罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

「……なんて卑劣な……!」

怒りがマグマのように込み上げる。

父上は、騙されたのだ。

私の知る父上は、責任感の塊のような人だ。

もし自分の過ちだと知っていれば、必ず背負ったはずだ。

それを知らずに、母上と結婚し、私を儲け……その裏で、知らぬ間に種を蒔かれていたなど。

あまりにも残酷な裏切り。

「ええ。私は卑怯な女です」

ミカレンは否定しなかった。

「それでも私は、あの子を“運命の祝福”だと思ってしまった。だから誰にも父親のことは言いませんでした。カストにも。……彼は本当に何も知らないのです。サリス夫人を、心から愛していましたから」

胸の奥の重石が、ほんの少しだけ軽くなった気がした。

父上は、二重生活を送っていたわけではなかった。

母上への愛は、嘘ではなかったのかもしれない。

だが、だからといって許されるわけではない。

結果として、この女の生み出した「歪み」が、今の私を苦しめているのだから。

「未婚で妊娠した私は家族から追放されました。わずかな金だけを渡され、平民街へ行きました。ひとりで子を育てるために」

ミカレンの告白は続く。

それは転落の物語だった。

「でも……私は何も分かっていなかった」

「金はすぐ尽き、仕事もろくに見つからず、体力仕事も続きませんでした。子育てと労働の両立は想像以上に過酷で……エリナには教育も、まともな生活も与えられなかった」

脳裏に、あの無作法なエリナの姿が浮かぶ。

手づかみで肉を喰らい、敬語も使えず、野良犬のように振る舞う少女。

あれは、教育されていないからではない。

教育を受ける機会すら奪われていた結果なのだ。

「平民街では、彼女は“父なしの子”として嘲笑され、喧嘩を繰り返し、私は謝罪と賠償に追われ……やがて“人の家庭を壊した女”という噂まで流れました」

「その地獄のような環境の中で、エリナは荒れ、粗暴な性格になっていきました」

ミカレンの声は涙で湿り、途切れ途切れになる。

「私は……ようやく理解しました。私が夢見ていた幸福は、ただの幻想だったのだと」

「すべては……かつて貴族として甘やかされて育った私の、独りよがりな妄想でした」

貴族の令嬢が、一夜の過ちで全てを失い、泥にまみれて生きる。

自業自得だ。

憐れむべき喜劇だ。

だが、なぜだろう。

その愚かさが、奇妙なほどに胸を刺す。

愛への執着。

選ばれなかった絶望。

「でも……もう、後戻りはできません」

ミカレンが顔を上げた。

その瞳は、もはや貴族の夫人のものではなかった。

子を守るためなら、泥水もすする獣の瞳。

「私は、あの子を産んでしまった」

「だから母として……私は、すべてを賭けて、あの子に“幸福”を与えるしかないのです」

次の瞬間。

鈍く、重たい音が小亭に響いた。

ゴッ、という、骨と石がぶつかる不快な音。

ミカレンは、冷たい石畳に額を打ちつけるように、深く膝を折っていた。

土下座。

プライドの高い貴族が、最も忌み嫌う屈辱的な姿勢。

しかも、自分の娘ほど年の離れた、憎き恋敵の娘に対して。