罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

「……何だと?」

カシリアの思考が停止した。

予想していた言葉とは、あまりにもかけ離れていた。

満足?誰が?何に?

「エリナ様のことです。……殿下は、以前からご存じだったのでしょう?」

ロキナの声は、次第に熱を帯び、糾弾の響きを強めていく。

「彼女が、公爵家の“私生児”であることも。そして、このタイミングで公表されることも」

「……いや、俺が知ったのは今日の朝だ。決して以前から――」

「嘘をおっしゃらないでください!」

ロキナが叫んだ。

その一喝は、王太子の弁明を切り裂き、夜気を震わせた。

「知っていたからこそ、あれほど必死に“名声”を用意してあげたのではありませんか?」

「名声……?」

「そうです。どこの馬の骨とも知れぬ私生児が、いきなり公爵家に迎え入れられれば、社交界の笑いものになる。……だから、殿下が直々に“お墨付き”を与えた」

ロキナは一歩踏み出し、カシリアを睨み上げた。

「王太子殿下が親しく言葉を交わし、手を取り合い、指切りまでした少女。……そんな噂が広まれば、誰もエリナ様を軽んじることはできません。彼女は一夜にして“王太子のお気に入り”という最強の盾を手に入れる」

「そのために……!」

ロキナの声が震える。

怒りと、そしてリリスへの悲しみで。

「そのために、リリス様の立場を、誇りを、どれほど踏みにじったか……分かっているのですか!?」

カシリアは呆然と立ち尽くした。

言葉の意味を理解するのに、数秒の時間を要した。

彼女は言っているのだ。

俺が、エリナをタロシア家に円滑に迎え入れさせるために、意図的にエリナと親しく振る舞い、リリスを追い落とすための布石を打ったのだと。

「ち、違う……!俺はそんなつもりじゃ……!」

「では、何のおつもりだったのですか!」

ロキナの追及は止まらない。

「リリス様は、あれほど努力していました。血を吐くような思いで、完璧な令嬢であろうとしていました。……それでも殿下にとっては、邪魔な存在だったのですか!?」

「新しいお気に入りのために、古びた婚約者候補など、捨ててしまおうと……そうお考えだったのですか!?」

「ロキナ……!何を言っているんだ……!俺は彼女を守りたいんだ!」

カシリアは叫んだ。

本心だった。

魂からの叫びだった。

だが、ロキナはその言葉を聞いて、哀れむように、そして軽蔑するように目を細めた。

「……そう、ですか」

「ああそうだ!俺はリリスのために――」

「ならば」

ロキナは冷徹に、決定的な一撃を放った。

「あの祝賀会の夜。……殿下は、何をしておられましたか?」

「……祝賀会?」

「あの夜、殿下は『リリスを探しに行く』と仰って、私を馬車に残しましたよね」

カシリアの心臓が跳ね上がった。

そうだ。

リリスの自殺未遂を隠蔽するため、ロキナを遠ざけた。

リリスの名誉を守るための、苦肉の策だった。

「私は……それでも心配で、我慢できずに会場へ入りました。貴族たちに尋ねて回りました。リリス様を見かけなかったかと」

ロキナは淡々と、事実を羅列していく。

「ですが、誰も知りませんでした。……その代わり、別の噂を耳にしました」

「殿下が、バルコニーで“身元不明の美しい少女”と親密に話し、手を取り合っていたと」

「……ッ!」

カシリアは息を呑んだ。

カーテンの揺れるバルコニー。

エリナの無邪気な笑顔。

つられて笑った自分。

そして、別れ際の指切り。

――すべて、見られていたのか。

「その少女が、“エリナ”と名乗りながら家名を明かさなかったことも……すでに広まっています」