届かなかった恋。


結果は、聞くまでもなかった。
次の日、教室に入った瞬間にわかる。
涼花が、少しだけ照れたように笑っていて。
聖真が、いつもより少しだけ落ち着かない様子で。

それでも、二人の間に流れている空気が、全部を物語っていた。

「おはよ、雅也」
いつも通りの声。
でも、どこか少しだけ違う響き。
「おはよう」

僕も、いつも通りに返す。
それでいいと思った。
それで、よかった。

放課後、教室のドアを開けた瞬間だった。
「——でさ、その時さ」

楽しそうな声が聞こえる。
視線を向けると、窓際で二人が並んでいた。
涼花と、聖真。

距離が近い。
でも、それはもう“ただ近い”だけじゃない。
自然に並んで、自然に笑っている。
その光景が、やけにしっくりきてしまう。

「あ、雅也」
涼花が気づいて手を振る。
「おつかれ」
「……おつかれ」

いつも通りに返す。
それだけでいいと思った。
それ以上近づく理由も、離れる理由もない。
ただ、その場にいるだけ。

二人の会話を、少しだけ聞く。
何でもない話。
でも、確かに楽しそうで。

その空気の中に、自分はもう必要ないんだと、静かに理解する。
「……先帰るわ」

小さく言って、教室を出る。
引き止められることもなかった。
そのことが少しだけ寂しかった。

帰り道、僕は一人だった。
夕焼けが、やけに綺麗だった。
ポケットの中には、あの手紙がまだ入っている。

家に帰って、机の引き出しを開ける。
その奥に、そっと手紙をしまった。
捨てることはできなかった。
でも、もう持ち歩く必要もない。

引き出しを閉めて、少しだけ息を吐く。
静かな部屋の中で、自分の心臓の音だけがやけに響く。

——これで、終わりだ。

そう思った。
それなのに、不思議と涙は出なかった。
代わりに、少しだけ、笑えた。

「……ま、渡さなくてよかったのかもな」

小さく呟いた声は、思っていたよりも軽かった。
後悔なんて微塵も感じていない。二人が幸せになったならそれだけで満足だ。

あの手紙は、これからもずっと、あの場所に残り続ける。
僕が誰かを好きだった証拠として。

そして——

きっと、誰にも読まれることのないまま。
その恋は、最後まで渡されることはなかった。