真夏の1等星


高1の夏。
私は世界で一番大切な恋をした。
忘れられない恋だった。




6時30分
目覚ましの音で目を覚ます。
起き上がるのがめんどくて
このまま二度寝をしよう。ともう一回布団に潜ろうとすると、一階のリビングから
「祈莉(いのり)ー!朝だよー起きてー」
というお母さんの声が聞こえてきて仕方なくベットから起き上がり、制服に着替える。
洗面台で顔を洗い、髪を整えてから一階に降りてリビングに向かう。


リビングに行くと丁度お母さんが朝ごはんを並べていた。
「おはよ、お母さん」
と声をかけて椅子に座ると
「祈莉。おはよう」
とお母さんも椅子に座りながら返してくれた。 
私達は、「いただきます」と手を合わせて、朝ごはんを食べ始める。



「ごちそうさまでした。行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
とお母さんに見送られ
いつもの時間にいつもの電車に乗る。
そんないつもと変わらない時間を過ごしていたけれど今日はいつもとは少し違った。
私が乗った次の駅で見たことのある人が乗り込んできたのだ。


それは同じテニス部で一つ年上、そのうえ学校の人気者の水瀬颯斗(みなせはやと)先輩だった。
先輩は私を見つけるとなぜか私の方に向かって歩いて来て、そして隣に座ると声をかけてきた。
「おはよう。祈莉ちゃん?だよね」
「おはようございます。水瀬先輩。祈莉で合ってます。でもなんで私の名前なんか知ってるんですか?」
こんな人気者の先輩が私のような至って普通な、しかも同じ学年でもない私の名前をなんで知っているのか、しかも同じ電車に乗り合わせるなんて。と不思議で仕方なかった。
「なんでって‥同じ部活なんだから知ってて当たり前じゃない?祈莉ちゃんだって僕の名前知ってるんでしょ?」
当たり前だ。
先輩は学校の中心にいて、いつも誰かが先輩の話をしている。
そんな人の名前を知らないわけがない。
「それは‥知ってて当然です。」
「それじゃあ僕が祈莉ちゃんの名前を知ってても不思議じゃないね」
にこにこの笑顔でそう返されてしまって私は口を塞ぐしかなかった。


「ところで祈莉ちゃんはなんでこんなに朝早い電車に乗ってるの?」
「私は‥朝練に参加するためです」
「偉いね」
「先輩こそなんでこんなに早いんですか?」
まだ、学校へ行くには少し早すぎる。
この時間、電車内にも私達の他には同じ学校の生徒は乗っていない。
「僕?僕はやってない課題があって学校で終わらせようかなーって」
穏やかにそして笑顔でそう言う彼の声に私は安らぎを覚えた。
 

学校の最寄り駅に着くと2人揃って電車から降りる。
そうして学校に向かうのだが‥
「ねぇ!あの男の子めっちゃかっこ良くない!?」
「わかるー!!思った!」
そんな会話が遠くから聞こえてくる。
「先輩‥すごい人気者ですね」
私は声のする方を向きながら話しかける。
「まあ、もう慣れたから」
先輩はそう少し疲れたような声でため息混じりに答えた。
そりゃあ歩いているだけでこんなに人気者なんだから大変なこともあるだろう。
そこかしこから自分の噂話が聞こえる。それはストレスを感じるはずだ。
そんな風に考えていたら学校に着き、私達は自分の昇降口に向かうために分かれた。


丁度昇降口に入った所で後ろから声をかけられ振り返るとそこには私の大親友の橘陽葵(たちばなひまり)がいた。
「祈莉ー!おはよ!」
「おはよー陽葵」
2人で教室に向かい中へ入ると、昨日の席替えで陽葵の後ろになった自分の席に座る。
陽葵はすぐに振り向き、後ろに座っている私に話しかけてきた。
「ねぇねぇー今日の放課後、新しくできたパフェのお店に行かない?」
「良いね。行こ!」
そんな話をしていると予鈴が鳴ったので陽葵は慌てて前を向いた。

お昼休みになると陽葵は私の方を向き、
「一緒に食べよ!」
と笑顔で言った。
「良いよ。今日は屋上で食べない?」


屋上に2人で向かっている途中、水瀬先輩を見かけたが
いつものように周りには沢山の人がいたのでなんとなく気まずく、目を逸らしてしまった。


屋上に着くと眩しいくらいに青々とした晴天が広がっていた。
私達は早速お弁当箱を広げてお昼を食べ始めると陽葵がこっちを向いて、キラキラした目で私のお弁当箱を覗き込む。
「祈莉のお弁当めっちゃ美味しそうだね!!」
私は嬉しくなって
「このハンバーグいる?」
と言っていた。
するとなぜか後ろから声がした。
「僕も貰っていい?笑」
私はバッと後ろを向いた。
「‥水瀬先輩!‥」
陽葵も驚いた顔をして
「水瀬先輩って‥あの水瀬颯斗先輩!?」
と言っている。
「君も僕のこと知ってるの?嬉しいなー」
「勿論です!ところで颯斗先輩‥何でここに?」
それは私も同じことを思っていた。
「廊下で目が合ったからなんとなく気になって」
颯斗先輩はそう言いながら笑った。
「目、合ってないですよね。」
私は先輩を見かけて、目を逸らしたのだ。
「あれ?気のせい?はっきり見つめ合った気がしたのに。」
「‥‥冗談やめて下さい」
「冗談じゃないかもよ?笑」
意味深だ。
「キャーー!!」
陽葵はあんなにイケメンの颯斗先輩がこんなことを言っているのを目の当たりして叫んでいる。
「‥ハンバーグ食べたいんですか?」
「え‥?」
「言ったじゃないですか」
「あぁ、まあ、‥うん、そうだね」
「食べます?」
「‥うん」
私は自分のお弁当箱にあったハンバーグの一つを陽葵と先輩のお弁当箱に移す。
「やったーー!」
「ありがとう」
そう言ってから2人は食べ始める。
「どう?」
「めっちゃ美味しいー!」
「美味しいよ」
私は、うんうんと、頷いた。
「本当にお母さんのハンバーグは美味しいんだよねー」

キーンコーンカーンコーン

お昼休みの終了をお知らせするチャイムが鳴った。

「ヤバ!早く戻らなきゃ!」
「水瀬先輩。また放課後に」
「うん。バイバイ」

バタバタ
私達は急いで屋上をあとにした。


5時間目は美術で学校のどこかの場所を書くというお題だった。
私は校庭にある桜の木を描こうと思って桜の木に向かっていると、先輩がいた。
先輩は体育の授業だったみたいで、サッカーをしていたが、試合が終わり、コートから出ようとしている途中、私に気づいたらしく、こちらに向かって歩いてきた。
そして私の前まで来ると、
「この桜の木を描こうとしてたの?」
「はい」
「良いよね、この桜の木。この学校ができた頃に植えられてずっと残ってるんだもんね」
「みんなの想いが詰まってるって感じがします」
「うん。‥じゃあ描くの頑張ってね」
「はい」
そう言って先輩はサッカーの試合に戻って行った。



6時間目。
6時間目は数学の授業だった。
私は数学が得意ではないので授業についていけず、ふと窓の外を見ると向こうの校舎の2年A組の教室からこちらを向いている水瀬先輩がいた。
なんで‥
今日はやけに先輩と会ったり目が合ったりする。
しかもこんな偶然まで起きるなんて。
すると先輩もこちらに気づいたようで先生にバレないくらい小さく手を振った。



放課後。

ブーブー

スマホが震えた。
確認してみると水瀬先輩からラインが来ていた。
特にラインを追加した覚えはないのだが、きっとテニス部のグループラインから勝手に追加したのだろう。

『放課後、教室にいてね。』

そう一言だけ来ていた。

返信しようと文章を打っていると
ガラガラ
教室の扉が開いた。

「待った?ごめんね」
「全然待ってません。ライン来てから3分しか経ってませんし」
「そっか。今日はね、ちょっと言いたいことがあったんだ。」
先輩がそんな前置きをするなんて珍しい。
「どうしたんですか?」
「‥もうすぐ文化祭じゃん?」
先輩に言われて思い出した。
そういった行事には率先して参加していなかったので特に気にしていなかったから。
「そうですね。」
「‥僕と一緒に文化祭、回ってくれない?」