黒瀬部長は部下を溺愛したい



 ある日の夕方。
 今日は在宅勤務にしておいて本当によかった……。
 ベッドの中で丸くなったまま、莉央はうめき声をこぼす。

「……いたい……」

 お腹も、腰も、頭もなんか重くて、思考もふわふわしてまとまらない。
 やる気も出ないし、寂しさがこみ上げてくるのはホルモンのせい?
 何もしたくないのに、誰かそばにいてほしいっていう矛盾。

 そんなとき。
 部屋のチャイムが「ピンポーン」と鳴った。

「……誰だろ?」

 玄関を開けたそこには。

「莉央、大丈夫か?」
「慧さん!?」

 紙袋を両手に抱えて立っていた慧。
 シャツの袖をまくった腕がたくましくて、でもその目は優しい。

「調子悪いっていうから、辛いんだろなと思って。顔、真っ青。予想以上だな」
「すみません。わざわざ来てくださるなんて……」
「とりあえず、横になってな。俺が全部やるから」

 慧は迷いなくキッチンへ直行。
 抱えていた紙袋の中には……。

「わぁ、すごいこんなに? 私が好きなゼリーまで!」
「必要そうなもん買ってきた。ほらカイロ」
「ありがとうございます」

 まるで慣れた手際でお茶を淹れて、スープをあたためる慧。
 莉央はぼんやりと毛布にくるまりながら、それを見ていた。

「慧さん、すごいですね……」
「何がだ?」
「すっごく慣れてる感じ」
「……あ~、違う、勘違いするなよ。これは妹がしんどい時にやってたんだよ」
「え、妹さんがいたんですか!?」
「あ、言ってなかったか。ちょうど莉央と同じ年だよ」
「へぇ、そうだったんですか。優しいお兄ちゃんなんですね」
「莉央にはもっとしてあげたいけど」
「……ほんと、やさしすぎて泣きそうです……」

 慧がそっと莉央の目尻をぬぐう。
 仕草も視線も、すべてが優しくて。

「ほら、ちょっと寝てろ。昼は食べたか?」
「まだ、です」
「そっか。ならちょい待ってろ。作ってくる」
「そ、そんな! 申し訳ないです……」
「こーら。そんな顔すんな。しんどい日くらい、何も考えずに頼ってくれていい。俺のことも、もっと使って」
「そんな……」
「お前がしんどいときこそ、俺の出番だって、前にも言っただろ」

 莉央の目から、じわっと涙がにじむ。

「う、うぅ……こんなときにまで、優しいの……ずるい……」
「うん。ずるくてもいいから、莉央が楽になってくれる方を選びたい」

 そっと抱き寄せられて、あたたかな胸元に顔をうずめる。
 鼓動のリズムが優しくて、やわらかくて、ちょっと泣きたくなるくらい安心する。

「ご飯食べたら、少し寝て。そのあと、音楽流したりテレビ見たりしようか」
「……なにそれ、贅沢……」
「恋人特権ってやつ。俺限定」

 どんなにつらい日でも。
 
「莉央が弱ってるときほど、俺はそばにいたい」

 そう言ってくれる人がいるだけで。

 それだけで世界が違って見えるよね……。

To be continued