黒瀬部長は部下を溺愛したい



 気づけば慧の胸の中。

「慧さん……!?」
「比べる必要はない」

 耳元で低い声が落ちる。

「俺が好きなのは莉央だから」

 はっきりと言葉にしてくれる。

「で、も……」
「あいつはもう過去のことだ」

 きっぱりと言い切る。
 そのあと、莉央の頬を指先で撫でた。

「今も、この先も……隣にいてほしいのは莉央だけだから」

 真っ直ぐな目。
 ずるい。
 こんなの、嬉しいに決まってる。

「……っ」
「泣くな」
「泣いてません……」
「可愛い顔ぐしゃぐしゃ」
 
 ふっと笑って、額にキスされる。
 人通りの少ない夜道。
 誰も見ていないのを確認してから、慧は小さく息を吐いた。

「……正直」
「?」
「嫉妬してる莉央はかなり可愛かった」
「……最低です」
「知ってる」

 でも嬉しそうに笑うから……。

「もうっ……本気で落ち込んでたのに」
「悪かった」

 全然悪いと思ってなさそうな声。
 でも次の瞬間。
 大きな手が莉央の頭を優しく撫でた。

「そんな顔するな」
 
 さっきまでの意地悪そうな笑みは消えていて……。
 その目は、私だけを見る恋人の顔だった。

「……莉央」

 甘く呼ばれる。
 優しく頬を撫でられる。

「俺、莉央が思ってるよりずっと余裕ないから」
「え?」
「あいつが来るって聞いた時も……」
 
 慧は少し苦笑しながら。

「莉央が気にするだろうなと思った」
「じゃあ最初から言ってくださいよ……」
「言ったら余計考えるだろ」
「それは……」

 否定できない。
 すると慧は莉央の額に自分の額を軽く当てた。
 距離が近い。
 心臓がまたうるさくなる。

「俺が好きな人、知ってる?」
「え……」
「答えて」
「………わ、私」
「誰の彼女?」
「……慧さんの」
「うん」

 莉央の答えに満足そうに笑う。
 子供みたい。

「慧さん」
「ん?」
「確認しすぎです」
「何回でも聞きたい」
 
 さらっと言う。
 本当にこの人は。
 会社で見せる姿と違いすぎる。

「好きだからな」

 耳元で囁かれる。
 反則だ。

「……私も好きです」

 小さく答えると。
 目がふっと細くなった。
 その顔が好きだと思う。
 私だけに見せてくれる顔だから。
 
「莉央」
「はい」
「今日はこのまま帰したくない」

 低いくてどこか甘えるみたいな響き。

「え?」
「嫉妬して、不安になって。頑張って平気な顔してたんだろ」

 見抜かれていた。
 全部。

「だから」

 そっと肩を抱き寄せられる。

「今日はいっぱい甘やかさせろ」

 優しく髪にキスが落ちる。

「俺の彼女は世界一可愛いから」

 そんなことを真顔で言うから。
 結局莉央は。
 顔を真っ赤にしたまま、慧の胸に隠れるしかなかった。
 その頭を撫でながら。
 慧は、誰より幸せそうに笑っていた。

To be continued