さよなら、バスタブの夫と子どもたち。

「ほら、早く食べちゃって」

 わたしは食器を洗いながら眠そうな娘にいう。

「今日は日曜日だもーん。だらだらするって決めたの!」

 朝十時近いというのにパジャマ姿の娘に、わたしはため息をつく。
 今年で小学五年生になった娘は、日に日にわたしに顔も性格もそっくりになっていく。なんだか少し心配だ。

「でも、お父さんもお兄ちゃんも、いつも通りに起きてとっくに朝ごはんは済ませたのよ」
「お父さんとお兄ちゃんは、テイケツアツじゃないんだよ」

 娘はそういうと、トーストにイチゴジャムをべったりぬってテレビに釘付けになる。

「あ、起きたのか。おはよう。食べたら買い物行こうか」

 そういってダイニングに入ってきたのは夫。
 彼は既に外出着に着替えており、娘にやさしくいった。
 そしてわたしのほうを見て、続ける。

「食器洗いなら、おれがしたのに……」 
「その気持ちだけで充分」

 わたしはそういってにっこり笑う。
 すると、息子がダイニングに入ってきてぽつりと一言。

「母さんは、父さんに甘いんだよなー」
「本当だよ~。むしろ娘と息子には厳しいよね」と娘。
「なーにいってんの」

 わたしはそういって笑うと、息子を見る。
 今年、中学一年生になる息子は、日に日に夫に似てくる。顔も性格も本当にそっくりだ。
 息子を見ていると、夫と出会った頃を思い出す。

真知子(まちこ)ー! いつまで入ってるのー!」

 母の声にわたしはハッと我に返る。
 手のひらはしわしわになっていて、お風呂のお湯はいつの間にかぬるくなっていた。
 追い炊きはガス代がかかるからと母が嫌がるけど、出られないほど寒いからスイッチを回す。
 少しずつ温まるお湯に、なんだかホッとする。

「結構、長湯しちゃったな……」
    
 わたしは、そうつぶやいてため息をつく。
 それからお風呂を出て、「あんまり遅いと湯舟で溺れてるのかと思うでしょ」と訳の分からない心配をする母の声を背に、ドライヤーをかける。

 さっきまでわたしは桜田くんの妻だった。 息子(十三歳)娘(十一歳)もいる。

 まあ、ぜんぶ妄想だけどね!

 本当のわたしは、この春、中学一年生になったばかりだ。
 平成六年、四月。
 ピカピカの一年生。

「あ、このドラマ人気なんだっけ。観ておかないと」

 わたしはそうつぶやいて、ドラマを観る。
 今流行しているトレンディドラマ。男女四人がなんやかんでくっついたり別れたり忙しい。
 あまり面白いと思えない。だって所詮は他人事。
 わたしの桜田くんと家族築く脳内ドラマのほうが百倍おもしろいと思う。
 だけど、そんなこと誰にもいえない。変な奴って思われちゃう。
 それでもわたしは妄想をやめられない。
 初恋で浮かれているのかな……。 

 わたしはドラマをぼんやりと眺め、いつのまにか心は過去に戻っていた。

 桜田くんを意識するようになったのは、入学式から一週間が経った頃だ。