 でもそんな莉央を慧はじっと見る。

「莉央」
「はい?」
「無理してるだろ」
「してません」
「してる」

 即答で返される。

「……」
「見れば分かる」

 優しい声。
 それがずるい。
 甘えてしまいそうになるのをグッと堪える。

 少しの沈黙の後。

「……今日は帰るか?」

 その瞬間。

 ——ぷつん。

 莉央の中で何かが切れた。

「……はい?」
「もう遅いし」
「……」
「……送ろう」

 分かってる、誰も悪くない。
 疲れてるだけ。

 分かってるのに……。

「帰ります」
「莉央?」

To be continued