黒瀬部長は部下を溺愛したい



 莉央の風邪が治って数日後の金曜日。
 その日は社内の軽い飲み会があった。
 部署も役職もバラバラ、他愛もない話題で盛り上がっていたとき……。

「そういえば、白石さんって、最近めっちゃ可愛くなったよな~」
「わかる! 雰囲気も柔らかいし、あの笑顔……あれは可愛いって」
「俺、けっこう気になってるんだよね~。あのタイプ、めちゃ好み」

 軽いノリの、男同士の会話。
 誰もいないと思っていた背後に男は気づいていなかった。
 グラスを片手に……慧が立っていたことに。
 低く、鋭い声が、その場を凍りつかせる。

「お前ら……」

 その声に全員が振り返る。
 慧は、静かに笑っていた。
 でも、目は笑っていない。

「そういう発言はセクハラになりかねない。気をつけろ」
「あ……はい」
「すみま……せん」

 空気が、ピリッと張り詰める。
 慧はグラスを置いてお手洗いへと姿を消した。
 ちょうどその時、莉央が戻ってきて……。

「慧さ……あれ? なんか機嫌……」
「莉央、ちょっとこっち来て」

 飲み会を抜けて、静かな人気のない場所。
 慧は、手を引いたまま、莉央の顔をじっと見つめた。

「慧さん、どうかしたんですか?」
「さっき……莉央のことが気になるって言ってたやつがいたんだ」
「えっ……」
「別に、莉央が悪いわけじゃない……でも、俺、やっぱ無理」

 莉央が何か言う前に、慧はそっと抱き寄せた。

「……俺、莉央のことになると、全然余裕ないわ」
「……慧さん……」
「誰にも触れさせたくないし、見られるのも嫌。俺だけが、莉央の隣にいたい」

 抱きしめる手が、強くなる。
 まるで、もう二度と離さないとでも言うように。

「莉央が、俺の彼女だって言いたくて仕方ない」
「……でも、今もずっと慧さんの彼女、ですよ?」
「………」

 ほんのり赤い頬の莉央が慧を見上げる。
 そのまま、軽く唇が触れる。

「ん……」
 
 愛しさがあふれて、止まらなくて……。
 何度も、何度も莉央の唇を追う。

「莉央、大好き……」

 その言葉に、莉央の頬が赤く染まって、目が潤んだ。

「……ずるいです。そんなの、私のほうが嫉妬しちゃう」
「なら、ずっと俺の隣にいてくれるか?」
「……はい」

To be continued