黒瀬部長は部下を溺愛したい



 今年の社員旅行の行き先は温泉旅館。
 研修という名目もあるが。
 温泉に宴会にと、浮かれる社員たちの声がバスの中に響く。
 莉央の隣には同期の女の子。
 だけど、視線は少し前の席に座る慧の方へ。
 仕事モードの時はスーツでばっちりキメていて、指示を飛ばすその横顔がもう……反則。
 だけど今日は全員私服。

(やっぱり……慧さんの私服姿、かっこいい……)

 そんなことを考えていたら、ふと慧と視線が合って。
 目だけで、「大丈夫?」って聞かれてるようで。
 莉央が少しうなずくと、慧の口角がほんの少しだけ上がってた。

 ◆

 旅館に到着し少しの自由時間の後は大浴場へ。
 その後も食事会があり、チーム対抗レクリエーション。
 自然と慧を目で追う莉央。

(あ、いた。浴衣っ……似合い過ぎる……)

 その色気につい見つめていると、またまた視線が合う。
 いつもと違う雰囲気につい視線を逸らしてしまった。

(ううう……絶対感じ悪いよね、今の……)

 反省の念で、つい酒が進む。
 酔い過ぎる前に莉緒は自販機に向かった。

「水、水……」
 
 ピ……ガコン!
 
 気づけば後ろから、そっと伸びてきた手にボタンを押されていた。

「慧さ……黒瀬部長!」
「水だろ?」
「はい、ありがとうございます」

 でも、どうしてこんなところに慧さんが……?
 とか考えていると。

「莉央、ちょっとこっちに来て」
「はい」

 慧に連れられてきたのは、慧の宿泊部屋。

「ここって……」
「俺の部屋。高木はまだ宴会場で飲んでる」
「そ、そうなんですね……」

 急な2人きりに莉央の心臓がドクドクし始める。
 浴衣姿の慧にドキドキしっぱなしの莉央を慧が正面から抱き締めた。

「はぁ……ずっとこうしたかった」
「……私も、です」

 久々の慧の心地のいい体温に、莉央は背中に手を回した。

「莉央の浴衣姿、想像以上にやばいな」
「それは、慧さんもですよ」
「そう? ごめん、限界だからキスしていい?」
「……はい」

 ほんのりお酒の香りがするキス。
 アルコールの匂いも相まって、酔いが回る。

「ふぁ……んっ……慧さ、んっ……」
「そんな甘い声出さないで……我慢できなくなる」
「んんっ!」

 声を塞ぐようなキス。
 抱きしめ合うと薄い生地の向こうにある肌の温度が感じられる。

「慧さ、ん……」

 キスに夢中になっていたその時。

 ガチャ!

「え!? うそ……」
「っ!? 莉央、こっち」

 慧は慌てて莉央の手を引いて、近くにあった押入れに入った。
 中は狭くて暗くて……。
 慧の上に覆い被さる体勢で、互いの息が肌に触れ合う距離。

(ち、近すぎるっ……!)

「あれ? 黒瀬? おかしいなぁ、まだ帰ってきてないのか」

 同部屋の高木の声に2人は声をひそめた。
 だけど……。

「!? ちょ、慧さ……ん?」
「しっ……」

 腰に回された慧の腕に莉央の頬が熱くなった。

To be continued