届かなかった恋。

新しいクラスにも、すぐに慣れた。
授業が始まって、席替えをして、どうでもいい会話を繰り返して。

去年と同じような毎日が続く。
涼花は相変わらずよく笑って、よく喋る。
僕にも、今まで通り話しかけてくる。
関係が何一つ変わってないことが僕には嬉しかった。

放課後の教室は、昼間のざわつきが嘘みたいに静かだった。
窓の外から聞こえる運動部の声と、カーテンが揺れる音だけが、ゆっくりと時間を進めている。

「ねえ雅也、ちょっと残っていい?」
帰ろうとしていた僕に、涼花が声をかけてきた。

「ん?いいけど」
「課題終わってなくてさ」

そう言いながら、少しだけ困ったように笑う。
「昨日何してたんだよ」
「普通に忘れてた」
「威張るなって」

そんなやり取りをしながら、僕は席に戻った。少し遅れて、聖真も椅子を引く音がする。

「お前も残るのかよ」
「部活まで時間あるし」
「聖真は優しいねー」

涼花がからかうように言うと、聖真は少しだけ肩をすくめた。
「別に、ついで」
そう言いながらも、自然と涼花のノートを覗き込んでいる。

その距離の近さに、ほんの少しだけ目を逸らした。

「ここ、どうやるの?」
「それさっきやったとこじゃん」
「え、うそ」
「うそじゃない」

二人のやり取りは、どこか軽くて、テンポがいい。
僕もそこに混ざりながら、問題を解いていく。
三人でいる時間は、不思議と居心地がよかった。

「てかさ、雅也ってさ」
不意に涼花が顔を上げる。
「なんか落ち着くよね」
「それ褒めてる?」
「褒めてる褒めてる」
「雑だな」

笑いながら返すと、涼花もつられて笑う。
その瞬間が、やけに愛おしく感じた。何でもない時間。特別なことなんて何もない。
でも、こういう時間がずっと続けばいいと、思ってしまう。

「終わったー!」
涼花が大きく伸びをする。

「結局ほとんどやってないだろ」
「いや、ちゃんとやったし」
「ほとんど僕らがな」
「細かいこと気にしない」

そんなやり取りのあと、三人で教室を出る。
廊下に差し込む夕焼けが、やけに綺麗だった。
この時間が、ずっと続けばいいのに。
その時の僕は、本気でそう思っていた。