黒瀬部長は部下を溺愛したい



 待ち合わせは、夜の駅前。
 仕事終わりの人波の中、莉央はスマホを握りながらそわそわしていた。
 すると……

「お待たせ」

 低く落ち着いた声。
 振り向いた瞬間、黒いコート姿の慧が立っていた。

「あ……っ」

 思わず息を呑む。
 シンプルな格好なのに、背が高くてスーツ姿の余韻が残ってる。
 仕事中より少しだけ柔らかい表情。
 何もかもがずるい。

「なに、その顔」
「……かっこいいなって思ってました」
「……いきなりそんなこと言う?」
「だって本当に……」

 慧は少しだけ目を細めて莉央の頭をぽん、と撫でた。

「今日の莉央も可愛い」
「……っ」

 声にならない悲鳴。

(やっぱり、敵わないな……)

 ◆

 向かった先は、高層ビルの展望ラウンジ。
 ガラスの向こうには、街の灯りが宝石みたいに広がっている。

「……わぁ……すごい……!」

 窓際へ駆け寄る莉央の後ろで、慧は静かに笑っていた。

「好きか?」
「はい。こういうの、テンション上がります」
「なら正解だったな」
「ありがとうございます、慧さん」

 満面の笑みで笑う莉央に慧は少しだけ目を細めた。

「……可愛い」
「えっ」
「いや。独り言」

 慧はそんな莉央の隣へ立つと、そっと腰に手を回した。

「……慧さん」
「ん?」
「ここ、外です……」
「夜景見てる人しかいないから平気」

 そう言いながら、慧はガラス越しの景色よりも、莉央ばかり見ている。

「そういえば今日、他部署の男に話しかけられてただろ」
「え? あ……経理の方ですか?」
「距離近かったな」
「そ、そんなこと……」
「わかってるよ。俺のただの独占欲」

 低い声……どこか拗ねている感じ。
 思わず笑ってしまった。

「嫉妬ですか?」
「うん、そう」

 即答だった。

「……慧さん、ずるいです」
「何が」
「そうやって、さらっと言うところ」
「好きな女には隠さない主義」

 そのまま手首を引かれる。

「莉央」

 名前を呼ばれる。
 優しく。
 甘く。
 視線が絡むだけで、胸が熱い。

「……そんな見ないでください」
「無理。今日ずっと思ってた」
「なにを?」
「早くふたりきりになりたいなって」
「~~~~っ!!」

 耳元で囁かれて、莉央は思わず慧のコートを掴む。

「かわいい」
「……慧さん、今日ちょっと意地悪?」
「好きな子とデートしてる男なんて、だいたいこんなもんだろ」

 そのまま、慧の指が莉央の手に絡む。
 ぎゅ、と恋人繋ぎ。
 夜景の光が、ふたりの間を優しく照らしていた。

To be continued