決意した私は指導室へ一直線に向かった。
今こそ担任教授に学生会会長の立候補を撤回しなければ――
「リリスさん? あら、ちょうどいいところに来ましたね」
声をかけようとした私が先に言葉を発するよりも早く、担任が話しかけてきた。
「先ほど庭の掲示板に貼られた選挙の結果、見ましたか? 王子殿下とはわずか9パーセントの差ですよ!」
担任は興奮した様子で笑っている。
期待されていると感じた。
「この9パーセントの差は、他の人にとっては致命的かもしれませんが、リリスさんなら問題ありません。あとは王家テストを普通にこなせば、必ず勝てます。そうなれば、リリスさんは学院設立以来数百年の歴史で初めて王族を打ち破り、学生会会長になるでしょう!」
担任の言葉は鋭く私の胸を刺し、痛みを伴った。
ええ、その通りだ。
王族を上回り、これまで誰も辿り着けなかった高みへ至った私は、公爵家に無上の名誉をもたらし、教授たちにとっても学院の実力を示す存在になるだろう。
前世の私は学生会長として社交界の動きを支配していた。
父上もとても喜んでくれただろうし、天国の母上もきっと喜んでくれただろう。
……でも、今回はやめなければ。
王子殿下との接点を断たなくては。
不自然な作り笑いを浮かべ、何か言いたげな私に担任が気づいたらしい。
「ところでリリスさん、今日は何の用件ですか?」
「褒めていただきありがとうございます。実は、今日は……学生会の立候補を辞退しようと――」
「な、何ですって!?」
私の発言に驚いた担任が大声をあげた。
やがて他の科目の教授たちも集まってきた。
「それは、国王陛下から何か言われたのですか?」
「リリスさん、ここは王家学院です。たとえ国王陛下の意向であっても、王子殿下を優位にするためにリリスさんに辞退させるようなことは、我々は見過ごせません」
「ここは長くラミエル侯爵家が守ってきた神聖な学術系学院です。公平という学院の規則に干渉させるわけにはいきませんよ」
教授たちは私を安心させるように説明していた。
もちろん、私も事情は分かっている。
ここは長年にわたり厳しく管理されている場で、王族にへつらうようなことはない。
だがそれでも、私には別の事情があるのだ。
「違います。私自身の都合で、もう学生会会長に相応しいとは思えないのです。ご期待に沿えず申し訳ありません」
「リリスさん……」
教授たちは一瞬言葉を失い、指導室には気まずい空気が漂った。
心が重く、完璧な笑顔も罪悪感で崩れそうになる。
「リリスさんは、もう子供ではありませんよ」
沈黙を破ったのは担任だった。
「公爵家の唯一の後継者として、リリスさんは将来家を継ぐために多くを成すべきでしょう? もしリリスさんが学生会会長になれば、公爵様も、そして亡くなったサリス様も喜ばれるはずです」
その言葉を聞くと、父上と母上のことを思い、もともと不安定だった心が耐えきれなくなった。
「そうですよ。一生に一度のチャンスです。ここから逃げたら公爵様も悲しまれるでしょう」
「私にもリリスさんと同い年の娘がおります。もし同じことが起きたら、私も心の底から娘に頑張ってほしいと思います」
「子が立派な成績をとった瞬間こそ、親として一番嬉しいときです」
「わ、私は……」
前世の不幸は私のわがままと傲慢が招いたもの、すべては私の責任だった。
たとえ学生会会長になっても、王子殿下への恋心さえ抱かなければ事態は違ったのかもしれない――そう考え、胸が締めつけられた。
「わかりました。私、もう少し頑張ってみます」
「リリスさんがそう言ってくれるなら、我々も嬉しいです。では今日の件はなかったことにしましょう」
力なく笑い、感謝を口にしながら、私は重い体を動かし、動揺を必死に隠して教室へ戻った。
今こそ担任教授に学生会会長の立候補を撤回しなければ――
「リリスさん? あら、ちょうどいいところに来ましたね」
声をかけようとした私が先に言葉を発するよりも早く、担任が話しかけてきた。
「先ほど庭の掲示板に貼られた選挙の結果、見ましたか? 王子殿下とはわずか9パーセントの差ですよ!」
担任は興奮した様子で笑っている。
期待されていると感じた。
「この9パーセントの差は、他の人にとっては致命的かもしれませんが、リリスさんなら問題ありません。あとは王家テストを普通にこなせば、必ず勝てます。そうなれば、リリスさんは学院設立以来数百年の歴史で初めて王族を打ち破り、学生会会長になるでしょう!」
担任の言葉は鋭く私の胸を刺し、痛みを伴った。
ええ、その通りだ。
王族を上回り、これまで誰も辿り着けなかった高みへ至った私は、公爵家に無上の名誉をもたらし、教授たちにとっても学院の実力を示す存在になるだろう。
前世の私は学生会長として社交界の動きを支配していた。
父上もとても喜んでくれただろうし、天国の母上もきっと喜んでくれただろう。
……でも、今回はやめなければ。
王子殿下との接点を断たなくては。
不自然な作り笑いを浮かべ、何か言いたげな私に担任が気づいたらしい。
「ところでリリスさん、今日は何の用件ですか?」
「褒めていただきありがとうございます。実は、今日は……学生会の立候補を辞退しようと――」
「な、何ですって!?」
私の発言に驚いた担任が大声をあげた。
やがて他の科目の教授たちも集まってきた。
「それは、国王陛下から何か言われたのですか?」
「リリスさん、ここは王家学院です。たとえ国王陛下の意向であっても、王子殿下を優位にするためにリリスさんに辞退させるようなことは、我々は見過ごせません」
「ここは長くラミエル侯爵家が守ってきた神聖な学術系学院です。公平という学院の規則に干渉させるわけにはいきませんよ」
教授たちは私を安心させるように説明していた。
もちろん、私も事情は分かっている。
ここは長年にわたり厳しく管理されている場で、王族にへつらうようなことはない。
だがそれでも、私には別の事情があるのだ。
「違います。私自身の都合で、もう学生会会長に相応しいとは思えないのです。ご期待に沿えず申し訳ありません」
「リリスさん……」
教授たちは一瞬言葉を失い、指導室には気まずい空気が漂った。
心が重く、完璧な笑顔も罪悪感で崩れそうになる。
「リリスさんは、もう子供ではありませんよ」
沈黙を破ったのは担任だった。
「公爵家の唯一の後継者として、リリスさんは将来家を継ぐために多くを成すべきでしょう? もしリリスさんが学生会会長になれば、公爵様も、そして亡くなったサリス様も喜ばれるはずです」
その言葉を聞くと、父上と母上のことを思い、もともと不安定だった心が耐えきれなくなった。
「そうですよ。一生に一度のチャンスです。ここから逃げたら公爵様も悲しまれるでしょう」
「私にもリリスさんと同い年の娘がおります。もし同じことが起きたら、私も心の底から娘に頑張ってほしいと思います」
「子が立派な成績をとった瞬間こそ、親として一番嬉しいときです」
「わ、私は……」
前世の不幸は私のわがままと傲慢が招いたもの、すべては私の責任だった。
たとえ学生会会長になっても、王子殿下への恋心さえ抱かなければ事態は違ったのかもしれない――そう考え、胸が締めつけられた。
「わかりました。私、もう少し頑張ってみます」
「リリスさんがそう言ってくれるなら、我々も嬉しいです。では今日の件はなかったことにしましょう」
力なく笑い、感謝を口にしながら、私は重い体を動かし、動揺を必死に隠して教室へ戻った。
