黒瀬部長は部下を溺愛したい



「……白石さん」
「はい?」
「それ、やり返しのつもり?」
「はい」

 数秒沈黙。

「あれ……部長、顔赤い……ですよ?」
「……誰のせいだよ」
「さあ?」

 にこっと笑う莉央。
 その瞬間……。
 慧の手が、莉央の手首を軽く掴む。
 ぐっと引き寄せられて、壁際へ。

「……調子乗りすぎ」
「っ……!」
「仕返しのつもりなら、最後まで覚悟してやらないと」

 低い声。
 完全にスイッチが入ってる。

「ぶ、部長……あのっ」
「……可愛すぎて、こっちが我慢できなくなる」
「……っ、それは……」
「今は会社だから、これくらいで勘弁してやる」
「……ごめんなさい……」
「遅い」

 そっと、誰にも見えない角度で指先だけ、優しく撫でる。

「……でも、いいよ。そういう莉央、好き」
「……っ」
「今度は、ちゃんとふたりきりのとこでやって」
「………はい」

 ◆

 その日の夜。
 仕事終わり。
 帰ろうとした莉央のスマホに、一通のメッセージ。

『今日、このあと時間ある?』

 胸が、どくんと鳴る。

『あります』

 送ってしまった時点で、もう逃げ場はなかった。

 ◆

 慣れた道のりで慧の部屋へ向かう。
 インターホンを鳴らすと、返事の代わりに玄関が開く。
 ゆっくりと閉まった瞬間、空気が変わって……。

「……で?」
「……で、って……」
「昼間のこと、覚えてる?」
「……ちょっとだけ……」
「ちょっと、ねぇ……」

 慧が一歩、近づく。

「……あれ、反則だから」
「……慧さんだって、いつも……」
「俺はいいの」
「ずるい……」
「うん。で、その『ずるい男』に仕返ししたんだよな?」
「……はい……」

 慧、ふっと笑う。
 でもその目は、完全に逃がさない色。

「もう一度、やってみて」
「え……」
 
 そっと、手首を取られて引き寄せられる。
 優しいのに、逃げられない力。

「昼間みたいに、やってみて」
「……え?」
「ほら。近寄って、耳元でなんか言ってたでしょ」
「む、無理です……!」
「なんで。昼間はできたのに?」
「だって今………」
「同じだよ。俺と莉央」

 低くて甘い、莉央が苦手な声。
 そのまま少し顔を近づけてくる。

「ほら、やって」
「……っ……」

 玄関だから逃げ場がない。
 仕方なく、少しだけ近づく。
 でも……。

「あ……あの……」
「全然ダメ。やり直し」
「えぇ……」

 ぐっと近寄ってくる慧。
 昼間よりも近い距離にキスの二文字がちらつく。

「……ほら」
「……っ………ずるい、です……」
「……残念、不合格」

 そのまま、一気に抱き寄せられる。

「っ!?!?」
「もう、俺が無理」

 そのまま、頬に、こめかみに、軽くキスが落ちていった。

To be continued