黒瀬部長は部下を溺愛したい



「……え?」

 会議室のドアを開けた瞬間、思わず固まった。
 綺麗な人だった。

 長い黒髪。
 凛としたスーツ姿。
 ヒールの音まで様になっている。
 いわゆる、仕事のできる女。

 その人は、資料を見ながら慧と話していた。

「だから言ったでしょ。あなた詰めが甘いのよ」
「うるさいな」
「相変わらず可愛くないわね」

 こんな砕けた話し方をする慧に驚く莉央。
 動揺していると、慧がこちらに気づく。

「白石。入れ」
「は、はい……」

 席につくと、その女性が私を見た。
 優しく微笑み軽く会釈までしてくれる。

「初めまして、白石さん。九条麗華(くじょうれいか)です」
「し、白石莉央です」
「そんな緊張しなくていいわよ」

 ふっと笑う姿まで完璧だった。
 しかも。
 
「昔、黒瀬くんと付き合ってた仲だから」
「…………え?」

 小声で呟かれた言葉に心臓が止まるかと思った。
 その後の打ち合わせ、正直ほとんど頭に入らなかった。

 元カノ。
 黒瀬部長の。
 しかも、こんな綺麗で仕事できて、大人の女性。
 勝てる気がしない。

 会議終了後。
 
「白石、資料まとめ頼む」
「……はい」

 返事をしたものの、たぶん顔は死んでいた。
 そんな私を見て、九条さんがくすっと笑う。

「可愛い子ね」
「え?」
「黒瀬くんが夢中になるの分かるわ」

 どくん、と胸が鳴る。

「え、あの……」
「安心しなさい。もうとっくに終わった男だから」

 さらっと言う。
 大人すぎる。

「むしろ昔より優しい顔しててびっくりしたわ」

 九条さんはちらっと慧を見る。

「昔はもっと冷たかったもの」
「余計なこと言うな」
「事実でしょ」

 慧が少し面倒そうに眉を寄せる。
 どこか入れない空気があるように感じて……。

 莉央の胸にトゲが刺さったまま帰り道へ。
 駅まで並んで歩きながら、莉央はずっと俯いていた。

「莉央」
「……はい」
「元気ないな」
「そんなことないです」
「ある」

 即答。
 図星すぎて苦しい。
 すると慧が立ち止まった。

「……嫉妬した?」

 低い声。
 優しいのに、少し楽しそう。

「……してません」
「ほんとに?」
「……だって」

 言葉が詰まる。
 比べたくないのに。
 比べてしまう。

 綺麗で。
 大人で。
 仕事もできて。
 あんな人が元恋人なんて。

「私、全然あんなふうじゃないし……」

 情けなくなって俯いた瞬間。
 ぐいっと腕を引かれた。

「っ!」

 気づけば慧の胸の中。

「慧さん……!?」

To be continued