罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

「はい、何でしょう?」

リリスは懐から金貨入れを取り出し、ロキナの手に握らせた。

「さっき私が二階で見ていた、雪の結晶のネックレス……あれを、特注で頼んでおいて」

「えっ?お嬢様が選ばれたのですか?」

「ええ。デザインの変更点も伝えてあるわ。……夕方に、あなたが受け取りに来てちょうだい」

嘘だ。

店員になど何も伝えていない。

だが、ロキナはそれを知らない。

「え……あ、はい!かしこまりました!」

ロキナは驚きつつも、主人の命令に即座に頷く。

「急でごめんね。私は先に、馬車で戻るから」

「えっ!?お嬢様お一人でですか!?それは危険です!」

「大丈夫よ。御者もいるし、屋敷までは一本道だもの」

リリスはロキナの反論を封じるように、力強く彼女の手を握った。

その手袋越しに伝わる冷たさに、ロキナは息を呑む。

「お願い、ロキナ。……あなたにしか、頼めないの」

懇願するような、縋るような瞳。

ロキナはその視線に射抜かれ、何も言えなくなった。

「……わかりました。必ず、完璧な品を受け取ってまいります」

「ありがとう。頼りにしているわ」

リリスは一瞬だけ、本当に安堵したように微笑み、そして馬車へと乗り込んだ。

扉が閉まる。

ロキナが店へと駆け出していく姿を、窓の隙間から確認する。

これでいい。

馬車が動き出すと同時に、リリスは座席に深く沈み込んだ。

全身の力が抜け、指先が微かに震えだす。

「……はぁ……ッ」

漏れ出したのは、嗚咽に近い溜息だった。

ロキナを遠ざけたのは、特注品のためではない。

これから私が向かう場所――「家」という名の地獄に、彼女を巻き込みたくなかったからだ。

そして、これから私が演じなければならない「喜劇」を、彼女に見られたくなかったからだ。

屋敷に戻れば、父がいる。

もしかしたら、ミカレンも来ているかもしれない。

そして、あのエリナの話が出るだろう。

『実は、お前に紹介したい人がいるんだ』

『とても元気で、いい子なんだ』

『お前もきっと気に入る』

父は、無邪気にそう言うに違いない。

私の心が血を流していることになど気づきもせず、自分たちの「幸せな家族計画」に私を組み込もうとするだろう。

拒絶すれば、父は悲しむ。

泣き叫べば、私は「聞き分けのない娘」になる。

だから私は、笑わなければならない。

「おめでとうございます、お父様」

「新しいお母様とお姉様ができるなんて、嬉しいです」

そう言って、完璧な娘として祝福の言葉を述べなければならない。

たとえその言葉が、私の魂を殺す猛毒であったとしても。

ロキナがいれば、きっと私の異変に気づいてしまう。

彼女は優しすぎる。

私のために怒り、私のために泣いてくれる。

だからこそ、邪魔なのだ。

この地獄を歩くのは、私一人でいい。

私の罪が招いた因果なのだから、私が一人で飲み干すべき毒杯なのだ。

時間は、十分にある

屋敷に着くまでに、震えを止め、涙を乾かし、完璧な仮面を被り直す時間は。

リリスは窓の外、黄金色に輝く王都の街並みを眺めた。

その光景は、涙で滲んで、揺れていた。

これから始まるのは――

私が“主演”を務める、

温かくて、残酷で、そして誰も救われない、

家族の喜劇なのだから。