黒瀬部長は部下を溺愛したい



 午後のオフィス。
 あの社員旅行から数日が過ぎた。
 社内は次回の大型プロジェクトに向けて大忙し。
 今日はその会議があるのだが。

「なんか会議のスタートが少し遅れるって~」
「ええ~、まじか」
「少しってどれくらいだろ」
「ん~、2、30分くらいじゃない?」

 各々会議の資料を見ながら少しだけ緊張がほぐれる。
 なんと言っても今日の会議は部長や取締役も参加する大事なものだから。

(いくら慧さんが彼氏でも、こういう場面はやっぱ緊張するなぁ……)

 職場での慧は誰からも恐れられているが、誰からも信頼されている。
 部下の面倒見もよく、異性からは告白されることもしばしば。

(あんなに強面なのに、一緒にいると全然違うんだよねぇ)

 社員旅行の出来事を思い返して頬が緩む莉央。
 そんな時……。

 ガチャ!

「遅れてすまない。準備できてるか?」
「はい、大丈夫です」
「矢田さん、始めましょう」
「ああ」

 矢田と呼ばれたのは取締役。
 普段はあまり社内で見かけることはないが。
 密かな噂くらいは聞いたことがある。

 『取締役って、実は裏でめちゃくちゃ女、泣かせてるらしいよ』

 そんな噂は一体どこからきたのか分からないが。
 本人を見てからだと、少し納得してしまう。

(慧さんとは違ったタイプのイケメンだ……)

 矢田を見ていた莉央の足元で何かが当たる。

 コツン……。

(ん……?)

 そっと視線を下げると、隣の席に座っていた慧の靴先が莉央の足に触れていた。

(な、な、なに!?)

 チラッと慧の方を見るが、彼は莉央ではなくプロジェクターを見ていた。

(ちょっと、どういうつもり!?)

 しばらくじっとしていたが、なかなか離れていかない。
 むしろ、少しだけ寄ってきている。

 (なに考えてるの、慧さん……っていうか会議中っ……!)

 顔を上げると、普通に会議進行中。
 慧は何事もない顔で話してる。
 でも……。

(なんで足そのままなの。全然集中できないんですけど……)

 なるべく平気な顔して会議に耳を傾ける。

「……であるから、今回のターゲットには……」

 進行の内容が右から左へと流れていく。

 すり……すりっ……。

「っ……!?」

 思わずペンを落としそうになる。

「白石さん、大丈夫?」

 ものすごい普通に話しかける慧。

「だ、大丈夫です!」

 そう答えた莉央に、慧の口元が一瞬笑った気がした。

To be continued